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「お寺葬」から見える現代の家族像(井出悦郎)

2019.08.15

井出悦郎(いでえつろう)

1979年生まれ。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、まいてらを運営する一般社団法人お寺の未来を創業。同社代表理事を務める。東京大学文学部卒。
著書に『これからの供養のかたち』(祥伝社新書)

井出悦郎の記事一覧

檀家さんにも知られていない、お寺葬のメリット

 

去る6月29日(土)に、龍興院(りゅうこういん/東京都墨田区)で「おてら終活カフェ」が開催されました。
テーマは「お寺葬」。つまり、お寺の本堂などで行なう葬儀のことです。

近年は、全国的に葬儀社のホールや会館での葬儀が圧倒的に多い状況です。葬儀の簡略化が進み、お寺と檀家さんの関係は希薄化しています。
このような時代の流れの中で、なぜ今あえてお寺葬に注目するのでしょうか。

檀家さんなどの受け手にとって、お寺葬のメリットは多岐にわたります。

  • (一般的には)葬儀会館やホールより安い金額で、葬儀を行うことができる
  • お寺という、長年の祈りがこめられた安心の空間で葬儀ができる
  • 伝統的な儀礼もふまえながら、故人や遺族の要望も組み込んだ葬儀ができる
  • 葬儀にとどまらず、死後の安心につながる様々な相談ができ、(特に単身者は)永代の供養もお願いできる

お寺の奥ゆかしさもあってか、このようなお寺葬のメリットは、檀家さんにもあまり伝わっていないのが現状です。
おてら終活カフェは、檀家さんや地域の人にお寺葬の意義やメリットを伝えていく、重要な取り組みと言えるでしょう。

笑いと気づきにあふれる時間。お寺葬に対する参加者の反応

当日の龍興院

 

当日は、約40名の檀家さんや地域の方々が参加され、盛況でした。

前半では、お寺葬に専門的に取り組まれている足立信行さん(株式会社T-sousai代表取締役)に、良い葬儀社の見分けかたやお寺葬の意義についてお話しいただきました。

 

T-sousai足立さんによる分かりやすい解説

 

足立さんの軽妙なトークで会場は何度も笑いに包まれ、要所では参加者がたびたびうなずく光景が見られました。
特に「親は子どもに迷惑をかけたくないが、子どもは親に相談されても迷惑とは感じない」という、親子間の意識ギャップのデータにはみなさん驚かれていました。

そして、後半ではお寺葬のデモンストレーションが行なわれました。

 

お経のデモンストレーション

 

葬儀のプログラム(式次第)について、大島副住職が導師としてお経を唱えながら、1つ1つのプロセスが丁寧に解説されました。
檀家さんといえども、お経の意味を細部までは知らない方も多かったでしょうし、葬儀の構成や意味について詳しく説明してもらえるのは貴重な機会です。

参加者の方々が、実際にお焼香をする場面もありました。

 

参加者には小さなお子さんも

 

当日のアンケート結果はとても良好でした。

「素晴らしい経験とお話を聞かせていただきました」
「お葬式がとても身近に感じられました。見送るほうも、見送られるほうも幸せになる葬儀がしたい」
「改めて、終わり方のイメージを描くことは大切だなと感じました。貴重な体験をありがとうございました!」

お寺葬が、家族関係を編み直すきっかけに

アンケートを見ながら、檀家さんの声が目にとまりました。

「夫婦で参加しましたが、子ども世代も連れてきたらよかった」
「息子や娘たちともまた参加してみたい。若い年代の方もお寺について知ってほしい」

お子さんと一緒に来ればよかったという声が多く見られました。
檀家さんはそもそも継承意識が強いと感じます。
文化や思いを次世代に託す弔われる側と、それを継承する弔う側の共通認識があってこそ、納得のいく葬儀が成り立つのだと思います。

昨今の終活は、「個人の決定」という意味合いが強調されがちです。
しかし、人間は関係性の中で生き、死んでいくわけですから、終活はもっとも身近な縁者である家族との関係性の中で本来成立するものです。

家族のあり方は、今ではイエという伝統的な観点では語りえず、かといって完全な個人化にも違和感のある方が少なくありません。これからの時代の家族のあり方は着地点を探してさまよっています。家族と個人の適切なバランスを見出していく機会や場が求められているのです。

お寺葬は、家族代々の継承を見つめてきたお寺が媒介になることで、家族や親子間のコミュニケーションのきっかけになるだけでなく、弔いという営みを通じて家族の関係性を整え、編み直すという大きな役割も担いうるのです。
現代におけるお寺葬の意義が、とてもよく表れた時間となりました。

 

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