カンヌで大反響! 映画『典座 -TENZO-』いよいよ公開【前編】
2019.09.27
カンヌ国際映画祭の「批評家週間」特別招待作品となり話題の映画『典座 -TENZO-』。10月から東京をはじめ順次全国での公開を控える中、主演の河口智賢 さんにカンヌでの反響や、今の思いについておうかがいしました。
(参考記事)映画「典座 -TENZO-」がカンヌ国際映画祭に出品決定! ー 伝えたいことは「いのち」
カンヌの反響は想像以上。各国の配給会社が高い関心
「カンヌでは、想像以上の反響がありました。映画祭の開催期間中には世界最大規模のフィルム・マーケットが同時に開催されているんですが、会場でロシア、ドイツをはじめ色々な国の配給会社の方から熱心に『典座 -TENZO-』について聞かれました。同行した通訳の方が、『普段は日本映画についてこんなに聞いてくれないですよ』と言っていました。僧衣という出で立ちだけでなく、仏教そのものにとても興味を持たれていると感じました」
現地では少しでもこの作品のことを伝えようと、みんなでレッドカーペットの近くまで行って積極的にチラシを配り、握手を求めに行ったという河口さん。しかし、多くの人は握手を遠慮し、逆に手を合わせられたそうです。
「みなさん、僧侶という存在にとても敬意を示され、握手ではなく、私たちに合掌される姿にこちらが驚かされました。日本仏教を背負っているという自覚が自然と高まりました」
カンヌの高揚。浮ついた様子を一喝されて
一方で、想像以上の反響に高揚し、いつの間にか浮ついた気分になってしまっていたという反省も。同行した倉島隆行 さん(全国曹洞宗青年会会長 = 当時)から強く叱責された一幕もあったそうです。
「ふざけんなよ! チヤホヤされていい気になるな! 俺らは観光で来ているんじゃないんだ。映画製作を支えてくれたみんなの思いを背負ってここに来させてもらっているんだ。お前、今日はどれだけチラシを撒いたんだ? どれだけ積極的に握手に行って説明したんだ?『今、ここ』とかカッコよく言っているのに、全然『今、ここ』に生きてないじゃないか。永平寺でみんなで誓った『他はこれ吾にあらず 更に何れの時をか待たん』を実践しないと駄目だ」
河口さんは、倉島さんのこの言葉で目が覚めたと言います。映画でいきなり主演を務め、それが世界で評価されて舞い上がりすぎていた自分を深く反省したとのこと。
「倉島さんも珍しく飛行機の中からガチガチに緊張していたんです。映画製作でものすごいリーダーシップをとって、ここまで引っ張ってきてくれた倉島さんの思いに応えられていませんでしたし、何よりも日本仏教を代表してカンヌに来させてもらっているという自覚を新たにしました」
フランスの高校生にも伝わった「生きる」というテーマ
カンヌでは公式上映が2日間あり、1日目は映画関係者のみ、2日目は映画祭の会場から少し離れた街中の映画館で一般の方にもひらかれた上映でした。そこでとてもうれしい出来事が。
「カンヌから車で3時間離れている高校の生徒たちが、課外授業で来ていました。毎年、先生が生徒に見せたい作品を2、3チョイスして、今年はその中に本作が含まれていたんです。上映後に高校生たちが『とても良かった!』と目をキラキラさせながら駆け寄ってきてくれました。食や子どものアレルギーの描写などを通じて、『生きる』という映画のテーマに強く共感してくれたようです」
仏教と禅の普遍性は、世界中どこでも通じると確信した瞬間だったと河口さんは言います。
「本作の中で青山俊董 老師がおっしゃいますが、禅とは『生きる』ことです。修行だけが禅ではなく、食べることも、寝ることも全てです。私たちの身体は24時間体制。休むこと、止まることはありません。こうした営みの一つ一つに意識を向け、全てをやりたいようにやるのではなく、全てがあるべきように営むことが『生きる』ということです。命のありがたみがどこからきているのか、命の重さを説くだけでは伝わりません。『生きる』という営みに落とし込んでいくからこそ、海を超えて伝わる普遍性があるのだと感じました。カンヌでの経験を通じ、映画のテーマは『いのち』から『生きる』へと深まりました」
上映会の後、宿泊所のベランダに出ると見事な満月が夜空に浮かんでいました。
「日本仏教の祈りが『典座 -TENZO-』を通じて世界へと広がり、悩み苦しむ人々の救いに少しでも救いになればという思いが湧きました。そのためにみんなで頑張ろうと。満月を見ながら、みんなで誓いあいました」
(後編へ続く)