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卒塔婆はなんのためにある? – 歴史、文字の意味、宗派による違いから塔婆料まで【教えて!お坊さん】

2020.06.05

 墓地に行くと、お墓のそばに細長い木の板が立てられているのを見たことがありませんか?
 これは「卒塔婆そとば」といって、亡くなった人の供養をするためのものです。略して「塔婆とうば」とも呼ばれます。毎年行われるお寺での法要や、ご先祖様の年忌法要ねんきほうようのときに立てますが、ふだん何気なく目にするものの、よく考えてみたら分からないことばかり。

「表面には何が書かれているの?」
「いつまで立てておくもの?」
「塔婆供養くようの費用は?」

 そんな卒塔婆にまつわる素朴な疑問について、今回もさまざまなお坊さんに教えてもらいました。

卒塔婆ってなんですか?

 まずは、卒塔婆の歴史をふり返ります。

 卒塔婆はインドのことば「stupa(ストゥーパ)」の音を、漢字に当てはめたものです。「仏塔」を意味しますが、もとは土を盛り上げたお墓のことだったそうです。
 福応寺ふくおうじ小川おがわ昌久しようきゆう住職(静岡県・臨済宗)によると「インドは暑いので身分の高い人にはいつも傘をさしかざす習慣があったそうで、こちらに由来する」とのこと。

 お釈迦様が入滅にゆうめつしたあと、その遺骨(仏舎利ぶつしやり)は、8つの地方の国王に分骨されて、合計で10の塔を建ててご供養されました。この塔に多くの人々が集まり、お釈迦様の教えや遺徳をしのび供養するようになってきて、仏塔や仏舎利への信仰が広がります。やがては各地の有力者のお墓として用いられ、世界中に広がっていきます。

 勝覚寺しようかくじ小杉秀文こすぎしゆうぶん住職(千葉県・真言宗)によると、日本語の「塔」も、英語で「塔」を意味する「tower」も、その語源は同じストゥーパではないかという説があるのだそう。

日本の全国各地に仏舎利塔は建立されている。画像は兵庫県姫路市・名古山霊苑の仏舎利塔

 日本のお寺では三重塔や五重塔などをよく見かけますが、これらもストゥーパの流れをくむものです。日本では、やがて古神道こしんとうの石塚信仰と結びつき、鎌倉時代になると石造りの五輪塔が日本中に広まります。これが現在の墓石の原型です。以降、卒塔婆は墓石に添えるものとして用いられるようになり、現在の形にいたります。

上:五輪塔 下:板塔婆(画像提供:仏壇・墓石の素心/兵庫県姫路市)

卒塔婆はいつ・どこに・なんのために立てるの?

 卒塔婆は、一周忌や三回忌などのご先祖様の年忌法要、彼岸法要や施餓鬼法要などのお寺でとり行われる法要のときに立てます。お寺の本堂や自宅の仏壇のそばに立てて読経どきようしてもらい、その後、お墓に持っていくのが慣例です。

「いつ」「どこに」はなんとなくわかる気がしますが、では「なんのために」卒塔婆を立てるのでしょうか。このあたりは宗派によって考え方に違いがあり、たいへん面白いところです。

 一向寺あずま好章こうしよう住職(栃木県・浄土宗)は「亡き人を思い返して偲ぶため」と話し、「施主さんだけじゃなく、ご縁の近かった親戚の人たちにも卒塔婆のお供えをしてもらうことで、主体的に供養をしてもらいます」と続けます。塔婆を立てることで、故人の供養を自ら行っているのだという意識を、よりはっきり持つことができるようです。

「卒塔婆を立てることでご先祖様への感謝を表すだけでなく、自分自身の中にいるご先祖様と向き合う、つまり自分自身の心と向き合う修行にもなる」とは、福応寺の小川住職。自己に向き合うことを大切にする禅宗的な解釈では、自分自身の中にご先祖様を見出すのですね。

 また、妙性寺みようしようじ近藤玄純こんどうげんじゆん住職(山梨県・日蓮宗)によると、日蓮上人にちれんしようにんによって書かれたお手紙『中興入道御消息なかおきにゆうどうごしようそく』の中で、卒塔婆供養の力が説かれているそうです。「『南無妙法蓮華経』の七字の題目の書かれた卒塔婆を立てると、北風が南の海にいる魚たちの苦しみを解き、東風が吹くと反対の西の山の鳥や鹿は畜生道から天上界に生まれることができる、と書かれています」
 魚や鳥までをも救ってくれるというのですから、卒塔婆の力は絶大です。

本堂の塔婆
墓地の塔婆

卒塔婆には何が書かれているの?

 卒塔婆の表面には、筆文字でなにやら経文のようなものが書かれていますが、いったい何が書かれているのでしょうか?

