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映画『典座 -TENZO-』へダライ・ラマ法王14世からのメッセージ届く

2019.10.04

カンヌ国際映画祭「批評家週間」特別招待作品となり話題の映画『典座-TENZO-』。この作品に、チベット仏教最高指導者であるダライ・ラマ法王14世からコメントが寄せられました。

本作の製作に深く関わった、全国曹洞宗青年会前会長・倉島隆行さんのご寄稿とともにご紹介します。

ダライ・ラマ法王のメッセージ

ダライ・ラマ法王から届いたメッセージ原文

 

(日本語訳)

映画『典座 -TENZO-』が、社会に貢献する日本の僧侶たちの生活を描いたものであると知り、うれしく思います。2011年の東日本大震災と、その後の福島の惨事を背景にしたこの映画は、人間、自然、そして社会のつながりについても描いています。

仏教の僧侶や尼僧たちが、宗教的な探求のみならず社会的な活動により関わることを、私は常に支持してきました。「人々の幸福のための奉仕」というこの映画のメッセージを通じ、日本における曹洞禅の伝統の中で、私たちの精神的な兄弟たちがおこなってきた、この寛大で有益な取り組みが、世の中により広く知られることを願っています。

祈りと願いを込めて

2019年9月30日

フランスでの修行と不思議なご縁 (寄稿:倉島隆行)

倉島隆行(くらしまりゅうぎょう)

大本山永平寺で修行後、欧州等へ参禅修行に向かう。その後、伊勢皇學館大学に結集された伊勢国際宗教フォーラム世話人としてダライ・ラマ14世を招聘するなど、様々な宗教の垣根を超えて諸宗教対話に尽力している。

四天王寺寺院ページ

「今の日本仏教は形骸化している。昔の経典ではなく、自分自身の言葉で語るようにしなさい」

2007年、ダライ・ラマ法王14世が伊勢に来られた時にちょうだいしたお言葉である。あの日から、片時も脳裏を離れたことはない。

10年後の2017年に全国曹洞宗青年会会長に就任し、最初の就任挨拶で私は会員にこう伝えた。

「映画を製作し、カンヌ映画祭へ行く」

突然の宣言に会場にいた皆は驚いたが、私には日本の僧侶がレッドカーペットを歩くイメージができていた。映画事業にいたるこれまでの道のりと、私自身の仏縁について記したい。

20年程前、宗門の大学を卒業して永平寺での修行生活に入った私は、同級生との突然の死別で、修行の目的を見出せなくたなっていた。臨終へ向かう彼女から、仏教の教えと救いを問われても何も答えることができず、ただ立ちすくむしかなかった。

「このまま僧侶になってはいけない」と、覚悟を決め永平寺を降り、単身、フランスはニースの山奥にあるという、ある寺へ修行に向かった。23歳の時である。

深夜のニース空港に降り立った私は、不思議な体験をする。

到着ロビーで出迎えを待つ旅行客の姿が落ち着くと、深夜の空港は静まりかえり、誰もいなくなった。寺院に着いたらすぐにでも作務(掃除などの労働)を始められるようにと、黒作務衣と黒長靴に大きなリュックを背負う異様な出で立ちの私を出迎える者は、当然ながらいない。翌朝から目的の寺院を探すために、空港のベンチで野宿することにした。

ウトウトとしていると、誰かが歩み寄ってくる気配を感じ、ハッと目を覚ました。

淡白く浮かぶ姿はフランス人の老婆で、童話の本で見たような雰囲気のドレスをまとい、杖をついている。言葉も分からない私に語りかけた言葉は「明日はどこに向かうの?」だと勝手に理解し、リュックから目的地の住所が書かれたメモを見せた。それを手に取った老婆は何やら書き足して「これで大丈夫」と微笑み、メモを返してくれた。

それからフランス語の本を優しく朗読してくれ、私はいつのまにかグッスリと眠りについていた……。

 

到着したニースの空港。このベンチで野宿し、老婆と出会う

 

朝になり飛び起きると、老婆はいなかった。夢かと思い、荷物が盗まれていないのを確認してメモ書きを見たら、確かに一行書き加えてあった。さほど気にせずタクシーの運転手に見せるとすぐに伝わったようで、個人タクシーは軽快に走り出した。ところが一向に目的地に着く気配がない。後で調べたら、向かった場所は寺院とは逆方向でカンヌの山間を何時間も走り回っていた。タクシーに問いただすと「このメモにはここの場所が書いてある」と一点張りだった。当然だが目指した寺院はそこには無く、半日探し回って元のニース空港に戻ってきてしまった。これで所持金のほとんどを失うことになる。

それからが大変だった。一から寺院の場所を調べ、電車に乗り、葡萄畑を歩きながらポンプ小屋で野宿をし、星空を見ながらお袈裟に包まって寝た。歩きながら重い荷物を少しずつ捨て、2日かかってようやくお寺に着いた。

 

葡萄畑にあったポンプ小屋を拝借して一夜を過ごす

 

その時には文字通り一文無し、荷物なしの状態で、法衣と帰りのチケットだけになっていた。おかげで、修行に対する甘えも全て捨て去ることができ、覚悟が決まった。それから約1年、正しく坐禅三昧の生活を送ることができた。

 

倉島さん(左)と修行仲間。二名ともブラジル人

 

境内から見える風景。何もなく坐禅のみの時間が流れていた

 

フランスでの修行を終え、日本へ帰る前に私は導かれるようにカンヌを訪れた。カンヌ映画祭が開催される場所だというぐらいの知識しかなかったが、砂浜に立ち海を見ながら「将来、ここに戻ってくるのだな」と、自分の脳裏に刻まれる思いがした。仏教と映画。この時から構想が始まった。

ニースに戻り、空港へ続く海岸通りを歩いていると、初日に出会った老婆がいた。信じられないかもしれないが、まちがいなく彼女だった。

私は特に驚かなかった。なぜなら、求道心を持ちフランスにやって来た私に対して、正しく修行できるようにと観音様が老婆に化身して助けてくれていたのだと、修行中考えていたからだ。「あなたのおかげで実りある修行をさせていただきました。ありがとう」と彼女に手を合わせて別れを告げた。老婆は何も言わずににっこりと笑って、帰路に立つ私を見送ってくれた。

仏教が「縁」を説くのであれば、この映画にいたる道のりこそ、全て縁によって成り立っている。

東日本大震災が発生し、青年僧侶たちがボランティア活動で泥にまみれ、慰霊法要で涙を流した。福島では除染作業に参加し、途方もなく続く作業に絶望を感じた。もがき苦しむなかで、映画監督である富田克也氏と出会えた。そして、カンヌ映画祭の舞台に立てた。「空族」の皆様や映画『典座 -TENZO-』に関わってくださる方々に恵まれたのも、全て仏様のお導きによる縁だと感じる。

災害でお亡くなりになった方々。
未だ苦悩する方々。
亡き同級生。
導いてくださったダライ・ラマ法王。
そして、観客の皆様へ。

我々の祈りを込めた映画が届くことを心から願います。

合掌

(参考記事:カンヌで大反響! 映画『典座 -TENZO-』いよいよ公開

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