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「地域包括ケア寺院」こそ、これからの看取りの要(井出悦郎)

2019.12.04

龍興院の本堂にて

 11月25日(月)に、龍興院(東京都墨田区)で、今年最後の「おてら終活カフェ」が行われました。今回のテーマは介護で、タイトルもずばり「失敗しない老人ホームの選び方」です。

「『良い』介護施設」はない

 講師は、民間介護施設紹介センターの大手「みんかい小嶋勝利こじまかつとし 常務。とてもわかりやすく軽妙な小嶋さんのトークに、参加者のみなさんは始終うなずかれていました。

当日のスライドから。ややこしい介護施設の分類も、すっきりわかりやすく図示してくれる

「仕事柄、『良い介護施設を紹介してください』とよく言われますが、良い介護施設というものはないです。なぜかと言うと、『良い』というのは人によって違うから。なので、『あなたに合った介護施設を見つけることはできます』と伝えます」と小嶋さん。中でも印象的だったのが以下の言葉です。

「ご相談のほとんどが、『あと1~2週間で施設を見つけないといけない』という切羽詰まったケースです。それでは自分にピッタリの施設は見つかりません。なので、元気なうちにできれば一年ほどかけて、自分に合った施設を見つけてほしいと思います」

 話を聞きながら、私は子どもの保育園探しを思い出しました。

 ・駅に近い便利な保育園だから良いわけでもない
 ・公立だから必ず安心というわけでもなく、個性のある民間だから良いわけでもない

 実際にいくつかの保育園を見学すると、「この保育園は先生たちの雰囲気がなごやか」「ラフな格好の先生が多くて、雰囲気が軽いなぁ」「園長先生がしっかりしている」など、いろいろわかります。そうして得た情報から、志望順位を決めました。
 高齢者向け施設と保育園という違いはありますが、人(介護士・保育士)にお世話していただくことや、施設そのものがある種の閉鎖的コミュニティであること等、共通点があると感じました。

僧侶が看取りに積極的に関わってほしい

「施設での看取みと りはどうなっていますか?」

 参加者からの質問に対し、小嶋さんは次のように答えました。

「現在、介護施設には『看取り加算』という介護報酬がつくので、看取りには、医師の診断が必要です。私もさまざまな現場に立ち会ってきましたが、死という力を前にして医療には限界もあると感じます。死を目前にした人に対する心のケアが、現在の介護施設にはまだ十分とは言えません。そのためにも、宗教者が積極的に看取りに関わってほしいと思っています」

 小嶋さんは、お寺と介護施設の連携に強い思いを持たれていますが、その思いが端的に表れたやり取りだったと感じます。

今こそ求められる「地域包括ケア寺院」

 おてら終活カフェが終了し、参加者が帰られた後、小嶋さん、龍興院の大島副住職とカフェの様子を振り返りました。そこでも「看取り」が話題になりました。

「身近な人の死を前にして、時には家族が取り乱し、騒然とした場になることがある。果たして、そこに立ち会える僧侶が今どれだけいるのだろうか」と大島さん。

「看取りはもちろんスキルも大切だが、究極的にはスキルを超えて、一人の人間の死に向き合おうとする僧侶のあり方、覚悟が問われるのでは」と私。

「地域包括ケアに寺院・僧侶が積極的に関わっていってほしい。まさに求められているのは『地域包括ケア寺院』ではないか」と小嶋さん。

 「地域包括ケアシステム」は、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的として、可能なかぎり住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、支援やサービス提供体制(システム)を地域で構築しようというものです。
 医療や介護、地域福祉の世界ではよく目にする言葉ですが、地域包括ケアにおいて、寺院にも果たせる役割があるのでは、と思います。

 例えば現在も地域によっては枕経まくらぎよう という、臨終りんじゆう の枕元で僧侶が読経どきよう して安らかな死に導いていくという営みがあります。本来は臨終に際して行われるべきものが、実際には死後に行なわれることがほとんどというのが実態です。そして、都市部では枕経という営み自体が希薄化しています。

 多死社会が到来し、最近ではさまざまな領域のプレーヤーが隣接業種との連携を積極的に模索する動きが出てきています。企業などからまいてらに寄せられるさまざまなオファーを見ていても、お寺に対する期待は大きいと感じます。

 家族制度の名残が瓦解し、死の現場が家から医療・介護施設に移る中、現代的な看取りのあり方が模索されています。公的扶助のみに頼らない、お寺やさまざまなプレイヤーが連携する民間の力は今後さらに引き出されていくでしょう。まいてらもこうした「地域包括ケア寺院」具体化の流れに、貢献していきたいと思います。

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