改革の原動力は、窮地を支えてくれたご門徒さんへの恩返し(林正寺住職・橘勇人)
2023.11.02
林正寺(新潟県・真宗大谷派)では、毎月第3日曜日に「お寺カフェ」を開催。地域の方やご門徒さんがお寺に集い、お寺空間で楽しいひと時を過ごします。
お寺カフェこそ林正寺のキモです。10年以上も継続してお寺の改革に取り組めているのには、苦境に立たされた中でもずっと味方でい続けてくれたご門徒さんの存在がありました。
橘勇人(たちばなはやと)
林正寺住職。2014年から第20代目として住職を継承。もっとお寺と仏教を身近に感じてもらうため、お寺カフェを主宰。葬儀の際のムービー作成など、型に寄らない寺業を展開している。
月に一度のお寺カフェ。読経、法話、カフェ仲間
毎月第三日曜日の朝。9時に村中に鐘の音が響き渡ります。これがお寺カフェ開始の合図。まもなくすると、ぞろぞろと顔なじみの人たちがお寺にやって来られます。中には、たまに参加の方、ネットで知って下さった方などもいて、お寺としてはどんな方でも大歓迎です。
午前9時10分から、まずはみんなで5分程度の読経。それから5分程度のミニ法話。真宗教団連合の発行する「法語カレンダー」に書かれているその月のことばの意味を解説しながら、仏さまのみ教えに触れていただきます。
そうこうしていると9時半頃になり、あとはコーヒーやお菓子をふるまって、みなさん各々の話で盛り上がります。私や坊守が話の輪に加わることもありますが、ある程度時間が経つと、みなさん話に夢中になり、私たちが退くことに気づくことがないほどです(笑)。
ちなみにお寺カフェでふるまわれるコーヒーは、地域でも評判のお店から仕入れた珈琲豆を使用。「林正寺に行けば、あのお店のコーヒーが飲める」と評判です。お寺を身近な場所にしてほしくて取り組んでいますので、参加費も特にいただいていません。
窮地のお寺を支えてくれたご門徒さん
林正寺は、期限付き墓石や女性専用墓、水子供養やさまざまなイベントの開催など、たくさんのお寺改革に取り組みながら、「有縁の人に『ありがとう』と言われるお寺」を目指してきました。おかげさまで、私が住職に就任した10年前と比べると、お寺もさまがわりしたのではないかと思います。
実は、私が住職に就任したころの林正寺は、門徒数の減少や諸々の事情から、お寺の存続に限界を感じており、廃寺を検討するほど窮地に立たされていました。
そんな中でも、いつも私たちのことを考えて下さり、かげにひなたに、お寺の味方でいて下さったのがAさん。時に私たちにやさしいことばをかけて下さり、時に経済的な支援もして下さいました。
「こんな素晴らしいサポーターがいて下さるのだ。私たちもがんばらなければ」
こうして林正寺のお寺改革が始まりました。
原動力は、Aさんへの恩返し
まずすぐにできること、それがお寺カフェでした。もちろんAさんもお誘いし、毎月のようにご参加下さいました。お寺カフェを開催することで、地域のお年寄りも少しずつお寺に足を運んで下さるようになり、手ごたえを掴みます。
その後、本堂修繕をはじめ墓地をきれいに造成したり、参道の整備をしたりと、さまざまな改革に着手しましたが、すべては「Aさんが喜んで下さるかな」との想いで取り組みました。
整備後のお寺の参道。どなたさまもお参りしやすいバリアフリーのお寺を目指しています
もちろん、他のご門徒さまや、お寺にご縁のあるすべての人たちのためにお寺改革を実施したのですが、改革の原動力はAさんに喜んでいただくことでした。Aさんが喜んで下さるのであれば、きっと他のご門徒さまも喜んで下さるはずだと。
改革の進むお寺を見ては、「ああ、きれいになったね」「お寺がよくなっているね」とお褒めくださったAさん。ところが、コロナ禍でお寺カフェも中断。その期間中にAさんは体調を崩してしまい、いまは施設に入所されています。
Aさんがお寺カフェに足を運べなくとも、私たちは、今日もお寺改革に励んでいきます。原動力はAさんへの恩返し。その想いが同心円状に広がっていき、ご門徒さんや地域の方々にも喜んでいただけるお寺を目指してまいります。