メールマガジン

お盆とは? – 精霊棚、盆提灯、お布施、お茶など準備のギモン・意味を総まとめ【教えて!お坊さん】

2020.07.02

お盆の風景と言えば、仏壇の前で檀家さんの家族とお坊さんが一緒に読経(写真提供:正蓮寺)

 1年で最も盛り上がる仏教行事、それがお盆です。
 ご先祖さまをわが家にお迎えし、ふだん遠くにいる家族や親族たちが顔を合わせる光景は日本の夏の風物詩。精霊棚しようりようだな盆提灯ぼんちようちん、お墓参りや盆踊り……お盆にはすることがたくさんありますが、それだけ私たち日本人がご先祖さまを手厚くもてなしてきたということです。
 お盆を迎えるにあたって、なにを準備しなければいけないのか、どのように過ごせばいいのか。そんなさまざまなギモンについて、お坊さんに答えてもらいました。

ギモン1 お盆飾りに最低限必要なものってなに?

お盆のお供え物の一例。キュウリやナスなど、夏の野菜や果物をお供えする

 まずはお盆飾りの基本をおさらいしましょう。

 お盆飾りの基本は「精霊棚」と呼ばれるお盆の時だけに用いる祭壇で、ふだんは仏壇の中でおまつりするご本尊や位牌いはいを並べます。

 台には真菰まこもやゴザを敷き、四隅に青竹を立て、上部にしめ縄を張ります。
 お供え物として、そうめんや昆布、スイカなどの夏野菜や果物を並べます。馬と牛に見立てたキュウリやナスはよく知られているところです。その他、夏野菜を細かく刻んだものとといだ米を混ぜた「水の子」(地域によっては「餓鬼飯」)を用意します。これは、お盆ではご先祖さまだけでなく、餓鬼道に堕ちたさまざまな霊の供養も行うために供えるものです。
 そしてお花をお供えし、祭壇を挟む形で天井から盆提灯を吊るし、行灯を置きます。

精霊棚の基本的な飾り方(地域により異なる)

 ただし、ここに挙げたものはあくまで精霊棚の一例で、その飾り方は地域によって実に多様。精霊棚を設置せずに仏壇の中で済ます地域もあります。また最近では仏間のない家も多く、従来のお飾りができないこともあるでしょう。

 そこで、お坊さんたちに「お盆飾りに最低限必要なものってなんですか?」と聞いてみました。

 定義如来西方寺じようぎによらいさいほうじ大江田紘義おおえだこうぎ住職(宮城県・浄土宗)は、「精霊棚や盆提灯を飾り、ふだんよりも少しだけ特別なお供えをしてあげることでもお盆の気分が出ます」と語ります。「一番のシンボルはキュウリやナス。それぞれ馬と牛に見立てられています。『馬のように早く帰ってきてほしい』『牛のようにゆっくり帰っていってほしい』こうしたお供え物に込められたご先祖さまへの想いを大切にしたいですね」

「亡くなった人やご先祖さまのことを思い返せるものを、お供えしてみてはどうですか?」と提案するのは龍雲寺りゆううんじ細川晋輔ほそかわしんすけ住職(東京都・臨済宗)。「たとえば、新聞の好きだったおじいちゃんのために新聞を置いてあげたり、おばあちゃんが愛用していためがねを置いてあげたり。逆に、子や孫の成長をみてもらうのに通信簿を置いたっていいですよね」

 長谷寺はせでら岡澤慶澄おかざわけいちよう住職(長野県・真言宗)は、「モノはなくてもご先祖さまは帰ってきてくれます。たとえば食卓の中でご先祖さまをお迎えすることだってできる。ちょっとばかりのごちそうを用意して、ご先祖さまのお皿に取り分けてあげるのことで、ご先祖さまも一緒に食卓を囲んでいると感じられますよ」と言います。最近ではコンパクトな仏壇もたくさんあり、精霊棚を作る場所に困った場合は、無理をしなくても大丈夫だそうです。

 お坊さんたちはみなさん「形式にはそこまでこだわらず、むしろご先祖さまや亡くなった人をお迎えする想いを大切にしましょう」と口を揃えました。
 最低限必要なのはご本尊やお位牌、手を合わすための線香やローソクやおりん。そしていつもよりも特別なお花や食べ物のお供え物です。盆提灯やキュウリやナスなど、お盆ならではのものを並べて「お盆感」を出すことで、故人やご先祖さまがより身近に感じられる、それが大切なようです。

お盆の時期に行われることが多い施餓鬼せがき法要のお供え。山盛りのごはんや夏野菜などを並べる(龍雲寺本堂にて)

ギモン2 お坊さんのおもてなしで気をつけることは?

