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戒名料が高すぎる?実はお金がかからないお寺は多いです【教えて!お坊さん:戒名②】

2021.07.06

 お寺にまつわる素朴な疑問を、お坊さんたちに直接うかがう【教えて!お坊さん】シリーズ。戒名について私たちが知りたい「基本のキ」を教えてもらった前回に続いて、今回はいわゆる「戒名料」について、現状やホンネをオンライン座談会形式でうかがいました。

戒名料は高いと言われますが、実際はどうなのでしょうか?

お布施と戒名料は分ける必要があるのでしょうか。

戒名に関するさまざまな疑問やホンネについて赤裸々にお答えいただいています。

最後の編集後記とともにぜひご一読ください!

戒名料が高すぎる!?お布施と分ける必要は?実は「戒名料」のないお寺は多い!

まいてら編集部(以下、編集部)
戒名にまつわるお金について語るとき、実際問題として世間では戒名「料」と言われていますが、みなさんはどう思いますか?

日蓮宗僧侶A(以下、日蓮A) 
やっぱり戒名は高いという、料金的な印象をみなさん持っていますね。うちのお寺のお布施は、通夜も葬儀も戒名も全部セットなので大体このくらいですねと言っても、「戒名料はかからないですか?いくらですか?」と聞かれることが多いです。葬儀のお布施とは別にかかるんだろうなというイメージ。みなさん必ずネットで戒名料の相場というものを見てくるみたいで、うちのお寺はセットですと伝えると、「思ったより安いんですね」という反応があります。落差があるのでしょうね。もっと高く伝えれば良かったと思ったことも(笑)

浄土真宗僧侶B(以下、真宗B)
浄土真宗では法名(浄土真宗における戒名)に対してお布施をもらうことは基本的にはありません。なので、ご門徒さんに戒名料は?と言われることもありません。うちのお寺の地域は浄土真宗ばかりなので、戒名料がテーマになりません。ただ、浄土真宗では生前に法名をもらう場合、帰敬式という儀式があり本山に1万円を納める決まりがあるので、これに関わるお布施はいただいて、賦課金(毎年納める本山への上納金のようなもの)とあわせて納めています。

真言宗僧侶C(以下、真言C)
戒名料と言われていることに違和感がないわけではありませんが、お施主さんの立場からする「料」とした方が分かりやすいのではないか、とも思います。我々の地域では「●●仏教会申し合わせ基準」という基準表があり、それに則ってお布施の金額を提示しています。30年以上前に作られたものなので、他寺がこの基準を今も使っているかは不明ですが。
法外なことをしているお寺はごく一部なのではないかと思います。ただし、葬儀と法事に頼りきっている以上はある程度まとまった金額をいただかないと寺が存続できないことも事実で、お布施の負担軽減には永代供養墓の販売や檀家外の葬儀を積極的に行うなどの収入の裾野を広げることがまず必要だと考えています。
仏教界全体として見れば課題・改善点があるという意識、危機感が希薄なことが問題なのかもしれません。

日蓮宗僧侶D(以下、日蓮D) 
うちの地域では戒名料という考えがありません。先代に聞いた話としては、関東のほうの葬儀で、施主が胸元からお布施袋を出したので、それはなんですか? と住職が聞いたら、「戒名料」ですと言われたと。うちのお寺ではそのようなものはいただいていないですよ、と伝えたら、とても驚かれたそうです。私が住職になってからも、関東の葬儀社に急かされて火葬場から電話をかけてきた檀家がいました。戒名料がとんでもないはずだからと葬儀社に言われて、電話をかけたということでした。
ただ、うちの地域でも、若い世代は戒名料という言葉を口にするようになってきています。昔は葬儀の中に戒名料という考えがなかったので、ネットの影響なのかなぁと。
以前から生前戒名つけてとお願いはあるが、お布施と言っても、赤ちゃんに名前をつけた際にみなさん大体1万円を包まれるので、生前戒名でも同じくらいという感じですね。

