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僧侶であるならば人々の苦しみに向き合わなければならない。hasunoha回答僧として(一向寺 住職・東好章)

2020.12.03

 hasunoha」というサイトをご存じでしょうか? インターネット上でお坊さんに悩み相談ができるQ&Aサイトで、ひそかな人気と注目を集めています。人間関係から命や死に関わるものまで、さまざまな相談がお坊さんたちに寄せられますが、その中でも、7,853件(2020年11月18日現在)という驚異的な回答数を誇るのが、まいてら寺院でもある一向寺いつこうじ(栃木県・浄土宗)の東好章あずまこうしよう住職です。どのようにhasunohaに取り組まれているのか、詳しくお話を伺いました。

東好章(あずまこうしょう)

都内にて不動産デベロッパーの管理職やファイナンシャル・プランナーとして勤務した後、父である師僧の跡を継いで一向寺第38世の住職に就任。自死・自殺に向き合う僧侶の会や、悩み相談サイト『hasunoha』回答僧侶として活動中。

一向寺寺院ページ

10年間で7,853件。救えなかった命への後悔に突き動かされて

ー hasunohaに取り組まれたきっかけは?

東 はじめは幽霊会員でした。後輩のお坊さんが立ち上げたものだから、応援の意味もあって名前だけ登録しておいたのです。はじめの1~2年くらいは何もしていませんでしたよ。しかし徐々にメディアがhasunohaを取り上げるようになり、相談件数が増えて、回答が追い付かない。そのあたりから本格的に取り組み始めました。

ー 7,853件というのは、他のお坊さんと比べても群を抜いています。

東 そうですか? 私自身はたくさん回答をしているという自覚はないです。1件1件の相談に真摯に取り組んでいる、その積み重ねだと思います。メールで届いた相談を読み込み、相談者の苦しみに寄り添い、そこからその人だけに向けたことばをつづっていく。1件にかける時間は40分程度、1日にして約3~4件でしょうか。

ー 深刻な悩みや相談も多いですよね?

東 人間関係の悩み、恋愛相談、自殺願望や、身近な人の死など、さまざまです。

ー そのような重く深刻な相談も真正面から受け止められている。お寺の法務や、その他の雑務もある中で、時間のすき間を見つけては相談に回答していく。そのモチベーションの源は?

東 僧侶であるならば人々の苦しみに向き合わなければならない、それが役割というものではないでしょうか。

ー hasunohaがスタートして約10年。7,853件という数はやはりすさまじいです。何か突き動かすものがあるのですか?

東 救えなかった命というものが、私にもあります。私の周りにいるごく親しい人の中でも、自ら命を落とした人がいる。こんなに近い場所に、私という僧侶がいるのに、その人たちにとっては私という存在は引っ掛かりもしなかったわけです。そうした後悔があります。誰にも言えない苦しみで追い詰められている人が事実としている。毎朝相談のメールがパソコンに届き、その事実に触れてしまうと、やっぱり見て見ぬふりはできないですよね。

ー たくさんの方の悩みに答えていると、東さん自身が落ち込んでしまうこと、疲れてしまうこともあるのでは?

東 ありますよ。そんな時には仏さまにお委ねします。僧侶だといえ、私もひとりの人間。キャパシティに限界があります。仏さまに私の苦しみを聞いてもらい、いったん気持ちを整理して、そして相談者のメールをチェックして、できる限りのことをする。その繰り返しです。

みんな真剣に悩み苦しんでいる。だからこそ僧侶はそこから逃げてはいけない

ー hasunohaがご縁で直接お寺に足を運ばれた方はいますか?

東 よくおられます。とてもありがたいことです。しかし別の意味でのご来院もあるんです。どんなに無料だ、匿名だと言っても、追い詰められている人は、「どこかで誰かに読まれているのではないか」という恐怖心に苛まれている。書き込んだ内容はネット上に残るから、書き込みたくても書けないという人もたくさんおられるんです。そうした方が直接お電話を下さる、お寺まで足を運んでくださるケースも、少なくありません。

ー 本当はインターネットだけでなく、お寺が気軽に相談できる場所であってほしいですよね。

東 本当におっしゃる通りです。オウム真理教の信者さんが「お寺は風景でしかない。人の気持ちに寄り添っていない。単なる建物で、中身がない」と言っていたのを思い出します。人を導く仏さまの教えを聞いていただき、共に歩んでいくということを指し示すはずのお寺が、既得権益の中で人々の苦しみに向き合っていないというのが実情だと思います。hasunohaの相談者には10代から30代の人が多い。みんな真剣に苦しんで、直球で悩みをぶつけてくる。寺離れと言われている一方で、苦しみを抱える人が多く、お寺や僧侶が求められている。だからこそ、そこから逃げてはいけないのです。

ー ありがとうございました。今日もこれからhasunohaに取り組まれるのですか?

東 いえ。今日はこれから子どものお迎えに行ってきます(笑)

お寺画像
栃木県佐野市
一向寺

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