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新型コロナ禍に向き合う般若心経②「菩提薩埵」‐ 勝覚寺 住職 小杉秀文さん(千葉県山武市)

2020.04.30

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界中に不安が蔓延しています。そんな「ままならないこの世」を生きる助けになることばとして、真言宗智山派しんごんしゆうちざんは勝覚寺しようかくじ(千葉県)の小杉秀文こすぎしゆうぶん住職が紹介してくれたのは「菩提薩埵ぼだいさつた」。般若心経はんにやしんぎようの一節です。

小杉秀文(こすぎしゅうぶん)

昭和43年勝覚寺に長男として生まれる。地元の成東高校を卒業して、大正大学へと進み真言宗の教えを学ぶ。 京都の狸谷不動院にて修験道を学び、30年来、奈良の大峯山にて修行を続ける。

勝覚寺寺院ページ

「苦」に向き合うあなたのそばに菩薩はいる

「57f5」。これが何の数字記号がおわかりでしょうか。般若心経の中に出てくる「菩提薩埵ぼだいさつた」の「埵」という文字のユニコードです。ユニコードというのは、世界中の様々な文字を、統一した規格で表記したものです。ひと昔前までは、こういった特殊な文字をパソコンで入力するのは大変でしたが、現在はいろいろと技術が進み、スマホでも使うことができます。

 30年前、私が大学の卒業論文を書いていたころのことです。当時はまだ卒業論文も手書きが主流でした。ワードプロセッサー(ワープロ)はあるていど普及していましたが、卒論を書く場合は、大学指定の原稿用紙にワープロで印刷しなければなりませんでした。
 面倒なコードの入力までしてどうしてワープロにこだわったかというと、答えは簡単です。手書きの字が下手だったからです。それが私の苦悩でした。そのため、ワープロに入ってない文字は、コツコツと点(ドット)を配置して文字を作りました。
 そこまでするなら手書きの論文の方が早い気もしますが、大学四年間の集大成はキレイな原稿として残しておきたかったのかもしれません。

 ポチポチと点を並べて文字を作ったり、既成の罫線に何とか合わせようとして、余白や文字間、行間の調整と格闘したり、いずれ何かの実を結ぶことがあります。この小稿を書くに当たり、30年ぶりに当時の卒論を書棚から引っ張り出して見ました。我ながらよくやったなぁと思います。苦悩によって新たな技能が身につき、開けた世界がありました。

悪戦苦闘した当時の卒業論文

 卑近な例を出して申し訳ないですが、現在、多くの人達がこの時期の過ごし方にも苦悩していることでしょう。いつの日か振り返ってみた時に、この数ヶ月の過ごし方が後の生き方に多くの影響を与えたことを実感するかもしれません。我ながらよくやったなぁと思えるように。

菩提薩埵(菩薩)は私たちのそばにいて、ともに苦悩してくれている

 ご紹介する「菩提薩埵ぼだいさつた」とは、サンスクリット語の「ボーディサットヴァ」の音写、音に漢字を当てはめたものです。
 ボーディは「悟り」、サットヴァは「目指す者」の意味で、直訳すると「悟りを目指す修行者」となります。菩提薩埵を縮めて「菩薩ぼさつ」ともいいます。

 般若心経の冒頭に登場する「観自在菩薩かんじざいぼさつ」も菩薩の一人です。様々なこの世の事柄を「観」ることが「自在」にできるように、悟りを目指して修行をしているのが観自在菩薩です。般若心経は、観自在菩薩という主人公が悟りを目指す修行の様子を描いている物語と言ってもいいかもしれません。

 般若心経の主人公である観自在菩薩をはじめ、さまざまな菩薩は、一人だけで悟りの世界を目指しているわけではありません。菩薩自身はいつでも悟りに至るだけの修行を積んでいますが、多くの迷える人々を残して自分だけが救われることを望んではいません。

 菩薩は、私たちと同様に苦悩しています。まさに今、地蔵じぞう菩薩、文殊もんじゅ菩薩、普賢ふげん菩薩、弥勒みろく菩薩など、多くの菩薩が駆け巡り、未知の疫病に苦しんでいる多くの人々の為に、ときには先頭に立って導き、ときには共に手をとり、そしてときには背中から後押しをしてくださっていることでしょう。
 それが菩薩の役目であり、菩薩はつねにあなたのそばにいて、ともに苦悩してくれています。

今、私たちは菩薩修行を始めるチャンスなのかもしれない

 私の場合は、手書き文字が汚い。そのコンプレックスと苦悩から、ワープロに慣れ、キーボードに慣れ、そして当然のようにパソコンを使うようになりました。私はパソコンを扱う専門職ではありませんが、50歳を過ぎた世代の中ではわりと扱える方なので、人に教える機会もあります。苦悩によって開けた世界がありました。今思えば、それは自分なりの菩薩修行だったのかもしれません。名付ければ、観電脳かんでんのう菩薩でしょうか(笑)

 新型コロナウイルス感染症に限らず、生きる以上は、不得手なこと、苦しいこと、つらいことが、この先も続くでしょう。
 しかし、苦悩の時こそ開ける世界もあり、今私たちは自分なりの菩薩修行に踏み出すチャンスをいただいているのかもしれません。みなさんそれぞれの個性を活かした菩薩修行がきっとあるはずです。
 目には見えなくても私たちのそばにいて、共に歩んでくださる多くの菩薩も、そのことを私たちに気づいてほしいと願っているに違いありません。

【まいてら編集部のおススメ】ご自宅で般若心経の写経をしませんか?

 以下リンク先から台紙をダウンロードし、プリンターで印刷します。その上に写経用紙、または半紙を置き、透けて見えるお手本の文字をなぞるようにして写経しましょう。
 外出やお参りができるようになりましたら、どこかのお寺に奉納されてはいかがでしょうか?

※般若心経の台紙ダウンロードはこちら

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まいてら登録寺院のお坊さんを総称して「まいてら住職」と言います。まいてら新聞では、それぞれのお寺の魅力を発信したり、皆さんの疑問・お悩みにどんどんと応えていきます。

コメント一覧

  1. コロナ自粛で、字の練習もかねて、書き始めて2週間、険悪になっていた、娘と普通に話しが、出来るように、なって2ヶ月半、今もかいてます。

  2. 記事を読んで頂きありがとうございます。
    社会環境が変わる中、写経をすることによって心の安らぎを得られている事は、すばらしい修行の実践だと存じます。

    写経が溜まりましたら、編集部のおすすめにもあるように、菩提寺や近隣のお寺にお納めされては如何でしょうか?

    今後とも“まいてら”をよろしくお願いします。

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  1. コロナ自粛で、字の練習もかねて、書き始めて2週間、険悪になっていた、娘と普通に話しが、出来るように、なって2ヶ月半、今もかいてます。

  2. 記事を読んで頂きありがとうございます。
    社会環境が変わる中、写経をすることによって心の安らぎを得られている事は、すばらしい修行の実践だと存じます。

    写経が溜まりましたら、編集部のおすすめにもあるように、菩提寺や近隣のお寺にお納めされては如何でしょうか?

    今後とも“まいてら”をよろしくお願いします。

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