浄土宗僧侶E(以下、浄土E)
戒名は生まれた時にもらうクリスチャンネームと同じという考え方なので、うちのお寺でも戒名料はいただいていません。戒名料はいくらですか? というのはよく聞かれますね。葬儀社から問合せが来るので、実際に戒名料という相場がある地域のお寺も少なくないのだと思います。
そもそも戒名料という言い方は、そんな昔からじゃないと思うんです。バブルくらいからじゃないかな。お葬式で戒名一文字いくらと、東京から出てきたのが始まりではないでしょうか。それまではこの地域では戒名料という考えはなかったです。3万、5万を包むことくらいはあったかもしれないけど、何十万円とか何百万円というのはなかったはず。
以前は、大きな社葬があった時に、事後的にものすごいお布施金額を伝えられることもあったと聞きます。お布施も納めた後に、この金額じゃ駄目と突き返されるとも聞きました。
戒名は料金じゃないです。戒名は対価ではなく、お布施として出すものです。その納得感を遺族に持っていただくのはお坊さんの責任ですね。

※生前に戒名や葬儀のご相談を承っている寺院はこちら

葬儀のお布施、どのくらいもらっている?

禅宗僧侶F(以下、禅F)
みなさん、良心的な感じですが、実際に葬儀でどのくらいお布施をもらっているんですか? せっかくの機会だから、そこの部分を腹を割って話さないと。

日蓮A
うちのお寺では、生前戒名のお布施は10万円以上。お通夜・お葬式・初七日と法号(日蓮宗の戒名)をつけてお布施は大体30万円ですね。先月に生前戒名をつけた人は両親が日蓮宗で、元のお寺から戒名料500万円と言われたので、うちに来たそう。生前戒名は10万円以上でと伝えたら、お布施を50万円も置いていっていただいたので、ありがたく頂戴しました。お話ししていると、こういう戒名がいい、もっと長い戒名がいいと、その方の要望に応えていったら多く包んでくれました。納得してお布施を納めてくれることを大切にしている結果かなと受け止めています。

真宗B
院号は定価が決まっていて、院号料が東本願寺は8万円、西本願寺は20万円。うちの地域は西本願寺のお寺が多いので、お東のお寺も院号は20万円で合わせています。お寺によっては40万円、50万円と言うお寺もあるようです。中には本山に納める以外のものをお寺が抜いているとも聞きます。先代住職は門徒さんに院号をつけることをプッシュしていたし、昔は院号をありがたく思う人が多かったです。でも、「院号をつける方が遺族の想いが強い」という風潮に自分は疑問があるので、自分が住職になってから院号はつけていません。自分が死んだ時も院号はいらないと思っているので、先代住職がなくなった時も院号はつけませんでした。

日蓮A
自分が一生懸命教化活動をしたのに、本山が持っていくのか。納得いかないなぁ。

真宗B
院号を納めると、本山から領収書が出るんです。なので、住職がくすねずにちゃんと納めているかどうか、お寺によっては門徒さんが領収書で確認するというのも聞きます。
そして、本山への納金が貯まっていくと、僧侶としての位が上がっていき、着られる衣も変わっていくんですよ。それを喜ぶ檀家さんも実際います。これからはそういう檀家さんは少なくなると思いますが。

禅宗の戒名料、葬儀費用が高くなるのはなぜ?

禅F
みんな良心的ですねぇ。禅宗は戒名料を必ずもらうのが一般的で、禅宗の設定は高いかもしれません。
せっかくなので、葬儀費用のイメージもみんなで共有しましょう。うちのお寺だと、真ん中くらいの戒名で、通夜・葬儀・骨上げ・初七日だとお布施は戒名を含めて100万円です。

日蓮D
うちは檀家の総代が葬儀のお布施を決めている。各家に等級という形で。一般の檀家は40万円、総代は50万円。

日蓮A
通夜・葬儀・骨上げ・初七日で、30万円から高くて50万円くらいかな。お坊さんじゃない同級生の友人が、仮にお葬式をしたとして、払えるお布施は30から50万円くらいだと思う。葬儀社が伝えている金額もその程度だし。まれにお布施が高い人がいる程度。

