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遺骨をサービスエリアに捨てる人々にどう伝えるか(足立信行・T-sousai代表)【死に方のココロ構え(25)】

2024.03.05

足立信行(あだちしんぎょう)

株式会社 T-sousai 代表取締役社長。1982年、京都府生まれ。在家の家に生まれる。18 歳の時に高野山で僧侶になることを決意。高野山金剛峰寺布教研修生修了。高野山で修行をする中で僧侶や寺院の役割を考え、下山。葬儀の重要性に気づき、2008年 大手互助会系の葬儀会社に入社。葬儀の担当者となり、年間約 120 件の葬儀を手掛ける。2012 年IT 企業に入社し、エンジニアとして活動。2017年、僧侶と葬儀会社の担当という経験から、お互いが遺族や故人のために協力し祈りの場所として本堂などで葬儀をあげ、安価で心あるお寺葬の構想を企画。葬儀の告知、WEB、導入などから実施、施行までをワンストップできる株式会社 T-sousai を創業し、現職。

T-sousaiホームページ

※前回(葬儀に宗教者が必要だと多くの人が思っています -信心と葬儀-)はこちら

深刻な遺骨事情

 昨年の11月に出版された『ルポ無縁遺骨 誰があなたを引き取るか』(森下香枝著・朝日新聞出版)という書籍があります。日本の遺骨事情を真正面からとらえ、課題を浮き彫りにした労作です。
 女優の島田陽子さんの死から始まり、異常死や孤立死(孤独死)、行旅死亡人こうりよしぼうにんや大名の墓じまいなどその対象は多岐に渡ります。国や行政の動きやお寺、自治体などの活動も明記されており、これから遺骨をめぐる日本の問題を知る上で大きな問題提起をしてくれる一冊です。

 本書を読み、日本の遺骨を巡る事態が思った以上に深刻にあることに気が付き愕然としました。供養をされない遺骨が年間3万もあることが分かったのです。
 2023年に総務省が発表した死亡時に引き取り手がなかった死者の数は、2018年4月から21年10月までの3年半の期間で約10万5千にも上ったと本書に記載されています。単純計算でおよそ1年間に3万人もの方々が行政などによって火葬され、無縁の遺骨が生まれたことになります。
 本書で書かれているのは家族のいる方の遺骨ではなく、いわゆる「おひとりさま」の遺骨ですが、親戚が受け取りを拒否したり経済的な理由で弔うことを拒否したりする場面も出てきます。「もう会いたくない」などの感情的な理由で遺骨の引き取りを拒否したり、電話がつながらなかったりと、「おひとりさま」の遺骨は今後もさらに増加することになるでしょう。

 データによりますと、高齢者の相対的貧困は20%と全世代の平均値より4ポイント以上も高く、弔うことや葬儀や墓というものが、単なる信仰の問題ばかりではなく、経済的な問題の延長線上にあることも見過ごしてはならないと感じます。弔いたくても弔えない、もしくは、弔うことを拒否せざるを得ない日本の実情がここにあるのだなと、改めて戦慄する思いで本書を読み終えました。

無縁遺骨
ルポ無縁遺骨』には私たちが目をそらしてはならない現実があります

お骨をサービスエリアに捨てる人々

 遺骨を巡る問題は単なる「おひとりさま」だけに限った話ではありません。家族や家庭をもつ人でさえ、安心とは言えないのです。
 昨年末に「遺骨をサービスエリアのごみ箱に捨てる人が増えている」というある記事がありました。墓じまいなどをしたが、お骨の処分の方法が分からず、サービスエリアなどに投棄する人が増えているという記事です。お骨をサービスエリアに捨てるとは、にわかには信じがたい内容ではありますが、家族がいる方だったとしても何年後かにはサービスエリアに遺骨が捨てられてしまう可能性は大いにありうるのです。

 お骨をサービスエリアに捨てる人々は決して遠い人たちではありません。自ら自動車を運転して高速の料金を払いサービスエリアに入ることができる普通の人です。特別な思想をもっているのかは分かりませんが、ごく一般的な人がサービスエリアで両親や家族の遺骨をゴミ箱に捨てているのです。決して一部の方々がやっているのではなく、一般的な方々でさえこういったことをするのだと認識しなければなりません。問題はこういった人が増えつつあり、遺骨のあり方の根本が問われているところにあります。

 このような方々に何を伝えなければならないのでしょうか。闇雲に「お骨は大切だ」とか「お骨は神聖なものだ」という教条的な思想を講じてもなかなか難しい。そんな上からの言葉で反省するようであればそもそもお骨を捨てることなどないでしょう。
 今求められているのは、お骨の意義や意味、なぜ大切なのか、なぜ神聖なのかをいろいろな方に、丁寧に伝えていくことではないでしょうか。なぜお骨をサービスエリアに捨ててはいけないのかという問いに真剣に向き合い、真正面から語る必要があるのではないでしょうか。当然、お骨を捨てることは法律に違反するのですが、それ以外とは別に、宗教や仏教の立場からアプロ―チをかけていくことが重要と考えます。

「みやこ」作戦で伝えていく

 以前は信仰の問題であったものが、信仰の存在感が社会的に薄くなり、そもそもなぜ大切なのかを真剣に伝えなければならなくなってきました。
 これまでは「ありがたいから」という理由で拝んでいたお寺や神社。これまでは「きちんとしなければならないから」という理由で営まれてきた葬儀や法事。こういったものを再度、意義や意味を伝える時代に入ってきたのではないかと感じています。むしろいま意義や意味を伝えることをしなければ、今後の仏教界や未来のお寺は立ち行かなくなるのではないかと危機感を抱いています。

 そこで最近私が提唱しているのが「みやこ作戦」です。「みやこ作戦」とは葬儀や法事や遺骨などの意義とか意味を伝える際に、心がけていた方がよい3つの約束事の頭文字をつなげたものです。
「み」は「みせる化」。
「や」は「やくだつ化」。
「こ」は「ことば化」。
 これらを念頭に入れながら相手に葬儀や法事の意味意義などを伝えていくのが「みやこ作戦」です。

「みせる化」というのは「見える化」ではなく、より相手に積極的に伝えていく姿勢を言います。いままでは何となく伝わっていた葬儀や法事もきちんと「やった方が良い」「やることが大切」と強く伝えていくことです。

「やくだつ化」は、相手にとって役に立つということを伝えることです。葬儀や法事や遺骨をきちんと弔うことは弔う人にとってメリットがあるのだと伝えることです。無論、葬儀や法事が利便性や有用性などとは離れたところにあることは重々承知ですが、残念ながら一般の方々に伝えるためにはこの有用性をきちんと伝えなければまず動くことはありません。ある種、方便と割り切って伝えていくことも重要かと思います。

 最後に「ことば化」は、言語にして、文字にして、図解で相手に伝えていくことです。これも何度も何度もくり返し伝えていくことが大切です。一度伝えて、深奥な仏教が相手に伝わることはまずありません。繰り返し言葉にして伝えていくことが大切です。

 いま遺骨をはじめあらゆる風習や儀礼の意味や意義が見失われつつあります。「みせる化・やくだつ化・ことば化」を実施し、多くの人が儀式への想いを新たにすることで、サービスエリアに遺骨を捨てる人が少しでもいなくなるのではないでしょうか。

お墓
弔うことは自分のためによいことだと伝えることが大切

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