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映画「典座」がカンヌ国際映画祭に出品決定! ー 伝えたいことは「いのち」

2019.05.16

カンヌのレッドカーペットを歩きたい!

富田克也監督(中央)を挟み、向かって右が河口副会長。左の作業服が倉島会長(提供:全国曹洞宗青年会)

カンヌに行こう。日本のお坊さんみんなで、カンヌのレッドカーペットを歩きたい!

念ずれば花開くがごとく、一人のお坊さんが掲げた壮大なビジョンが実現しました。
言い出しっぺは倉島隆行さん(全国曹洞宗青年会・会長)。
全国曹洞宗青年会が製作した映画「典座(てんぞ)」が、カンヌ国際映画祭の批評家週間「特別招待部門」に選ばれたのです。(日本での公開は2019年秋)

倉島さんがメンバーを鼓舞するために作成した合成映像(お坊さんがレッドカーペットを歩く風景)

いやー、当時は、みんなが倉島さん何を言っているんだろう、絶対無理だろと思ってました(笑)

そう話すのは映画で主演を務めた河口智賢さん(全国曹洞宗青年会・副会長)。

富士山を背景に河口さんが話すワンシーン(提供:全国曹洞宗青年会)

ひとまず、食の映画で、いのちの循環をテーマに製作が始まったんです。最初は10分くらいのショートムービーという話だったのですが、たまたま従兄弟に映画監督(富田克也氏)がいたり、全国のお寺の協賛が想定以上に集まったので、しっかりものを作ろうということになったのです。

ただ、いざ映画を作ろうと思っても、NHKが既に永平寺の美しい映像を撮っていることもあり、撮影の軸を決めるのに難航したとのこと。

12月24日のクリスマスイブにみんなで永平寺に泊まりに行きました。その時、曹洞宗青年会が一番話を聞きに行きたい人は誰かということで、青山俊董(あおやましゅんどう)老師だと、みんなが一致したんです。youtubeやご著書で青山老師の話を拝読し、典座教訓や食の世界が単純でないということを感じ、青山老師の仏教観に学ばせていただきたいということになりました。

青山俊董老師は日本仏教を代表する尼僧のお一人。国内外で活躍され、曹洞宗の尼僧堂で堂長を務められています。

青山俊董老師(提供:全国曹洞宗青年会)

いのちについての青山老師のお話しは、気づきにあふれたとても贅沢な時間でした。そして、青山老師のお話を軸に、映画のストーリーが固まっていったのです。

東日本大震災を風化させたくない

映画の中では「東日本大震災」が大切なテーマとして描かれています。

東日本大震災は、私たちお坊さんが覚醒するきっかけとなりました。当時、多くの青年僧侶が被災地に長期間入り、できることを一生懸命しました。僧侶の生き方として、こういう時に何をできるのだろうとみんなが考えさせられました。映画に登場するいのちの電話も、震災を機にその必要性を再認識しました。

いのちの電話に取り組むワンシーン(提供:全国曹洞宗青年会)

坊主丸儲けと言われてきた中で、東日本大震災では祈りがとても求められました。沿岸地域に入り、自衛隊の方々と一緒にぬかるみの中でご遺体を探し、供養し、火葬するということをただただひたすら行ったり、火葬場が足りず、ご遺体を他県の火葬場に運んだ仲間もいました。祈らざるをえない日々でした。僕らも祈ることしかできない。心から精一杯のご供養させていただきました。

一方で、被災地に毎年訪れる中で変化を感じているとも。

沿岸部は復興が進んでいる地域とそうではない地域があります。毎年現地に法要に行く中で、現地の方々から『もういいですよ』と言われることも増えています。
映画ではロケハンで浪江町にも入りました。7年前と変わらぬ風景が広がっていましたが、街は廃墟のように人気がなく、放射能を計測するガイガーカウンターも他地域とは異なる数値が出ていました。震災は原発が影を落とし続けています。
映画でいのちの循環をテーマにする以上、震災から目をそむけてはいけない、風化させてはいけない。毎年各地で様々な災害が起こり続けているからこそ、お坊さんとして絶対に忘れないという思いも映画には込めています。

