寄進は予想の4倍⁉ 檀家さんのひと声から始まった本尊修復事業(福応寺住職・小川昌久)
2024.02.07
福応寺(静岡県・臨済宗方広寺派)では、380年ぶりにご本尊の仏像を修復。小川昌久住職は「まさにお寺とお檀家さんが一丸となって進められた取り組みだった」と話します。長い歴史が紡いできた檀家さんとお寺の良きつながりによる、奇跡のような修復事業です。
小川昌久(おがわしょうきゅう)
1975年生まれ。在家として生まれ育ち、日本大学卒業後、会社員を経て親戚のお寺を継ぐために出家。南禅寺派廣園寺僧堂での修行の後、大本山方広寺派部員を経て福応寺住職に就任。
380年越しの勘違い
福応寺のご本尊は1641(寛永18)年の本堂完成の時からのもので、聖観世音菩薩さまと伝わっていました。年代物ですから劣化も激しく、本堂のお掃除をする時などもおそるおそる触れなければなりません。
2020(令和2)年に須弥壇(ご本尊をお祀りするための祭壇)を部分修復する時のことでした。いつもお世話になっている地元の仏具屋さんに来ていただき、ご本尊を移動してもらったのですが、その際に思わぬ言葉が飛び出したのです。
「ご住職。もしかすると、これは聖観音さまではなくて、十一面観音さまじゃないですか?」
まさかと思い、ご本尊の頭部をじっくり見ていますと、たしかにお顔らしきものが見えます。十一面観音さまの特徴は、その名の通り、頭の上に11の仏さまのお顔を乗せていること。見れば見るほど十一面観音さまで間違いなさそうです。
十一面観音さまは、ご祈祷の際によく拝まれる仏さま。コロナ禍の時期に福応寺のご本尊であることが判明したのは「豊かなご利益で檀信徒のみなさんを見守っていますよ」という仏さまからのメッセージではないかと受け止めています。
「今回は、みんなでやろうよ」
380年もの間お祀りされ続けたご本尊です。ぜひとも修復させていただきたいと、総代さんたちにお伝えしました。
仏像の修復には相応の費用がかかりますが、檀家さんの寄付に頼ることなく、お寺の会計から捻出するつもりでした。福応寺はここ10年間のお寺改革で、檀家さんの寄付に頼らずに運営していける仕組みをどうにか成しえているところでしたから、決してできなくはありません。その考えを総代会で話したところ、ある総代さんが…
「いや、住職。今回は、みんなでやろうよ」
と、仰って下さったのです。このことばには驚き、感激しました。
「寺離れ」などと言われて久しい時代ですが、たいへんありがたいことに、福応寺は先代や歴代住職の尽力もあり、お寺と檀家さんは常日頃から親しく、良好にさせていただいています。
お寺にとって最も大切なご本尊だからこそ、住職任せにせず、檀家みんなでこの事業に取り組もうという想いが、何よりも嬉しかったです。
任意の寄付。一人ひとりが個人サポーター
お寺の寄付の集め方は、事業にかかる費用の総額を算出し、それを檀家さんの頭数で割って、1件あたりの金額を決めていくというのが一般的です。しかしこのたびの寄付は、
・寄付をするかしないかは檀家さんの任意にお任せする
・一口1万円から。家族単位ではなく個人単位にする
…という2点を軸にして、募ることとなりました。
1口1万円は、慣例から照らし合わせると少額の金額設定です。家族単位ではなく個人単位にすることで、ご家族の当主だけでなく、兄弟、お子さん、お孫さんにも、修復事業に参加していると感じていただけることを期待しました。
寄付を頂いた方の名前は、お寺の本堂に芳名板として掲げるだけでなく、奉納者全員の名前を記した発願書をご本尊の台座の中にお納めしました。
集まった寄進は予想の4倍
ご本尊の修復と胎内仏の調査、これに阿弥陀仏像、達磨大師像、須弥壇の部分修復などを加えて、500万円近くの寄進が集まれば充分でしたが、最終的には約2000万円という、予想よりも4倍近くの寄進が集まりました。
おかげさまで、当初予定していたものに加えて、須弥壇の完全修復、天蓋、憧幡、前机、水引戸張、欄間、全ての仏具の修復、宮殿形厨子・開山尊像の新調などといった、その他にも手を加えなければならない箇所の修復や新調もできました。
住職としては、たくさんのお金が集まったことよりも、一口に込められる一人ひとりの想いが、何よりもありがたく、嬉しく感じます。
福応寺をお預かりしてまだ9年程度ですが、長い歴史の中で紡がれた檀家さんとお寺の信頼関係が、こうした一大事業の時に大きな力を発揮してくれました。総代さんからの「今回は、みんなでやろう」という言葉も信頼関係から出たものだと思います。
本堂の芳名板には、寄進された方々の名前が掲げられています。法事の時などに、
「みんなの名前が書かれてあるね」
「あっ!じいちゃんの名前の横に僕の名前がある!」
ご自分やご家族の名前を見つけてはほっこりされているのを見ると、私も嬉しい気持ちになります。
人口が減少していく厳しい時代ですが、仏さまや家族とのつながりを檀家さん一人ひとりに感じていただけるお寺を目指し、これからもご本尊をみんなでお守りしていきます。