100年越しの悲願。みんなの力で本堂再建(宝泉寺住職・伊藤信道)
2023.05.13
車や電車の窓から街の景色を見ていると、ひときわ大きなお寺の屋根が目に付きませんか?
お寺は住職のものだと思われている方が多いようですが、本堂をはじめとした建物は、実はたくさんの人の力が集まって建てられています。
2022年に開基500年を記念して新本堂を建立した宝泉寺(愛知県津島市・浄土宗)。伊藤信道住職が、改修工事の経緯や、本堂という場所のすばらしさを、読者のみなさんにお伝えします。
伊藤信道(いとうしんどう)
1955年(昭和30年)津島市生まれ。龍谷大学文学部仏教学科卒。大学では陸上競技部。アーユス仏教国際協力ネットワークや名古屋NGOセンター創立に関わりました。また、僧侶育成機関「宗学院」院長を勤めます。
本堂改築の経緯
宝泉寺の本堂は、ペリーが黒船で日本にやって来た頃に一度再建したものの、それから約40年後の1891年、史上最大の直下型地震と言われる濃尾地震に見舞われて崩壊してしまいました。以来100年以上にわたって、残った材木をつなぎあわせて建て直した「仮本堂」の状態だったのです。
私が住職になってまずはじめに行ったのが耐震診断でした。予想通り、危険な状態にあることが分かりました。すぐに取り掛からなければならないことは分かっていましたが、本堂再建はお寺の住職にとって一大事業です。住職になりたての私には当時しなければならないことがたくさんあり、なかなか重い腰が上がらなかったというのが正直なところです。
しかし、東南海地震はいつやってくるか分かりませんし、お檀家さんとも「いつかは本堂を新しくしたいよね」という話をしていました。そして2022年は宝泉寺がこの地に建って500年という記念すべき年。このタイミングに向けて本堂改築プロジェクトが立ち上がったのです。
みんなの力があってこそのプロジェクト
本堂を新しくするという一大プロジェクトを前にして、住職ひとりの力では何もできません。お檀家さんや地域の方々、さらには大工さんやさまざまな職人さんなど、たくさんの人の力が合わさってこそ、成し遂げられることです。
まず、お檀家さんの中から建設委員会を立ち上げるのですが、役所にお勤めの方や企業の経営者など、優秀な方々が引き受けてくださいました。そのおかげで、14社の建設会社からもっとも信頼できる1社とご縁を結ぶことができました。業者選び一つとっても、建設委員の方々の力がなくてはならなかったのです。
また、施工業者の亀山建設さんも、社長や棟梁をはじめ、職人さんなどすべての方が誠意ある対応をし、迅速に動いてくださったので、安心して工事を任せられました。
本堂再建には多額の費用がかかり、お檀家さんに寄付をお願いすることとなります。ご無理を強いるわけにはいかないので、強制ではなく、金額の目安を示しつつ、任意の寄付という形をとりました。お檀家さん1軒あたりの費用負担も決して安いものではないものの、多くの方々がそれぞれの考えのもと、金額をお納めくださいました。貴重なお金を預かるわけですから、この本堂を一日も長く維持していかなければと、住職として身が引き締まる想いです。
本堂という場所の意義
新本堂にお参りにこられたお檀家さんからは、たくさんの喜びの声をいただいています。
「本堂が新しくなって、心を込めてお参りできます」
「いつ地震が来るか分からないから、ほっと安心した」
「バリアフリーに対応してくれているから車いすでも上がれて助かるわ」
「本堂と墓地を隔てる塀がなくなって、明るく開放的になった」
「新築特有の、檜のにおいが心地いいですね」
みなさんの言葉や表情から読み取れるのは、一様に安心して下さっているということ。そのことに安堵しました。
お寺の荘厳は、極楽浄土へのあこがれを醸し出してくれます。仏さまに向かって手を合わせることで、目には見えない姿が浮かび、耳には聞こえない言葉が聞こえてくる。お寺の本堂はそんな仏さまの存在を感じられる場所です。
また一方で、お寺は、私たちがよりよく生きるための道場のような場所だとも考えています。仏さまに触れ、自らの生き方を見直す場所として、このお寺を、世代を超えて長くつないでいく一端を、私が担えたのであれば、こんなにうれしいことはありません。
お寺の主役は、お参りに来て下さったお檀家さん。お坊さんはそんなお檀家さんの力強い応援団。新しくなった宝泉寺へのお参りが、仏さま、ご先祖さま、そして自分自身にゆっくりと向き合う機会となればと思います。