よい葬儀社の選び方。NGなこと&大切なこと(足立信行・T-sousai代表)【死に方のココロ構え⑨】
2022.08.12
足立信行(あだちしんぎょう)
株式会社 T-sousai 代表取締役社長。1982年、京都府生まれ。在家の家に生まれる。18 歳の時に高野山で僧侶になることを決意。2005年高野山大学人文学部密教学科卒業。2006年高野山専修学院卒業。2007年高野山金剛峰寺布教研修生修了。高野山で修行をする中で僧侶や寺院の役割を考え、一度下山。葬儀の重要性に気づき、2008年 大手互助会系の葬儀会社に入社。葬儀の担当者となり、年間約 120 件の葬儀を手掛ける。2012 年IT 企業に入社。エンジニアとして活動。2017年、僧侶と葬儀会社の担当という経験から、お互いが遺族や故人のために協力し祈りの場所として本堂などで葬儀をあげ、安価で心あるお寺葬の構想を企画。葬儀の告知、WEB、導入などから実施、施行までをワンストップできる株式会社 T-sousai を創業し、現職。
※前回(供養は「遺志を引き継ぐバトンリレー」)はこちら
良い葬儀社の選び方
お寺で終活セミナーをしていると、「どういう葬儀社を選べばいいですか?」という質問をよく受けます。
よいお葬式を行うためには葬儀社が不可欠です。団塊の世代の方が多く鬼籍に入られるため葬儀は他人事ではなくなり、昨今は質問に切迫さが感じられてきました。自分のお葬式のこと、家族のお葬式のことなど、事前に考えたり調べることが多くなってきたので、後悔しないためにどういう葬儀社を選べばよいのかとても気になるのではないでしょうか。
「葬儀屋さんは儲かるんでしょ?」ということもよく言われます。ひと昔前はそうだったかもしれませんが、今はそれほど儲かりません。
葬儀自体の件数は伸びていますが、葬儀スタイルの変化や参列者数の減少が顕著になり、売上は減少しています。葬儀費用は横倍とも言われますが、私の周りの葬儀社に聞くと一時期に比べ、葬儀費用はかなり減っています。
今、葬儀社は利益を上げるために細かな値上げをしています。人件費や会場使用料など、様々な項目の値上げをしています。利益を確保するために、葬儀社も必死です。
葬儀社を選ぶ際に、葬儀の満足度の高さが取り沙汰されますが、この満足度ほど不透明で個別的なものはありません。葬儀という商品は性質上、「自分が買ったものは良かった」という選択支持バイアスがかかります。自分が買ったものを正当化したい心理です。「親の最期だからきれいに終わらせたい」、「葬儀くらいはトラブルを起こさず静かにやりたい」と言う気持ちがあるため、よほどのことが起きない限り葬儀のクレームは出にくい傾向があります。
そして同時に、人生の中で施主的な立場での葬儀経験は限定的なため、葬儀を比較対象できる目線が消費者に育まれず、葬儀の良し悪しが分からないという点も実情としてあります。この消費者の経験不足、知識不足によって、葬儀社にとっては利益を上げる環境が生まれやすいとも言えます。
よい葬儀社を選ぶオススメのポイントは「担当者」
それでは、よい葬儀社を選ぶためにどうすればよいのでしょうか。「葬儀社」を選ぶという考えでは間違います。大切なのは、よい「葬儀社」ではなく、よい「葬儀担当者」なのです。
葬儀社を病院に例えると分かりやすいのではないでしょうか。
自分が病気になり病院を選ぶ時を考えましょう。施設の美しさや看護師の方々の対応、きれいな病室など病院を選択する条件は数多くあげられます。古くからやっているとか、両親がお世話になったとか、近いからという理由もあるでしょう。
しかし、どれだけ近くにあろうが、病院がきれいであろうが、肝心の医者が優秀でなければ本末転倒です。その病気の症例を知っており、経験豊富で、謙虚で、患者や家族のために診察・執刀する医者こそ大切です。医者と医療従事者、患者本人が一丸となって病気を治す。病院の美しさや近さも大切ですが医療に携わる人が最も重要ではないでしょうか。
葬儀社も同じで、よい担当者を選ぶことは、優れた医者や医療従事者を選ぶことと同じです。あらゆる葬儀を知っており、経験豊かで、本人や遺族の言葉に耳を傾け、故人や遺族のために誠実に対応し汗をかく。そのような担当者こそが優秀なのです。
やってはいけないことは、担当者に直結しない情報で選ぶことです。代表的には次のような点が挙げられます。
「昔からある葬儀社だから安心」
「CMでよくやっているから大丈夫」
「上場しているから・大手だから」
「アンケートで満足度が高かったから」
担当者を全面に押し出している葬儀社はあまりありませんので、WEBなどから情報を検索することは難しいです。それゆえ実際に葬儀社に足を運んで、見積もりを取り、担当者の話を聞き、それらの直接的に得た情報で決めることが大切です。よい葬儀をしたいと思ったら、時間をかけることが不可欠です。
再度強調しますが、よい「葬儀社」を探すのではなく、よい「担当者」を探す。これこそが最も大切なことです。
「あなたのご両親のように私の葬儀をしていただけますか?」
信頼できる葬儀担当者に会うことは簡単でありませんが、かならず実現できます。足を運んで実際に会い、見積もりにも納得できた際、この質問をしてください。
「あなたのご両親のように私の葬儀をしていただけますか?」
まだ私自身が葬儀担当者だった頃、先輩から厳しく指導を受けました。「自分の両親のように葬儀をしなさい」と。自分の両親、自分の家族と同じことができるかどうか。これは葬儀担当者としての責任の重大さや覚悟を問いただすとても重い言葉です。この質問に即答できる人間は、常日頃から覚悟をもって仕事をしている、プロとして信頼のおける担当者だと思います。
葬儀の仕事は、仕事であると割り切りにくく、どこかで「想い」を優先させないと続けにくい仕事です。
当然、葬儀金額や遺族の要望を聞いてくれることも重要です。しかし、自分の両親を見送るように葬儀を実施することが最も重要です。残念ながら、まるで物のように故人を扱ったり、遺族の気持ちなど微塵も顧みなかったりする、ひどい担当者も少なくないのが葬儀業界の現実です。だからこそ、よい医者を選ぶように、よい葬儀担当者を探し、後悔のない葬儀をしてみませんか。