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お寺と地域がともに生きる『りてらプロジェクト』(善西寺住職・矢田俊量)

2024.12.23

 三重県桑名市。善西寺ぜんさいじの山門の向かいに佇むのは間口二間の和風住宅。「MONZEN」と染め抜かれた暖簾が、訪れる人をあたたかく迎え入れます。

MONZEN
MONZEN

 住職の矢田俊量やだしゆんりようさんは、お寺がアウトリーチしたコミュニティスペースとして地域に開かれているMONZENを「“善西寺りてらプロジェクト”の拠点です」と話します。

 単なる信仰の場としてのお寺を超え、地域社会と深く結びつくハブとして人々が集う善西寺。りてらプロジェクトの理念とは? MONZENでの具体的な取り組みは? 矢田住職が詳しく語ります。

矢田 俊量(やだ しゅんりょう)

1963年桑名市生まれ。名古屋大学大学院理学研究科修了。理学博士。生命科学の研究者が尊いご仏縁により僧侶に転身。向きあう対象は「生命」から「いのち」へ。専門はグリーフサポート。

善西寺ページ

MONZENは「りてら」の拠点

 善西寺は、お寺の法務に加えて、実にさまざまな社会的取り組みを行っており、その活動を「善西寺りてらプロジェクト」と名づけています。

 プロジェクトのスローガンは「いつもともにあったお寺を、いまもともにあるお寺へ」。

 お寺は亡くなった人を偲ぶ場所だと思われがちですが、そもそもはいまを生きる人たちの救いの場所でもあります。そんなお寺本来の姿を今に伝えるために、善西寺の活動は、次の3つの「り」を基本のテーマとしています。

 <3つの「り」>
 Regeneration:再生(地域の中心としてのお寺本来の姿を取り戻す)
 Release:解放(現代における「お寺」という固定観念から解放された取り組み)
 Literacy:適切な理解・解釈(経典に準じた教え)

 これらの「り」をもとに、4つのコンセプトでさまざまな活動が展開されています。

    <4つのコンセプト>

  • こども(こどもイベント、こどもやひとり親家庭の貧困支援のためのこども食堂、フードパントリー、無料学習支援、里親啓発、こどもの虐待防止など)
  • いのち(グリーフケア、医療福祉連携、障害・引きこもり支援など)
  • くらす(まちづくりイベント、お寺のコワーキングスペース化など)
  • つたえる(仏教儀礼、伝道布教など)
里親啓発アンジープロジェクト
里親啓発アンジープロジェクト(桑名ほんぱく内のプログラムとして参加)
つながりカフェ
つながりカフェ。この日は地域の人たちが集い、ひな飾りワークショップ。
おてらこども食堂
おてらこども食堂。仏さまに見守られる中、食事がふるまわれる。

グリーフケアから始まった「りてら」

 りてらプロジェクトの原点は、グリーフケアです。

 愛知県の医科大学で生命科学の研究に従事し、ホスピス運動に積極的に参加していたわたしは、終末医療の現場で死と喪失に向き合う患者とその家族が直面する「なぜ死ななければならないのか」という深刻な問いに立ち会いました。

 以降、わたしは多くのグリーフケアの自助グループや、ホスピスボランティアに参加し、同じ苦しみをかかえる人同士が語り合う姿を見て、想いを分かち合うことが心の支えになること知りました。

 こうした長年の経験を経て、善西寺に戻って取り組んだのが、グリーフケアの自助グループの取り組みです。日常の中ではなかなか話すことのできない想いも、仏さまに見守られる空間で、当事者同士だからこそ、分かち合うことができます。

 参加者の方々からは「ここで同じ経験をした仲間に出会って救われた。次は運営側にまわって誰かの支えになりたい」という声も少なくなく、こうして少しずつご縁の輪が広がります。集まる人々を通じて、グリーフだけにとどまらないさまざまなニーズが明らかになり、それに応える形で次々と新しいプロジェクトが立ち上がりました。

 善西寺の取り組みは多岐にわたるものとなり、これらをひとつの枠組みで捉え直し、整理するために「りてら」という概念ができあがったのです。

看仏連携
矢田さんは“看仏連携”に積極的に取り組む。「お祭りコミュナスワーケーション」では、地域のお祭りに看護師が参加した。
おくるみカンファレンス
おくるみカンファレンス(周産期グリーフサポートのための看仏連携カンファレンス)

おせっかいが循環する社会を目指す

 MONZENの暖簾には「for Compassionate Communities」の文字が染め抜かれています。これは、高齢化や人口減少がより深刻化する「2040年問題」の処方箋として厚生労働省が推進する「地域共生社会」の土台となる考え方です。

 直訳すると「思いやりが支え合うコミュニティ」となりますが、わたしは「Compassion」を「でつながるおせっかい」と解釈しています。

「悲」とは苦しみに共感する心を指します。「慈悲」の「悲」であり、「共苦きようく」とも訳されます。人生の苦にうめなげいたことのある者のみが、苦しみ悩んでいる者を真に理解でき、共感し、その苦しみを癒すことができるのです。

 今の時代、「おせっかい」と聞くとあまりよい印象を抱きませんが、わたしは「お節介」を「節度ある介入」と解釈し、現代社会に必要なものだと考えています。お互いの困りごとをお互いに支えあうというのは、かつての共同体では当たり前に見られたことです。

 悲しみ、苦しみに沈む人を前にして…

「最近元気ないけれど、大丈夫?」
「ごはん食べれてる?寝れてる?今度、一緒にお茶でもしない?」

 …といったような、ささいなおせっかいが行き交う社会が、2040年問題をうまく生きていくための土台になるのではないでしょうか。

 自助グループの参加者が「次は誰かの役に立ちたい」と、善西寺やMONZENの活動に関わってくれるのも、おせっかいのひとつです。

 りてらプロジェクトは、悲でつながる人と人とのご縁が連鎖して生まれるおせっかいを通じて少しずつ大きくなっています。おせっかいを提供でき、安心して受け取れる。おせっかいを軸にして成り立つ悲でつながるコミュニティが、善西寺の目指す姿です。

 ちなみに、おせっかい焼きの代表格は阿弥陀如来さまではないでしょうか。「あなたの苦しみを知ったなら、救わずにはおられない。逃げるものを追わえとる」そのような願いから仏さまになられたお方ですから。

 仏さまに見護られるお寺が、おせっかいの行き交う地域の中心でいられるよう、お寺本来の姿を再生していきます。

お寺画像
三重県桑名市
善西寺
「いのち」に向き合う、グリーフサポートのお寺

寺院ページ

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