葬儀に宗教者が必要だと多くの人が思っています -信心と葬儀-(足立信行・T-sousai代表)【死に方のココロ構え(24)】
2023.12.06
足立信行(あだちしんぎょう)
株式会社 T-sousai 代表取締役社長。1982年、京都府生まれ。在家の家に生まれる。18 歳の時に高野山で僧侶になることを決意。高野山金剛峰寺布教研修生修了。高野山で修行をする中で僧侶や寺院の役割を考え、一度下山。葬儀の重要性に気づき、2008年 大手互助会系の葬儀会社に入社。葬儀の担当者となり、年間約 120 件の葬儀を手掛ける。2012 年IT 企業に入社し、エンジニアとして活動。2017年、僧侶と葬儀会社の担当という経験から、お互いが遺族や故人のために協力し祈りの場所として本堂などで葬儀をあげ、安価で心あるお寺葬の構想を企画。葬儀の告知、WEB、導入などから実施、施行までをワンストップできる株式会社 T-sousai を創業し、現職。
※前回(なぜお寺主催の終活セミナーは人の心を打つのか?)はこちら
最近の葬儀費用の実情
11月8日に付けで大手葬儀紹介サイト「小さなお葬式」による、「お葬式大調査」と題したアンケート結果が公開されました。過去1年で喪主を務めた方を対象に、費用や規模、一般葬と家族葬の割合などが公開されています。調査期間は昨年2月24日~5月23日で、かなり近々の情勢が反映されており、コロナ禍における最後のアンケートではないかと感じます。
今回のアンケートで最も気になった点は「一般葬」と「家族葬」における「葬儀そのものの費用の開き」です。
葬儀費用(飲食代・お布施を除く)は一般葬が131万円。家族葬が75万円となっており、その差が約55万円あります。これは現場で動いている人間からするとかなりいびつです。というのも、葬儀そのもので使うアイテム(商品)は家族葬であれ一般葬であれほぼ変わりません。棺・骨壺・遺影・納棺・役所代行・仏衣・など。家族葬であっても一般葬であってもそれらは必要で、人数の多少に関わらず発生するものであり、約55万円の差額は少し気になります。本アンケートからはその要因が見えないのですが、もしかすると、返礼品と供物が「葬儀そのものの費用」に入っているのかもしれません。
返礼品とは、香典返しや会葬御礼などを指します。最近は1万円までの香典に対しては当日に返礼をするケースが多くなり、その返礼品を葬儀費用に入れたのではないかと推察します。もちろん、返礼品の費用は人数の多少によって変化します。
供物は、家族や親せきがお供えするもの(生花や缶詰、地方によっては花輪)を指し、こちらも返礼品同様、実際の供物の数によって費用は変化します。
返礼品や供物を葬儀そのものに入れて55万円の差額が出ているのか、もしくはそれ以外に何か含まれているのか分かりませんが、通常は、「飲食・返礼」の項目に該当し、わざわざ返礼品を上記の金額に入れることは作為的なものを感じます。
また、返礼品、供物を抜いて考えた場合、「葬儀そのものの費用」で大きく変わるのは、式場使用料・セレモニースタッフ・祭壇などです。
この中で最も大きな変動があるのは、式場使用料と祭壇です。
式場使用料は端的に言いますと、葬祭場を使用するときの費用で、特に近年、多くの葬儀社で値段が引き上げられてきた傾向にあります。式場使用料は世情の景気などが反映しやすくまた、「式場使用料を上げました」という紙一枚で告知が済むため、多くの葬儀社が売上を上げるための温床になってきました。
私が昔働いていた葬儀社では、「会員の方は式場使用料が無料です」とパンフレットや案内で謳っていたにも関わらず、いつの頃からか無料をやめて、徐々に金額を取るようになり、私がその会社を辞めるときには、10万円近くになっていた記憶があります。わずか4年で無料が10万円になったのです。
式場使用料が無料であることは、約款や契約書には書かれておらず、法的には違法性はないものの、顧客(会員)の利益を無視した姑息なやり方に閉口したことを覚えております。葬儀社も営利企業ですので収益は大切です。しかし、企業の倫理観を問うたときに申し開きができるのかどうか、はなはだ疑問です。
