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コロナの時世こそ他者を思いやる物語を 〜 絵本動画『龍になったおしょうさま』の完成に寄せて(普賢院副住職・品田泰峻)

2020.12.23

品田泰峻(しなだ たいしゅん)

普賢院副住職。昭和58年生まれ。大学では人類学を専攻。卒業後に宗門大学編入、平成21年3月卒業。東京の寺院へ奉職後、平成23年に普賢院へ帰山。豊山流大師講詠秀。真言宗豊山派現代教化研究所研究員。趣味は探求。

普賢院寺院ページ

 普賢院ふげんいんでは、地域に伝わる物語を自分たちができる形で語り伝えていくため、2017年に「かたり」という会を立ち上げました。そして今年(2020年)の12月に記念すべき第1作として絵本動画『龍になったおしょうさま』が完成しました。

新型コロナ禍から生まれた動画配信という発想

 動画で語られているおしょうさまとは、青森県の人なら誰もが知っている南祖坊なんそのぼう南祖丸なんそまるとも呼ばれています。

 時は平安時代。7歳で出家した南祖坊は、永福寺えいふくじ(現在の普賢院)で修行を積み、その後約50年もの年月をかけて諸国を遍歴し、十和田湖にたどり着きます。そこで八頭龍に化身けしんした「八郎太郎はちろうたろう」との戦いに勝ち、以降龍神りゆうじんさまに姿を変えて湖の主になった、というお話です。

 絵本制作は副住職である私を含めて4名の仲間で、構想から約3年の年月をかけて完成させることができました。制作途中に新型コロナ禍という予期しないことが起きましたが、私たちはこの状況をむしろ逆手に取りました。オンラインでのミーティングをきっかけに、絵本を製本するのではなく、動画配信にしようという発想が生まれたのです。
 かつては口伝えで語られてきた南祖坊の伝説も、数々の写本が作られ、やがて浄瑠璃じようるりやねぶたの題材になっていきます。時代に応じた伝え方が工夫されてきた物語ですので、私たちも今の時代らしくYouTubeで配信することにしました。

ウィズコロナの時代だからこそ他者を思いやる優しい物語を

 動画配信に加えて、ストーリーもよく知られている内容とは違うものを採用しました。

 もっとも知られている龍神伝説は、南祖法師と龍に化けた八郎太郎の戦いの場面です。7日7晩戦った末に法華経ほけきようの文字一本一本が剣となって八郎太郎に突き刺さり、南祖法師が勝利を収めます。こうした聞く者読む者を惹きつけるダイナミックな描写は、風雪の厳しい南部地方の自然環境や、飢饉や天災など、過酷な環境の中を生き抜くための娯楽として必要なものだったのでしょう。

 しかし私たちは普賢院に残された写本『十和田山神教記とわださんじんきようき』をベースに、ストーリーを紡いでいきました。ここで描かれる南祖坊は、超人的なヒーローというよりは、私たちも思わず共感してしまう生身の人間として描かれます。南祖坊は複数の女性との色恋沙汰に苦しんだために出家して諸国を遍歴しました。また、悪役の八郎太郎も妬みや恨みに苦しんで龍に変化してしまったのです。そして『神教記』の最後は戦いで終わるのではなく、高僧となった南祖法師が八郎太郎を慈悲の力で救います。

 勧善懲悪かんぜんちようあくの物語が喜ばれることもあるでしょう。しかし先行きの見えないウィズコロナの時代には、ヒーローが悪者をこらしめる話よりも、人々の苦しみに寄り添い、他者を思いやる優しい物語が求められているようにも思えるのです。
 私たちの古い古いご先祖さまたちが、長い年月をかけてこの伝説を書き換えてきたように、私たちも現代的に解釈しなおして、この伝説を次世代に語り継いでいこうと思います。

  生きる時代は違えども、同じ土地に生きた人たちが同じ物語を共有することで、故郷に誇りや愛着を持つことができるはずです。それこそがきっと、今自分が生きていることの安心感にもつながるのだと思います。
 普賢院は、これからも「人が生きるために必要な物語」を発信していくお寺を目指します。

お寺画像
青森県八戸市
普賢院
伝説に彩られた祈りの里 八戸市豊崎町のお寺

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