真宗B
うちの地域だと通夜・葬儀・骨上げ・初七日だと15から20万円です。東京の檀家さんの葬儀に行くと、倍になるけど。

浄土E
うちは通夜・葬儀で15から20万円、その前後に枕経や初七日がついてくると20から25万円くらい。葬儀のお布施が一本にまとまって包まれることはなくて、葬儀社が細かく包みを施主さんに渡しているので、細切れにいただきます。たまに「戒名料」と書かれた袋を渡されることもあるけど、受け取っていません。「また法事やなにかがあった時に、お布施に足してください」と伝えています。
葬式を安く抑えろという故人の意志で、戒名はいらないとたまに言われることがあるけど、戒名の意味や戒名料をもらっていないと伝えると、ならばつけると言われることがほとんどですね。

禅F
みなさん、そのくらいのお布施で、伴僧(葬儀の導師を補佐する僧)のお坊さんにはどう御礼をお支払しているんですか?
私も最初の頃は正直にお布施が高いと思いました。なので師匠、先輩僧侶に聞いたら、禅宗は普段檀家さんに寄付をもらわなくて、自助努力が大きく、住職が持ち出したりすることが多いと。お寺を維持するために、普段寄付をもらわなければ、葬儀のお布施は高くなると。

編集部
禅宗でも戒名料をもらっていないお寺はもちろんありますし、一概に言えないところではありますが……。

日蓮A
禅宗はなんで一人じゃ葬儀をできないんですか?

禅F
やろうと思えばできるけど、お寺同士の助け合いのシステムがある。檀家さんが少ないお寺の住職を呼んで、助けてあげるということ。

葬儀にお坊さんがたくさん来ることの意味とは?

浄土E
うちの地域では、兄弟の人数だけお坊さんを立てるという浄土真宗の文化を聞いたことがある。真宗は法要をコントロールする伴僧がいる。でも、この数年は一人でお願いしますとしか言われませんし、浄土宗では一人でつとめる葬儀は定めがなく、僧侶各自に任されているのが現状です。

真宗B
うちの地域は伴僧には檀家さんからお布施を払います。なので、どのくらい包んでいるかは私は知りません。でも、今はもう2名で葬儀をやるお寺はうちの地域では一つだけ。檀家さんから嫌がられてますね。

禅F
昔はお坊さんの人数が多いほうがありがたい、厳かで素晴らしいと、檀家さんがヨイショしていた。お坊さんの人数が多いと、親戚からも褒められた。うちのお寺で葬儀をしたということを、町中で自慢しながら歩いた時代もあると聞いたことがある。でも、葬儀が独僧(僧侶一人で法要を勤めること)になってくると、儀式の厳かさが出にくくなり、お布施を下げる一方。今はお布施が高すぎると言われることが増え、たまに怒られることもある。

日蓮D
今の葬儀だと、お釈迦さまのお経を一人で唱えていることになる。色々お坊さんがいる法要だと、色々なお経が聞こえてくる。その中で気に入ったお経の声があれば、それがその人にとってのお釈迦さまの声。今の葬儀だと、そういう感動はどうしても薄まってしまうね。
うちは親戚のお寺が禅宗で隣の市にある。例えば本堂建替えで、日蓮宗は檀家400軒で1億2千万円集められるけど、禅宗だと檀家400軒で7千万円くらいしか集まらないと聞いたことがある。その分、禅宗は普段の葬儀とか法事のお布施が高くなるのかもしれないね。

「安く済んだ」「高くついた」と感じたら功徳にならない

浄土E
うちもお布施の金額を聞かれることはありますが、こちらからは伝えません。葬儀社に目安を聞いたら大体の相場を教えてもらえると言っています。でも、目安を聞いて、安いと思ったら少し足してくださいと伝えています。例えば、一昔前なら結婚指輪が給料何か月分というところに納得感や思いが生まれるわけです。なので、安いなと思うと丁寧にやった感がなくなります。目安を聞いて高いと思ったら下げるのもかまわないし、安いと思ったら上げましょうと伝えます。

禅F
禅宗はお布施が高いとか誤解しないでほしいので言っておくと、檀家さんの家それぞれで大変な状況もあります。昔は名家だったけど、今はひとり親というご家庭もあったりする。もちろん、そういうご家庭にはいくらでもいいよと伝えています。檀家さんとは、葬儀だけでなく、過去からもこれからも長くお付き合いするというのが基本姿勢ですから。

日蓮A
安く済んだと思ったらお布施じゃないし、逆に高すぎるとも思ったらお布施じゃないですよね。結果的にその人とどのくらい向き合って、納得感をもって納めていただくのがお布施だと思う。

禅F
みなさん、慈悲の寄り添い型ですねぇ……。でも、実際に禅宗からみなさんのお寺に移りたいという人はいる?

