わたしをひらく みんなとつながる ~無力感の先に見えてきたもの~ 宝泉寺 住職 伊藤信道さん(愛知県津島市)

2016.12.28

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書:寧月

現代の世の中を、軽やかに、そして力強く生きていく上でのヒントとなるような「ことば」をお坊さんにご紹介いただくこの連載。第7回目にご登場くださったのは、愛知県津島市の浄土宗西山禅林寺派・宝泉寺住職、伊藤信道さんです。

伊藤さんが選ばれたのは「わたしをひらく みんなとつながる」ということば。こちらは伊藤さんご自身のオリジナルだそうです。

暗いニュースばかりが続く昨今、どうしても自分を閉じて、他者との関わりを少なくすることによって心を守ろうとしてしまうことは、人間として当然の心理かもしれません。しかし、そんな自分の心の動きを見つめ、しっかりと認めた先に見えてくるものがある。そう、伊藤さんはおっしゃいます。

個別の「私」という枠を超え、大きな「わたし」へと開かれたとき、そこにはどんな世界が待っていてくれるのでしょうか?

書家の寧月さんの作品とともに、厳しくもあたたかい、スケールの大きなことばの世界を、ぜひ、じっくりと味わってくださいませ。

「開発」という仏教語を言い換えると……

伊藤信道(いとう しんどう)

1955年(昭和30年)津島市生まれ。龍谷大学文学部仏教学科卒。大学では陸上競技部。アーユス仏教国際協力ネットワークや名古屋NGOセンター創立に関わりました。また、僧侶育成機関「宗学院」講師を勤めます。

「開発(かいほつ)」という仏教語があります。閉ざされた自分を開いて、正しき方向に進む道を明らかにするという意味のことばです。「わたしをひらく みんなとつながる」というのは、それを私なりに一般的なことばに訳したものです。

人間は、「自分」という名の狭い檻から解放されたとき、「他者」との縁に気づきます。そこを大切にすることで、はじめて、大きなつながりの中で、心の底からくつろいで生きていくことができるのではないでしょうか。

無力感にこそ大きなヒントがある

うまくいかない仕事や人間関係、愛する人との別れ、思うに任せない健康状態……。生きていれば、ほんとうにさまざまな苦難に見舞われ、その都度、無力感に襲われます。しかし、実はそこにこそ、「わたしをひらく」ためのヒントがあるように思うのです。

私自身、人生において幾度も挫折を味わいました。大切な人との出会い、それ自体は紛れもなく尊いことです。しかし、出会ってしまえば、その分、つらい別れもあるのです。私も還暦を過ぎ、これまでに、幾つもの悲しい死別を経験しました。その度、自分には、結局、なにもできなかったなあ、と悔しい思いを抱えてきました。しかし、無力さ、非力さを心の底から認めたとき、なにをすることもできない、どうしようもない存在である自分を待ち、許し、認めてくださっている仏さまの慈悲の光にも、また、同時に気づかされたのです。そうして、その光の中であたりを見渡してみたとき、どんな人でも、自分と同じように、かならず、なんらかの苦しみを抱えながら、それでも懸命に生きていることを知りました。

「わたしをひらく」とは、つまり、自分自身の苦しみを、心の底から認めてしまう、ということです。そうしてはじめて他者の苦しみに目が向くようになり、そこから「共に助け合って、より良い関係性を作っていきましょう」という気持ちが生まれてくる。その先に、大きな安心感をベースとして、互いに尊重し合える世の中が開けてくるのではないでしょうか。これが、私の言う、「みんなとつながる」という語の意味です。

すべては「わたし」からはじまる

もちろん、「みんな」と言っても、地球上のすべての人とつながっていくことは、実際には難しいことかもしれません。その意味で、「わたしをひらく みんなとつながる」というのは、ひとつの理想をあらわしたことばでしかありません。しかし、こういった思いは常に心に置いておきたいと考えています。

やはり、すべては「わたし」から。個別の「私」を超え、「わたし」がひらかれたところに見えてくる世界を、縁あるみなさんとともに生きていきたい。そう、強く願っています。

お寺画像
愛知県津島市
飛龍山 帰命院 宝泉寺
わたしを開く みんなとつながる

寺院ページを見る

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小出遥子

小出遥子

1984年生まれ。新潟県出身。早稲田大学第一文学部日本文学専修卒業。編集プロダクション、美術系専門図書館勤務を経て、現在はフリーランスの編集者・文筆家として、仏教系テキストを中心とした編集・執筆活動を行っている。いのちからはじまる対話の場「Temple」主宰。

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