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街の景色に見る利他性。新型コロナウイルスがもたらしてくれるもの(井出悦郎)

2020.05.18

文:井出悦郎

外出自粛中、街からゴミが消えたのはなぜ?

 外出自粛の期間中、毎朝家族で1時間ほど散歩しています。東京でも空気が綺麗きれいになっていくことの驚きや、春なのでたくさんの花が咲く楽しみを感じています。
 散歩途中には近所のお寺や神社にお参りし、医療従事者をはじめ、さまざまな場所で社会インフラを支えてくださっている多くの方々に感謝しています。

 そして、ある時にふと気づいたことがありました。どの道を通っても、街がとても綺麗なのです。
 そもそも歩行者や通行量が減っていることもありますが、雨風が吹けばそれなりに葉は散りますし、自然にしていると何らかのゴミが街に散らばるのがふつうです。

 散歩中に意識してみると、多くの家々で周囲をく姿が見られました。そして、中にはご自宅から遠く離れた道路、いわゆる公共スペースまで掃かれている方も。驚いたのは、ゴミ袋を片手に、散歩がてらゴミ拾いをされている方もいらっしゃったことです。
 さまざまな制約に縛られた中で、それぞれが自分にできる利他行 りたぎようにつとめておられます。新型コロナウイルスがきっかけとなった利他の姿は朝日に照らされ、未来に向けた希望として、街を彩っていると感じます。

家の草木を美しく育てることも社会貢献

 私の母は園芸が好きで、「草花を美しく育て、歩く人を楽しませることが私の社会貢献」とよく言います。年間を通じて、母なりの利他行にはげんでいます。
 母の姿にならい、わが家でも草花を育て、ふだんからできる限り手入れをしています。

 私の仕事部屋からは散歩する方々が見えるのですが、わが家の草花をで、喜ばれている姿が目に止まります。これまで日中は仕事で家におらず、このような姿を見ることはなかったので、私にはとても新鮮です。

 考えたらお寺や神社はいつも綺麗に掃き清められていますが、それもまた立派な社会貢献ですね。

この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる

「エンゲイジド・ブッディズム(行動する仏教)」で有名な、ベトナムの禅僧ティク・ナット・ハン師に次のような言葉があります。

「この一枚の紙のなかに雲が浮かんでいる」(ティク・ナット・ハン『仏の教え ビーイング・ピース』棚橋一晃訳、中公文庫)

 雲なくして水はなく、水なくして木は育たず、木なくして紙は作れません。木を伐る人や、紙を作る人も必要です。そして、木々や人間には太陽が必要です。
 一枚の紙のなかにはあらゆるものがある、というこの言葉は、全てのものがつながっているという仏教の縁起思想を端的に表しています。

 街を掃いてくれている多くの方々のおかげで、私たち家族は気持ちよく散歩することができました。
 気分がよくなった私たち家族は、わが家の草花の手入れをし、それを散歩中の方々が愛でます。
 そして、愛でた方々も日常のどこかで、誰かの心を癒すいとなみをされていることだろうと思います。
 ソーシャルディスタンシングの真っ最中ですが、自分のいとなみや存在が、他の誰かとつながっているということを感じます。

新型コロナウイルスによって引き出される利他性

 新型コロナウイルスをきっかけとした罵詈雑言ばりぞうごんも巷にあふれていますが、一方で、輝きはじめている光も感じます。さまざまな場所で広がりつつある私たち一人ひとりの利他性は、それが連鎖することで、違った形の利他性に進化していく可能性があると思います。

 これから始まる「新しい日常」においては、特にさまざまなテクノロジー(技術)が急速に発展し、社会に浸透していくと思います。そんな中で、テクノロジーを独り歩きさせない、「テクノロジーをどう使うか」という精神性が、いま問われていると感じます。「その技術は人間の幸せを増すのか?」「利他性の発揮を後押しするのか?」という観点が大切です。自粛期間中も様々な地域・業界で、数多あまたの利他性がインターネットの様々なサービスや取り組みを通じて発揮されていました。
 新しい日常においても、新型コロナウイルスとの共生を通じて、日本や世界に眠る利他性がさらに引き出されていくことを願ってやみません。

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井出悦郎

井出悦郎

1979年生まれ、東京育ち。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、一般社団法人お寺の未来を創業。同社代表理事を務める

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