日蓮A
そう問われると、日蓮宗のお寺から移ってくることはあるけど、禅宗からはないなぁ。

禅F
うちのお寺にお世話になりたいという人には、「うちは高いよ、やめておきなよ」と言うんだけど、実際に他宗から移ってくる人が少なくない。それは単純にお布施の金額だけでは測れない価値を感じているからなんだと思う。もちろん、こちらがその価値を提供できなくなったらみんな離れていくので、頑張らないといけないんだけど。

お寺選びは夜の繁華街のお店選び?

浄土E
ある時から戒名の説明を始めたら、戒名をもらって良かったという声が増えました。戒名の納得感があることで、葬儀をやって良かったとなります。お坊さんにとっても戒名を通じて、檀家さんとのコミュニケーションができるので、戒名の意味・価値を伝えやすくなり、結果としてお付き合いが長く続きます。なので、お寺にとっては戒名は先行投資だと思うんです。戒名料として回収するのではなく、将来に向けた種まきとしての戒名という考えが大切ですよね。

日蓮A
確かに、いいお経だったねはそんなに聞かないけど、いい戒名で良かったという声はとても多い。

真宗B
法名の価値を伝えることは大切ですよ。自分だけで決めず、ご家族と一緒に考えて決めたりします。法名料をいただいていないので、うちのお寺では戒名料は安いと感じられている効果なのでしょうか、法事のお布施が上がったりすることがあります。そういう流れを見ていると、お布施に無頓着でいいんだと思うようになってきています。お布施や寄付のことを言わなくなってから、お墓参りなど平素の時にお布施をお供えくださる方が増えて、お葬式のお布施の割合は、お布施全体の3割ほどに下がってきています。なので、葬儀を除いた法事や法要のお布施だけでお寺を維持できるようになればいいと思っています。

日蓮A
残された人生を生きる価値として、生前戒名をつけたいという人がいる。その生前戒名に対してお布施・寄付をしていく。生まれてきた時からの経歴を書いてもらい、どう生きてきたか、これからどう生きていきたいかを丁寧に聞いて、法号に落とし込んでいきます。

真宗B
今の戒名料の問題は、戒名のこととか何も知らずに葬式を済ませて、いきなり事後に請求されることですね。ぼったくりバーに近いですね。

浄土E
知らない夜の繁華街に行った時、知らない怪しいお店に行って、ぼったくりに会うこともあるでしょ。知らないところに行く時は、ちゃんと調べて行かないと。お寺選びもそうだと思いますよ。

禅F
お寺選びは夜の繁華街。名言ですね。変なお寺につかまらず、いい戒名や葬儀をしたいと思ったら、それなりに調べないと駄目ですね。まいてらのお寺だったらどこに行っても安心だと思いますが。

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お坊さんへの不満が、戒名料のトラブルとして現れているのでは

浄土E
戒名料がクローズアップされているけど、問題はそれだけじゃないと思うんです。葬儀の初対面の対応や色々なコミュニケーションを通じて、最終的に出てきた額に納得感がない。お葬式に対する不満が戒名料やお布施に集約されて爆発していると思う。

日蓮A
うちのお寺は法号を納める見栄えのいいファイルを作り、その中に法号の意味や由来も記して、それを遺族に渡しています。作ったきっかけは、地方のお坊さんが来れなくて葬儀だけを自分だけで務めたこと。その時は、戒名は菩提寺がつけて、菩提寺から戒名が遺族にFAXされ、そのFAXが自分のところにも送られてきました。送られてきたFAXを見たら、汚い字で曲がって書かれていて、お布施を聞いたら100万円だと。心が沈みました。戒名が尊く高価なものだとお寺が思うのであれば、ちゃんと丁寧に書いて送るべきだと思う。ぞんざいに扱われたら、遺族にも納得感はないでしょう。

浄土E
戒名料という考えに納得できない人もいるし、そもそもそのお坊さんにお布施を渡すことに納得できない場合もあるはず。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いを一番象徴するものが戒名料なのではと思う。

戒名は平等であるなら、みんなに院号をつけては?