 お盆時期のお坊さんはとっても忙しい。暑い日差しの中、1日に何十軒もの家をお参りしますから、一件のお参りにかけられるのは10分ほどということも多いです。お迎えする側からすると、

「忙しいから余計なことをしない方がいいのかな」
「お茶やお菓子のおもてなしをした方がいいのかな」
「なにをお出ししたら喜ぶかな」

 ……と迷ってしまいます。お坊さんにホンネを聞いてみましょう。

●飲み物

 多くのおうちで出されるのが冷たい飲み物。ペットボトルや缶ジュースなどの持ち帰りができるものと、冷えたグラスに注いだものはどちらがいいのでしょうか?
「その場で飲めると、のどが潤ってありがたい」という声もあれば、「時間がないため、移動中に飲めるのが助かる」という声も。一方で「ペットボトルが荷物やゴミになってしまう」という意見もありました。ペットボトルとグラスを一緒にお出して、お坊さんに選択していただくと良さそうです。

●おしぼり

「冷えたおしぼりはものすごくありがたいですね」と言うのは定義如来西方寺の大江田住職。「お盆参りは汗で衣がびちゃびちゃになる。冷たいおしぼりは本当に気持ちがいいですし、おうちの大切な仏具を触らせていただくのによごさなくて済みます」と、お坊さんだからこその、お参り先への気遣いもあるようです。また、他のお坊さんからも「おしぼりはありがたい」という声があり、かなり喜ばれるようです。

●エアコン

 家の中は冷房で冷やしておくか、それとも窓を開けておくか。屋外の暑さと冷えた室内との往復は、身体への負担が大きいという指摘もありますが、この質問にはすべてのお坊さんが「おうちの人が快適な方で」とのことです。「はじめに『エアコンをつけるかつけないか、どちらがいいですか?』と聞いてもらえればありがたいですね」(龍雲寺・細川住職)という声もありました。こうしたささやかなコミュニケーションで、お坊さんとの距離もぐんと近くなります。

●お坊さんへのおみやげ

「お寺へのお供えものを用意してくれるおうちもあります」話すのは、宝樹寺ほうじゆじ林義淳はやしぎじゆん住職(福岡県・真宗木辺派)。中には立派な菓子折りを手渡されることもあるようです。お盆の時期は朝から夕方までお参りが続きます。いただき物は暑い車内に置いておくことが多いため、いたみにくいものがよいでしょう。
 宝樹寺では、お参り先からのいただき物は必ず本堂にお供えし、その後は「おてらおやつクラブ」を通じて全国の貧困に苦しむ子どもたちに送っているとのこと。「お菓子に込められたご門徒さんの想いを無駄にしないためにも、お供えしてもらえるのであれば、日持ちするものがありがたいですね」

お参りに備えて納骨堂を掃除する林住職。「お寺にとってお盆は7月から始まっています」
お盆が終わったらお菓子を箱詰めし、「おてらおやつクラブ」を通じて全国に発送(宝樹寺にて)

●お参りの時はテレビを消して

「お参りの時だけはテレビを消してくださいね」と笑いながら話すのは長谷寺の岡澤住職。「檀家さんの家を一軒一軒まわるたびに、どこのおうちでも高校野球を見ていて、試合経過が分かるんです。いい場面に重なった時は『住職、この回が終わったら』と一緒に見てしまってからお勤めをすることもありました」と、お檀家さんとの心温まるエピソードを話してくれたあとに「でも、読経の間だけはテレビを消してほしいですね」と苦笑い。お経の時間はわずか10分程度。この時ばかりは、静かに手を合わせましょう。