葬儀社を信頼してもいいし、信用してもいい。けれども、依存したり、すべてを任せるということは決してやってはいけません。ネットで調べるもよし、誰かに相談するもよし、一人で決めたり一任することは慎むようしましょう。
信心と葬儀
本アンケートで今回私が注目したのが、一般葬を実施した人と宗教者の有無を共に俎上に乗せたことです。つまり、一般葬をした人の信心の有無をアンケートで実施したことでした。(アンケートにおいては信仰という言葉を使っておりますが、私は仏教徒であるため、信仰というより信心という言葉のほうが穏当であると感じており、本稿では信心を用語として使わせていただきます。)
アンケートの「一般葬の中で宗教者を呼んだか否か」という設問で、宗教者を葬儀に呼んだ人が多いのが一般葬であり、一般葬でも全く呼ばなかった人は1割未満という結果でした。そして1割未満の方に関して「一般葬においては、宗教の信仰がありながらも宗教者を手配しない人はごく少数であることがわかりました。」と記載されています。つまり、信心のある人は一般葬を多く選択する傾向があるいという結果になり、まとめでも「菩提寺との関係から一般葬を選んだのではないか」とも考察されています。
信心というと極めて個人的なものであり、数値化することも憚られるものですが、一般葬では宗教者を呼ぶ人が多かったというのは興味深い結果になったと感じます。本アンケートの結果は改めて儀式に宗教者が果たすべき役割が大きいことを知らされます。
一方で、昨今は僧侶をさげすむようなネットや報道での情報が増えています。僧侶に問題のあるケースがほとんどですが、「葬儀は簡略なのが増えている」とか「宗教者は葬儀に不要だ」などという局所的な声を、さも全員が思っているかのように拡大するメディアの姿勢に、何か作為的なものを感じざるを得ません。
言論は自由ですし、そのことを咎める気はありませんが、本アンケートを見ると、これだけ世間でいろいろ言われているにもかかわらず、儀式と宗教者が不可分であることを多くの人が感じているのだなと思います。葬儀に宗教者が必要であると思うサイレントマジョリティ(声なき多数派)が、実際にいるのです。
一般葬と宗教者の有無の関係を見ると、何か大きなヒントがあるように思います。つまり、葬儀や儀式をしっかり務め、意味内容をわかりやすく説明し、心に残る儀式を営むことが、信心を広げていくことにつながるのはないかと感じるのです。そのためにも、僧侶自身が葬儀や儀式を学び、きちんと伝えることが重要です。
相談することが大切
そして、本アンケートにはもうひとつ大きな視点がありました。それは「相談する」ということです。
本アンケートでは、「一般葬を執り行うにあたって誰かに相談しましたか」という問いがあります。誰かに相談することで、家族葬から一般葬に変わったという人が一定数見られます。
私自身は家族葬であろうが、一般葬であろうが、正直どちらでもよいと思っています。葬儀の形態はご遺族が決めることですし、家族葬と一般葬におけるそれぞれのメリット・デメリットをお伝えした上で、葬儀の形態をご遺族にお伺いします。
葬儀の形態について、メディアやインターネットで聞きかじった情報をもとに選ぶのだけはお勧めしません。例えば、故人が企業の代表などを務められていた場合は、現役を退いたとしても焼香に行きたい方は多くおられ、亡くなった方への想いを消化できない可能性も出てきます。また、会社勤めではなくてもご友人が多く、最後にお別れをしたい、最後に顔を見たいという方が多い場合、家族葬や小規模なお葬式が最も良いとも言えません。
人間一人ひとりにそれぞれの人生があるように、一人ひとり異なるのがこのお葬式なのです。安直に家族葬を選んだがゆえに、「焼香にも行けず悲しかった」と後日会社の友人の方から遺族が手紙をもらうケースは多々あります。
葬儀の形態を選択する際に、お寺でも葬儀社でもなんでもいいので、誰かに相談することが最も重要です。
相談することが問題解決にならなくてもよいといます。情報を得て、自分の問題点をみつけることで、問題解決にはならなくても、問題整理には必ずつながります。自分の葬儀や身内の葬儀について、誰かに相談することはとても大切なことだと感じます。
思わぬ落とし穴があるのも葬儀では当たり前です。ぜひ、誰でもけっこうですのでご相談することをお勧めします。