実際に、震災では自死された仲間のお坊さんもいたとのこと。
津波でお寺が流され、檀家さんが離散。お寺の再建が困難になり、自ら命を絶たれました。
河口さんは言葉に力をこめて言う。

仲間の命を供養する映画でもあるんです。

映画には、震災当時の被災地で撮られた映像も出てきます。
当時は多くの方が被災地に入り、カメラを回しましたが、スポンサーがつかず、日の目を見ない映像が多かったとのこと。
映画には、他の方が撮られた被災地の映像シーンが編み込まれています。その点でも、この映画には多くの方々の思いもこもっていると言えます。

兼業しながら寺院再建を目指す僧侶が、被災地沿岸に座るシーン(提供:全国曹洞宗青年会)

僧侶も人間。人並みの悩みを持つ等身大の僧侶を描く

「典座」では、日本仏教のお坊さんの現状を包み隠さず描くということも重視されました。

ついつい聖職者っぽく振る舞いがちですが、お坊さんも人間です。例えば、お坊さんが酒を飲むことは知られています。妻帯仏教となり、私も子どものアレルギーに苦しむなど、お坊さんも世の中の人と同じように悩み、葛藤しています。すべてをさらけ出す必要はありませんが、上から目線で仏教を伝えるのではなく、みなさんと同じ目線に立とうとすることで共感が生まれるのでは、と。こんなお坊さんが仏教に救われているなら仏教はいいもんなんじゃないかと思っていただきたいです。

実際、映画の中にはお坊さんがお酒を飲むシーンも出てきます。
少なからぬ批判も寄せられているそうですが、理想と現実のギャップをそのままにせず、ありのままに伝えていくことを選んだとのこと。
厳然とした年功序列のお寺の世界で、若き僧侶たちのチャレンジとも言えます。

また、この映画は若いお坊さんにもぜひ見てほしいと河口さんは言います。

私も紆余曲折があり、お坊さんをやりたくなくて実際にお寺を出た時期もあります。昔はコンビニに行く時も、私服に着替えて、帽子をかぶっていきました。『お坊さんもコンビニに来るんですね』という地域の人の声がグサッときていました。
でも、凝り固まったお坊さん像という殻を一歩抜け出ると、そこにはありのままのお坊さんを受け入れてくれる世界が広がっていました。お酒を飲んだとしても、律するところは律し、節度ある振る舞いをしていくことで、現在の日本仏教のお坊さんというあり方を多くの人は受けれいてくれると感じています。

青山老師が『色々迷っても、選んで選んで選んだ先に仏教があればいい』とおっしゃられたことにホッとし、救われた気がしました。過疎化や跡継ぎなし、お寺の経営など課題は色々ある中で、自分自身も仏教に救われていたんだということに、この映画を通じて気づかせていただきました。

カンヌで伝えたいことは「いのち」

カンヌの審査員からは「単純さと深さに魅了された」と評価されました。

それこそ禅だと思いました。禅の修行は24時間体制でいのちをいただきますということ。言葉では理解していても、実際はもっと深いものがあります。人間としての葛藤・悩みだけでなく、震災という重いテーマに向き合おうとしたことを評価していただけたと感じます。

着飾った仏教ではなく、実生活の中の仏教。
本物のお坊さんが出演するリアリティも評価につながったそうです。

いよいよカンヌ国際映画祭をお坊さんが歩く日が近づいています。
ドレスコードは袈裟で、あらゆるところを袈裟で歩く予定とのこと。
5月20日には現地で「典座」の試写会も行われるそうです。

最後に発案者の倉島さんからのメッセージです。

「念ずれば花ひらく」
有名な言葉ですが、我々仏教者が本気で祈り、本気で行動すれば夢は叶うと信じています。それを実現してくれた監督さんや仲間の皆には、心から感謝します。
日本仏教の和の精神を大切に、カンヌでは日本仏教ここにありと、堂々と発信してまいります!

聖職者という殻を脱ぎ捨て、僧侶が等身大の姿によって「いのち」というものを伝えようとしています。
日本のお坊さんが込めた渾身のメッセージが世界にどう響くか。
カンヌ国際映画祭からの凱旋報告が今から楽しみですね。

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まいてら 編集部

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