 卒塔婆の上部の切り込みは五輪塔を表しており、ここに書かれているのが五輪を表すそれぞれの梵字ぼんじ。五輪とは、この宇宙を構成する5つの要素のことで、上から順番に「キャ=空」「カ=風」「ラ=火」「バ=水」「ア=地」と書くのが基本です。ただし浄土宗では「南無阿弥陀仏」、日蓮宗では「南無妙法蓮華経」などと、それぞれの宗派で大切にされている言葉を書くこともあります。

 その下には、供養するご先祖様の戒名かいみようや、回忌(一周忌、三回忌など)、施主名などが続き、裏面にはそれぞれの宗派の経文が書かれます。

卒塔婆の切り込みは五輪塔を表す

「卒塔婆に書くための略字があるんですよ」と面白い話を教えてくれたのは、勝覚寺の小杉住職。

 勝覚寺ではカタカナで「ササ」と書いて「菩薩」の2字を表します。これはカタカナの「サ」を草かんむりに見立て、「菩薩」と読むことにしているのだそうです。
 さらに2つ目の「サ」に「、」をつけた「ササ点」と呼ばれる略字は、「菩提」の2字を表します。ひとつ目の「サ」が「菩」の草冠を、ふたつ目の「サ、」が「提」の文字の手へんを90度回転させて、最後の払いを付け足したものを表すのだそう。

 こうした略字は昔からの習わしで、いまも用いられています。小杉住職によると、「限られたスペースの中に文字を書き込むための知恵として生まれたのでしょう」とのことでした。

「参回忌」や「七回忌」の字に続くのが、略字の「ササ点」(勝覚寺)

古くなった卒塔婆はどうすればいい?

 お墓参りにいくと、古くなってしまった卒塔婆をどうすればいいのか気になるものです。朽ちた塔婆をいつまでもそのままにしていいものか、でも勝手に処分するとバチがあたりそうな気もするし……。

 結論からいうと、市営や民営の霊園などでは石材業者が持ち帰ったり、決められた場所にまとめたりします。お寺の境内墓地の場合は、お参りの方が抜いて、お寺に引き取ってもらいましょう。「当院では毎月7月下旬にお寺で預かって、発遣(はっけん:お性根抜きのこと)作法をしてからお焚き上げをします」(勝覚寺・小杉住職)というように、年に数回、決められた時期にお焚き上げをしてもらえます。また、一向寺では大晦日の午前10時からお焚き上げをするそうです。「そのときには位牌や仏像、人形などもまとめて供養するんですよ」と東住職。

 ただし、どのお坊さんも口をそろえて言うのは、お焚き上げがしづらくなっているということ。「田舎だからできるのかも」(勝覚寺・小杉住職)、「消防に許可を取って行っている」(一向寺・東住職)、「昨今の住宅事情を考えると難しくなってきている」(福応寺・小川住職)など、今の時代ならではの事情がそれぞれにあるようです。

卒塔婆料の金額は? 申し込みはどうすればいい?

 卒塔婆料はどれくらいの金額を包めばいいのでしょうか。
 お坊さんたちに聞いてみたところ、相場は3千〜5千円くらいのようです。ただし、1本あたりの費用を明確に定めているお寺もあれば、「お気持ちで」としているお寺もあります。中には「浜松市の寺院には塔婆料という概念があまりなく、年回忌法要のお布施に含まれています」(福応寺・小川住職)というお寺もあり、対応はお寺によってまちまちです。失礼には当たらないので、気になる場合はお寺に直接たずねてみましょう。

 申し込み方法は、直接お寺に出向く、電話、ファックスなどがあります。もしも親戚の人たちの分も含めて複数を申し込むのであれば、それぞれの施主の名前を伝えます。卒塔婆はお坊さんが心を込めて筆書きしますので、法要直前にではなく、できれば1週間前までには申し込むようにしましょう。

卒塔婆は絶対に用意しないといけないの?

「卒塔婆って、絶対に立てなければならないものですか?」と、少し意地悪な質問もしてみました。するとみなさん口をそろえ「強制ではないが、ご先祖様の供養のためにぜひとも立ててあげてほしい」と答えました。

 例えば一向寺の東住職は、法要の中で、亡き人への想いが込められた民謡を実際に歌いながら卒塔婆を立てるのだそうです。「関西地方の一部では、民謡を歌いながら回向えこうする風習があります。京都のお寺で修行しているときにそれを体験して、参考にさせてもらっています。お経は難しいですが、お歌は気持ちを乗せやすい」とのこと。

浄土真宗が卒塔婆を使わないのはなぜ?

 卒塔婆は故人や先祖の回向のために立てられますが、浄土真宗では卒塔婆を使いません。これまで触れてきたように、卒塔婆は亡くなった人の追善供養ついぜんくようのために使われていますが、浄土真宗ではこの追善供養という考えがないからです。西照寺さいしようじ網代豊和あじろとよかず副住職(埼玉県・浄土真宗本願寺派)に詳しくうかがいました。

「追善供養とは、亡くなった人があちらの世界で仏になれるように、この世に生きる人たちが供養することですが、浄土真宗の教えでは、亡くなった人はみな阿弥陀あみだ仏のおられる極楽浄土で仏さまになられるのですよ」

