まいてらの社会貢献活動。世の苦しみに自然と動けるお寺のつながりを(井出悦郎)
2021.02.18
井出悦郎(いでえつろう)
1979年生まれ。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、まいてらを運営する一般社団法人お寺の未来を創業。同社代表理事を務める。東京大学文学部卒。
著書に『これからの供養のかたち』(祥伝社新書)
お寺は「公益」の存在か
昨年(2020年)から、まいてら寺院のページに「社会貢献」という新たなカテゴリーが加わりました。
お寺は宗教法人、つまり公益法人の一つです。
お寺の公益性については様々な議論があります。公益とは「社会一般の利益」だという観点から、「檀家という一部に限定されるのは『公益』ではなく『共益』である」という見方も根強くあります。
全国には7万を超えるお寺があり、ひとことで「お寺」とくくれないほど多種多様です。その中には、市民から共感を得られにくいお寺があることも事実です。
- 檀家さん以外には門戸を閉じている
- 仏事以外の目立った活動を行なわない
- (実際は異なるものの)あたかも住職・寺族の専有物のように見える
- 高額なお布施・戒名料などを求められるイメージがある
残念ですがこのようなお寺の存在やイメージによって、お寺の公益性を疑問視する市民感情が一定数を占めているのが現状です。宗教事業と境内地の「非課税」に対する社会からの厳しい目も、このような現状が背景となっているのでしょう。
お寺も市民社会に存在している以上、市民からの支持や理解を得る努力は不可欠です。したがって「お寺の公益性」に対する市民感情を良化するには、お寺が積極的な社会貢献に取り組むことが求められます。
活動を可視化し、発信することが大切
葬儀・法事などのいわゆる葬式仏教が目立ちがちですが、お寺は以下のような、さまざまな社会貢献活動を行なっています。
- 幼稚園・保育園の運営
- 終末期のケア
- 僧侶が教誨師として活動
- 国際的な慈善活動
他にも、近年全国的に広がる「おてらおやつクラブ」は社会福祉活動の一例です。こうして宗教活動に限らない社会貢献活動に取り組むことで、市民からお寺の公益性が認められやすくなります。
ただ、こうした活動は市民からはなかなか見えません。
これはお寺の「奥ゆかしさ」も影響しています。慈悲の心から取り組む活動は、共感を得るために行なっていることではないので、社会に向けて発信することに抵抗感があるお寺も少なくないでしょう。
しかし、まず知ってもらわないことには、理解は得られません。
このような問題意識を背景にまいてら寺院と対話を重ねたところ、「まずはそれぞれのお寺が取り組んでいる社会貢献活動を発信することが大切」という結論に至りました。
すでにいくつかのまいてら寺院は、社会貢献ページを開設しました。それぞれのお寺の特色が反映された多彩な取り組みを見ると、世のため人のためにお寺が持つ潜在力の大きさに気づかされます。
●教員リトリートカフェ(法華寺・大阪府)
●フェアートレード作務衣(本休寺・千葉県)
●地域猫のTNR活動(感応寺・東京都)
●生前契約サポート(大蓮寺・大阪府)
華々しい活動である必要はなく、身の丈に合った活動を長期的に継続することが大切です。そうすることで、檀家さんをはじめ地域の方々の慈悲心や利他心という、ある種の優しさをはぐくむことにもなるでしょう。
社会貢献ページを開設したまいてら寺院はこちらです。今後さらに増えていきます。
まいてら寺院の連携でできる社会貢献活動もある
また、個々の寺院だけでなく、まいてら寺院同士が連携することでできる活動もあるのではないかという声も出ています。今後、具体的な活動を発信していく予定です。
お寺の公益性という問題意識から始まった、お寺の社会貢献活動。
最も大切なことは、活動を通じて社会に存在する苦しみを減らし、境遇に関係なく「あらゆる人が包摂される社会」に近づいていくことです。慈悲と利他の活動を通じて、お寺の公益性は「結果的に」高まるのであって、お寺の公益性を高めるための「手段」として活動を捉えてはいけないということが肝要です。
苦しみを抱えている人には手を差し伸べ、悲しみを抱えている人にはそっと寄り添う。世の艱難辛苦に自然と身体が動く、「まいてら」はそんなお寺のつながりでありたいと思います。