編集部
以前に編集部に、「仏教は平等ではないのか。なぜ死後の名前に階級があるのか?」と不満が寄せられたことがありました。

日蓮A
うちのお寺は5段階あります。でも、それによって功徳が違うのかどうか。まだ明確に自分は説明できない。

真宗B
うちのお寺では、お父さんの時は院号をつけてお母さんの時はつけないというのは嫌がられる。亡くなって何年か経ち、釣り合いが取れないからつけてくださいという依頼が多いです。お墓に文字を彫る段になって、院号をつけてくださいとか。

日蓮D
地域性で、うちのお寺では院号がほぼついてしまう。つけないのは子どもくらいですね。

日蓮A
檀家さんには院号をつける。高い戒名を出して院居士をつけたいというのは、子どもや親戚たちが贈り物としてそれをつけることが多いかも。亡くなったお父さんを称える意味で。

真宗B
浄土真宗では院号をつけなくていいという流れが多い気がします。お布施の実入りを考えると、東本願寺は収入の半分が院号料なので、本山は普通の法名でとはなりません。うちのお寺では普段から平等、平等と言っているので、最後に院号をつけるかどうかという二者択一を迫るのは違和感があります。浄土真宗の法名は最大6文字なので、院号をつけると「●●院釋●●」で、あと4文字しか選べない。もっと長くつけてほしいという依頼もありました。

編集部
だったらみんなに院号をつけるという考えもありますよね? 個人的には浄土真宗の法名は短くサッパリしすぎている感じがします。さすがに一生懸命に生きた人生だから短すぎる文字数に集約するのは難しい気がして、もう少し長いものをつけてほしいと思うことがあります。

真宗B
なるほど。そうするのが一番平等かもしれません。うちのお寺はみんなに院号をつけることを考えてみます。二文字だけだとかなり限定的で悩むことが多いので、全員釋の上に院号をつけることで幅が広がります。

院号、宗派の違い、LGBTQも……戒名は時代を映し出す

浄土E
戒名は時代背景とつながっていますよね。昔は家の跡継ぎが立派な供養をしたかを示すもので、社葬があった時代は、立派な戒名と葬儀を出すことで後継者として認められるという文化がありました。戒名は死後のランクと思われがちですが、死んだ人にランクがあるわけではなく、出した人の甲斐性に紐づいているというのが正確だと思います。見栄文化ですね。今のように家族葬が流行る前は、見栄文化と家文化が院号の背景にありました。故人ではなく、家のランキングですね。

日蓮A
院号を求めたがる人は、警察官でここまで偉くなったとか、校長先生をやったとか、生前のポストに準じてつける人が多い印象です。そういうのに囚われていない人は戒名の院号とかを気にしないと思います。

浄土E
団塊より上の世代は、先祖がつけていたから親にもつけてあげたい、ご主人にもつけてあげたいという人もいる。そして、必ずしも見栄だけでなく、親への思いもあり、勲章みたいなものですね。

編集部
家族から故人に送れる唯一の勲章が院号なのかもしれませんね。

禅F
うちの宗派では得度するという前提で授戒(戒律をさずかること)してもらうので、葬儀は授戒儀礼ですね。歴史的に、授戒がブームで広まったのは社会のニーズだったと思います。必ずしもお寺側の論理だけではなく、社会が求めたものをお寺が提供してきたのだと思います。そうでなければここまで広まるわけがない。
それが、家族葬になって、社会が戒名に求める価値や意味が変わったら、戒名や院号にこだわらないというのも自然かもしれません。うちの宗派では、例えば浄土真宗の戒名を絶対読まない、絶対につけかえるというお寺が圧倒的で、他の宗派に排他的です。でも、うちのお寺では合同墓を建てて合同供養をするようになってから、もともと他宗だった人も増えるので、いつの間にか自然に釈●●と位牌に書くようになってきました。

日蓮A
戒名や葬儀は求める人に対してちゃんとするのが大切です。お寺としては残念ではあるけど、求めない人にはなくてもいいんだと思います。戒名を求める人には真摯に向き合って、しっかり説明して納得感を持ってもらうことが重要です。