 浄土真宗では卒塔婆以外にも、ご先祖様そのものを表す位牌もまつりません。ご先祖様ではなく、阿弥陀仏の力を信じることで、あらゆる人は救われると考えるからです。卒塔婆は用いないが法要はする。そこにはどんな意味があるのでしょうか。

「浄土真宗では、私たちのような凡人が修行をしたとしても、仏さまには到底なれないという考え方が根底にあります。しかし私たちには阿弥陀仏がいてくださいます。自分の力で仏になれないものだから、阿弥陀仏が私たちを救ってくださる、仏にしてくださる。浄土真宗では、阿弥陀仏のはたらきに気づくためのご縁の場として、法要があるんです」

こんなこと聞いてもいいですか? 卒塔婆にまつわるお坊さんのホンネ

 最後に、お坊さんに少しだけぶっちゃけてもらおうと、卒塔婆にまつわる苦労や本音をうかがいました。みなさん共通して口にするのは、お坊さんになりたての頃は、木の板へ筆文字を書くことに苦労したということ。

「木の板の中にたくさんの文字をおさめなければならず、なんども書き直しをしました」(妙性寺・近藤住職)
「半紙に書くのとは勝手が違い、墨の濃さを調整するのにも戸惑いました」(福応寺・小川住職)

 この対策として、一向寺の東住職は卒塔婆の表面にチョークを塗るそうです。目止め効果があり、墨がしみづらくなるとのこと。「表面がうっすら白くなって、かえってきれいに見えるんですよ」
 また、書きそんじた卒塔婆は木工屋さんに依頼して、削り直しをしてもらうそうです。

 最近では、お坊さんの手間を減らすために書き文字の印刷も可能だそう。また、中には達筆な人に代理で書いてもらうお寺もあるようです。
 しかしほとんどのお寺では、お坊さんが自ら筆をとって卒塔婆の文字を書きます。「どんなに忙しかろうと、また仮に字が下手であろうと、供養を担当させていただく僧侶が心を込めて一枚一枚書くのが大切で、塔婆を書いているその瞬間から供養は始まっています」と福応寺の小川住職。さらに、妙性寺の近藤住職は「手間がかかることに意味があります」と、手書きの大切さを強調します。

手書きする近藤住職(妙性寺)

 たった一本の木の板ですが、そこには何千年という古い昔からたくさんの人たちの祈りが込められている、いわば亡き人へのラブレターのようなものです。
 もうすぐお盆がやってきますが、お墓参りのときにいろいろな卒塔婆を眺めてみるのも楽しいかもしれません。また、お寺で行われる施餓鬼法要に、卒塔婆をひとつお供えしてみるのもよいでしょう。

ご協力いただいたお坊さん(登場順)

小川昌久(おがわしょうきゅう)

1975年生まれ。在家として生まれ育ち、日本大学卒業後、会社員を経て親戚のお寺を継ぐために出家。南禅寺派廣園寺僧堂での修行の後、大本山方広寺派部員を経て福応寺住職に就任。学び直しのため平成31年度より仏教系大学通信教育部仏教学部に3年次編入にて入学。現在に至る。

福応寺寺院ページ

小杉秀文(こすぎしゅうぶん)

昭和43年勝覚寺に長男として生まれる。地元の成東高校を卒業して、大正大学へと進み真言宗の教えを学ぶ。 京都の狸谷不動院にて修験道を学び、30年来、奈良の大峯山にて修行を続ける。

勝覚寺寺院ページ

東好章(あずまこうしょう)

都内にて不動産デベロッパーの管理職やファイナンシャル・プランナーとして勤務した後、父である師僧の跡を継いで一向寺第38世の住職に就任。自死・自殺に向き合う僧侶の会や、悩み相談サイト『hasunoha』回答僧侶として活動中。

一向寺寺院ページ

近藤玄純(こんどうげんじゅん)

平成13年日蓮宗信行道場修了、 平成16年日蓮宗大荒行堂初行成満、平成24年日蓮宗大荒行堂再行成満。一般社団法人SOCIAL TEMPLE代表理事。

妙性寺寺院ページ

網代豊和(あじろとよかず)

1976年生まれ 埼玉県東松山市にある浄土真宗本願寺派・西照寺の副住職を勤める傍ら、築地本願寺内にある東京仏教学院の講師にも着任。地元の活性化や人材育成を大切にし、青年会議所に属し公益活動にも注力する。

西照寺寺院ページ

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玉川 将人

玉川 将人

1981年山口県生まれ。家族のたて続けの死をきっかけに、生涯を「弔い」に捧げる。都内の葬儀社に5年間従事したのち、現在は仏壇墓石の素心(兵庫県姫路市)に勤務。供養業界に携わりながら、ライター「とむらいマン」として活動。1級葬祭ディレクター、2級お墓ディレクター、2級グリーフケアカウンセラー。 「この世を生きるということは、亡くなった人とともに生きることなんだよ」ということを、私たちはついつい忘れがちです。お寺は、そんな大切なことを思い出させてくれるとってもありがたい場所です。お寺の魅力を発信することで、祈りや弔いの素晴らしさをお伝えできればと思います。

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