外国人に優しいお寺は、日本人にも優しいお寺(真言院住職・佐藤妙尚)
2025.05.27

佐藤 妙尚(さとう みょうしょう)
1982年8月、真言院の一人娘として生まれる。都留文科大学(文学部・初等教育学科)を卒業し、学習塾に就職。26歳のときに父が死去、27歳で4代目住職に就任。三児の母となり、現在子育て奮闘中。
本堂の装飾に涙を流す米国男性
北海道のニセコは、パウダースノーを求めて多くの外国人が訪れます。それによって、ニセコに近い真言院にも通りがかりの外国人がお参りにこられることがあります。
2024年12月に忘れられない出来事がありました。
ニセコにスキーでいらしていたアメリカからの男性が、ふらっとお寺を訪ねてこられました。玄関の外から本堂の中をのぞき込んでいらっしゃったので、「どうぞ」と本堂に招き入れました。
本堂に入ると、その方はすぐに帽子を取り、畳の上に両膝をつき、額と両ひじを床につけてお参りを始めました。それは仏教徒が行う最も深い礼拝、「五体投地」でした。
私はその雰囲気に圧倒され、お参りの妨げになってはいけないと思い、しばらくその場を離れました。戻ってくると、その方は五体投地を続けながら、涙を流していらっしゃいました。
しばらくしてから少しお話を伺いました。英語での会話だったのであまり深くまでは聞けませんでしたが、その方は幼い頃、ご両親が仏教徒で、一緒にお寺に行った経験があるとのことでした。そのことを思い出してか、静かに話しながら何度も本堂の装飾を見回し、深く感動されていた様子でした。
外国人向けに、お参りを促す掲示物を増やす
この出来事を通じて、お寺は檀家さんだけでなく、さまざまな方にとって祈りの場を提供する役割があると、改めて強く感じさせられました。特に2024年の冬は海外からの訪問者が多かったので、「ご自由におまいりください」というメッセージやお寺の説明などを英語でも掲示する取り組みを始めました。


真言院では、定期的に「寺ヨガ」を開催していますが、年末には特別企画として、煩悩の数にちなんだ108回の太陽礼拝を行っています。一年の終わりに、煩悩の数といわれる108回の礼拝を重ねながら、自分自身と向き合い、見つめ直す時間になればという願いを込めています。
2024年の年末には、せっかくなので外国の方も受け入れてみようと英語でも広告を発信したところ、スキー旅行でニセコに滞在されていた香港系のご夫婦がお参りくださいました。
ご夫婦はお寺での体験に大変満足された様子で、ヨガのあとに御朱印帳を購入し、御朱印を受け取っていかれました。護摩も見てみたいとおっしゃっていたので、滞在期間中に護摩行をしているお寺を紹介し、ご夫婦はそちらのお寺にもお参りされたそうです。海外からの方にとって、お寺での体験は日本文化に深く触れる貴重な機会になることでしょう。そのようなご縁をおつなぎできたことをとても嬉しく思いました。
外国人に優しいお寺は、日本人にも優しいお寺
本堂の中を見て、多くの外国人が「Beautiful!」と感動されている光景は何年も前から見られました。たとえ宗教が違っても、みなさん日本のお寺を大切にしてくれている雰囲気を感じます。
一方で、本堂の鍵は開いていて自由に入ることができるにも関わらず、外から覗くだけで帰ってしまう方がこれまで多くいらっしゃいました。お寺という神聖な場所に勝手に入っていいのかどうか判断ができなかったのでしょう。やはり「どうぞ」とこちらから声をお掛けすることは大切だと感じました。
そして、私が見る限り、お参りされる海外出身の方はどの方も日本のお寺を大切にしてくださいます。そのような姿を見て、宗教が違っても、神聖な気持ちを大切にしたいという思いの方には、その方の祈りの時間を尊重したいと考えています。ですから、「どうぞ、この場所でご自由にお祈りください」という気持ちで、どのような方もお迎えしています。

外国の方がお参りに来てくださるようになってから、掲示板や案内表示の仕方など、お寺にまだ足りていない部分がたくさんあることに気づかされました。外国の方にも優しいお寺を整えていくことは、檀家さんや地域の方々、また他の地域から訪れた日本の方々にとっても、より親しみやすく、心地よいお寺となっていくのだと思います。これからはもっと「誰でもお参りできる、祈りを捧げられる、癒しの環境づくり」を進めたいと考えています。
みなさんも、ニセコ周辺にいらっしゃった際には、ぜひ真言院にお参りください。