禅F
求める人には仏教の話や、戒名の深い話ができたりして、長く深く付き合えます。いらない人に対して、無理にセットでつけないほうがいいですね。

日蓮A
男性か女性を表す信士・信女も、LGBTQの中で考えていかないといけないですよね。

真宗B
生前法名を希望されたLGBTQの方がいました。その方は生物学的には男性でしたが心は女性だということで、法名を付ける際、釋尼とつけました。本人がそう思えば、それを尊重することが大切です。

浄土E
相手の方が要望を持ってきてくれると、悩まなくていいからありがたいですよね。例えば雅号を持っていたりとかも。浄土真宗の方が来たとしても、うちのお寺では戒名を付け替えたりせず、相手の方の要望に従います。

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人生のコピーライティング、グリーフケア、仏教の神髄…戒名には無限の広がりが

編集部
それでは最後に、戒名の未来についてみなさんの思いを述べていただきましょう。

日蓮A
家族・遺族にヒアリングし、後世の人たちへ伝える勲章として、生き様や人生のキャッチコピーとして、人生を称えるものとして、仏教的な意味にプラスして戒名を授けていきたいです。実際に遺族は喜んでくれていますし、遺族にとって心の支えになっていて、残された人たちも故人の戒名を見ることで、こうやって生きていこうという戒めになっていると感じます。供養にもなり、生きた証にもなり、残された人たちの生きる戒めにもなる。遺族としっかり会話をして戒名をつけていくことを大切にしていきたいです。

真言C
金銭的なこと以上に、授かった戒名の意味合いを考えていただきたいというのが本音です。戒名は先祖のご遺徳を住職が偲び、仏弟子として授けたお名前です。供養の度に戒名を眺めてそのご遺徳を思い出していただきたいのです。時間が経つにつれ、ご自身の人生が積み重ねられて同じ戒名を眺めても浮かぶ景色が変化していく、そこに戒名に無限の広がりがある、と私も師匠から諭されました。これだけはお伝えしたいですね。

浄土E
戒名の役割の一つとしてグリーフケアがありますよね。葬送の場では色々な喪失がありますが、戒名はそれを癒す側面があります。戒名をもらうことで、父さん、母さんがいいところに行って、ちゃんと過ごしているんだねと思えるのは遺族にとって大切なことです。しっかりヒアリングして、次はこういう道を歩んでいきますということを戒名に込め、だからみなさんもしっかり生きていきましょう、みなさんにとってこれからもどういう人であってほしいかという願いも込めましょうとお伝えしています。

真宗B
戒名によって故人が成仏したということをよりイメージしやすくなるはずです。故人にゆかりのある漢字を使った法名にすることで、残された人も納得すると思います。

禅F
人生のコピーライティング、グリーフケア、仏教の神髄、宇宙の原理など、戒名には色々な側面があります。どの視点で喜ぶかは人によって様々で、それが戒名のつかみどころのない魅力だと思います。家族の記憶を後世に伝えるためにも、この人はこんなことをしていたんだよと、変幻自在に戒名を語るのが住職の力量。最高の戒名をつける自信を持って、これからも取り組んでいきたい。戒名はこれからも時代に応じて柔軟に変化していくのだと思います。

浄土E
その人の人生が次に進んで行くためのストーリーテラーがお坊さんだと思います。葬儀は一つの命が終わって、次の道を歩む節目の儀式です。大切な儀式で、ストーリーが納得できれば、みんなにとって意味がある儀式になり、そうであれば戒名が高いとかは問題にならない。納得感があるまでお坊さんを探せばいいんです。飲んだくれのお坊さんでも、この人に戒名をつけてほしいと檀家さんに心から思われているお坊さんはいます。そういうお寺の檀家さんは、あなたの飲み代になるのなら喜んで出すよという人は少なくないはずです。それが成立する人間相互の信頼感が大切ですね。

禅F
新型コロナが出てきてから、納得して最期を迎えられる家族は少なくなっています。看取りが複雑化しています。戒名や葬儀は、その複雑な状況や心情を少しでも緩和することが役目だと思います。その意味で新型コロナの時代こそ、葬儀や戒名の役割が問われていると思います。