●トイレ

「夏のお盆参りで一番困るのがトイレなんです」と、教えてくれたのは宝樹寺の林住職。お盆参りのお坊さんは分刻み。トイレに行く時間もありません。とはいえ、いろいろなお宅でお茶をいただき、車の中でも水分をこまめにとるので、どうしてもトイレが近くなるようです。
「衣の中も汗でぐちゃぐちゃですから、おうちの中を汚してしまうのも申し訳ないので、なるべくトイレを借りないようにしていますが……」とお盆参りの苦労を話してくれました。おうちの方からお手洗いをすすめて差し上げると、お坊さんも喜ばれるかもしれません。

 さまざま例をご紹介しましたが、どのお坊さんもまず大前提として「おもてなしが迷惑なはずがない」と口を揃えました。「恋人へのプレゼントと同じようなもので、私たちのことを考えてくれている時間こそがプライスレスで、嬉しいですよ」という龍雲寺の細川住職の言葉が象徴的です。

「お供え物もおもてなしも、できる範囲のお心遣いで構いませんよ」と細川住職

ギモン3 ぶっちゃけ、お布施ふせはいくら?

 お盆参りのお布施の金額にも迷いますよね。お坊さんたちの話をまとめたところ、2千円〜1万円が相場のようです。

 ただし、ほとんどのお坊さんが「お布施の金額に定めはないんですよね」と微妙な反応でした。お布施の話題になると必ず「もやっ」とした空気がただよいますが、お布施はそもそもが施す側の「お気持ち」で、明確な金額を断定できないためです。

 定義如来西方寺の大江田住職は、「この金額だとお坊さんにどう思われるかな、ではなく、自分が納得する金額を包んでほしいですね」と、他人軸ではなく自分軸で考えることをうながします。
 また、「長くお付き合いをしていくわけですから、がんばりすぎないことです」と、長谷寺の岡澤住職は、金額よりも身近で気楽なつながりを長く保っていくことこそを大切にしています。

ギモン4 コロナが心配だけどお参りもしてほしい。どうしたらいい?

 新型コロナウイルス流行下での2020年のお盆。「お参りしてほしいけどコロナが心配」という人も、「お参りは控えてほしいけどどう伝えようか」という人もいるでしょう。お寺の対応は、地域や住職の考え方によってさまざま。中止にするところもあれば、対策を講じた上で実施するところもあります。

 長谷寺の岡澤住職は、檀家にハガキを出して、お参りを希望するかどうかを事前に確認したそうです。「お寺としては例年と同じことをするつもりですが、お参りするしないは、お檀家さんの気持ちに寄り添います」

 定義如来西方寺では、毎年行うお盆法要を、今年に限っては地域別に複数回に分け、お参りの人数を分散し、ソーシャルディスタンスを確保して行ないます。それでもお参りに来られない人は、電話で受付をし、お寺できちんと供養をするとのことです。

定義如来西方寺でお盆の時期に行われる「ローソク祭」。参拝者が献灯したローソクを参道に灯し、送り火にする

 龍雲寺はお盆参りの中止を決めました。「仏事よりも大切なことがあると思います。コロナウイルスは100年に一度の災害です。お盆参りを無理に行うことで、万が一のことが起きたり、家族間でもめごとが起きたりしてしまうと、それこそ、ご先祖さまが悲しまれます。お寺の対応はさまざまですが、みなさんには、いつも通り、おうちで故人さまやご先祖さまをお迎えしてほしいですね」と細川住職。

 お盆の準備も、お坊さんのお迎えも、大切なのはご先祖さまや亡き人への「想い」。お盆のさまざまな風習や形式の随所に、そうした「想い」が表れています。
 今年の夏はステイホーム。おうちの中で、ご先祖さまとゆっくり過ごしてみるのもいいかもしれませんね。

ご家族からのお線香が、いちばん喜ばれるお供えかも

シェアする

  • Facebook
  • Twitter

他にこのような記事も読まれています

お寺アイコン まいてらだより

お寺・お坊さん・仏教の情報が盛りだくさんのメールマガジン

    寺院関係その他

    TOPへ戻る

    『安心のお寺』マーク

    『安心のお寺』マークは、
    「安心のお寺10ヶ条」に基づく審査を
    クリアした寺院に付与されるマークです。