浄土E
多くの人にとって、葬儀や戒名はお寺とのお付き合いの入口ですからね。お寺から見たら先行投資ですよ。

禅F
入場チケットは高くないほうがいいですね(笑)
いい葬儀にするためにどうするか、どんな戒名をつけてほしいか、気楽に相談してほしいですね。

編集部
本日は貴重なお話をありがとうございました。

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編集後記:戒名が前向きに受け止められる社会になってほしい(井出悦郎)

 今回の匿名座談会ではお坊さんたちの本音を色々と聞くことができました。

戒名料が存在しないお寺も少なくない
 驚いたのは、戒名料というものが存在しているお寺が多数派ではなかったことです。むしろ戒名料という形で独立していることに違和感を覚えるというお坊さんも少なくありませんでした。
 そもそも仏式の葬儀において戒名は必須の要素であり、葬儀と戒名はワンセットです。したがって、お寺によって様々な事情があるのでしょうが、戒名料という形で戒名のお布施が独立しているのは、見方によっては不自然とも言えるかもしれません。
 今回は正確な統計調査ではありませんが、葬儀のお布施に戒名は含まれると考えているお寺は決して少なくないと考えられます。お寺とお付き合いする際には、葬儀のお布施に戒名も含まれるのか率直に聞いてみるのが良いかもしれません。

社会変化に応じて戒名の役割が変わることは自然
 そして、お坊さんたちが、時代の流れを受けて戒名の役割が柔軟に変化していく可能性を、肯定的に考えていることも興味深く思いました。
 家族葬になれば見栄もなくなることで院号へのこだわりが減る可能性や、LGBTQの方への対応など、社会が変われば戒名もあり方も変わるということも当然という捉え方でした。

 2019年9月に大阪の應典院で、「100人で考える生前戒名ワークショップ」を開催させていただきました。
 その際に、私見ではありますが、生活者視点での戒名の価値として以下のようなまとめを提示させていただきました。

 今回、お坊さんたちが語ってくれた、これから社会における戒名の役割とも重なるものがあると感じます。
 戒名が本来持つ柔軟性によって、多くの人に戒名が前向きに受け止めてもらえることを心から願います。

人生100年時代こそ生前戒名を授かり、人生の指針としていただきたい
 お坊さんの本音としては、ご縁のある方とじっくり話しながら戒名を考えたいということでした。亡くなってからのお付き合いだけではなく、やはり生前からのお付き合いの中で、その方の人生(生き様)に適した戒名を考え、お授けしたいという思いを強く感じます。まいてら寺院だけでなく、そのような思いを持つお寺(住職)は全国に多いはずです。

 戒名は死んでからではなく、生きているうちに戒名をいただき、生前戒名を生きる指針として、最期の一瞬まで生き切るという人生が理想と感じます。特に人生100年時代で余生が長くなる中、生きる指針を持たない老後は充実感を覚えられなくなり、生きることが苦しみにも変わる可能性があるのではないでしょうか。
 特に後半生が充実することが、人生100年時代の極意となるでしょうから、その際に生前戒名という歴史的に受け継がれてきた知恵を頼り、自らの人生の指針とするのが一つのあり方だと感じます。(参考記事:お寺で定年後の居場所さがし(後編)-生前戒名というあり方

 そして、今回の座談会で生まれた一つの名言「お寺選びは夜の繁華街」。自分に適した戒名や葬儀を執り行いたい場合には、選択する側にもしっかりした準備が求められます。お寺や住職との相性も関係するでしょうから、最初に出会ったお寺に決める必要もありませんから、時間をかけながら自分に合ったお寺をじっくり探すことが大切だと思います。そのようなお寺を求める方々にとって、まいてらがお寺探しの貴重な参考情報として貢献できるよう、これからも精進していきたいと思います。

 今回、戒名料やお布施という、とても話しにくいテーマについて、ご協力いただいた僧侶のみなさんに心から敬意を表します。
 話しにくいテーマだからこそブラックボックスにせず、お寺も一般生活者も率直に話し合いながら相互理解を深めていくことが大切だと考えます。本記事がその一助となることを心から願い、終わりの言葉とさせていただきます。

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