お寺に絵本バスがやってきた! - 地域に開かれた文化拠点のお寺を目指して(真言院住職・佐藤妙尚)
2025.09.29

佐藤 妙尚(さとう みょうしょう)
1982年8月、真言院の一人娘として生まれる。都留文科大学(文学部・初等教育学科)を卒業し、学習塾に就職。26歳のときに父が死去、27歳で4代目住職に就任。三児の母となり、現在子育て奮闘中。
お寺に絵本バスを呼ぶ
真言院では、今年から新しい取り組みを始めました。きっかけは、境内に新しく整備した駐車場を「地域の方が集える場」として活用できないかと考えたことです。せっかくのスペースをただの駐車場にするのではなく、人が出会い、心豊かな時間を過ごせる場所にしたい。
そんな思いから、はじめは「キッチンカーを呼んでみようか」と考えたのですが、お寺にふさわしく、訪れる人に自然に受け入れられるものは何だろうと思っていたとき、絵本の移動販売車 「THE BOOK STAND」 さんに出会いました。
本屋さんが消えた地域で
私たちのお寺がある真狩村の近くには、数年前まで車で30分ほどの場所に書店がありました。しかしその書店も廃業してしまい、現在では車で1時間走らなければ書店へ行くことができません。
ありがたいことに、今の時代は欲しい本があったらインターネットで買うことができます。しかし、本屋さんで本を買うことの醍醐味は、目的の本を購入するだけでは味わえません。本棚の間を歩きながら、偶然手に取った本と出会う楽しさや、並んだ本を眺めるだけで心が弾むような「ワクワク感」があります。これはオンラインでは得られない体験です。
THE BOOK STANDさんは、そうした「書店がない地域に本屋さんの楽しさを届けたい」という思いから活動を続けておられることを、Instagramを通して知りました。投稿された写真には、かわいいバスの中にいろいろな種類の絵本が並んでいる様子が写っており、その中には大人向けのお洒落な本も並んでいます。大人も子どもも見ているだけで心が躍るような空間がそこにありました。
店主の「子どもたちにもっと本に触れてほしい」「本物のアートを味わってほしい」という願いに心から共感し、ぜひ真言院に来ていただきたいと思いました。
初開催の絵本バスは大盛況
迎えた4月の初回開催日は、想像以上の大盛況でした。村に住む子どもが全員来てくれたのではないかと思ったほどです。子どもを連れたご家族、お散歩がてらに寄ってくれたお年寄り、そしてたまたま前を通りかかった方まで、次々と足を運んでくださいました。
駐車場にはひっきりなしに人が出入りし、バス内外で会話を楽しみ、にぎやかで温かな空気に包まれました。
バスの中では、本を手に取り購入される方もいれば、本やバスの装飾を眺めたりと、ただ空間の雰囲気を楽しんでいる方もいました。みなさんがそれぞれの過ごし方で思い思いに楽しんでいる姿が、とても印象的でした。想像していたよりも長い時間をバスの中で過ごされる方が多く、読書だけでなく「この場所にいること」そのものを楽しんでくださっている様子が伝わってきました。
終了後には「次はいつ来ますか?」「ぜひまた呼んでください」という声が多く寄せられ、地域にとって待ち望まれている存在であることを実感しました。絵本バスが、ただの移動書店ではなく、人々を笑顔でつなぐきっかけになったことを心から嬉しく思います。
子どもたちの笑顔と広がるご縁
6月の2回目開催の際は、地元の保育園とも連携し、園庭にバスを乗り入れて「絵本読むだけバス」を開催しました。園児たちは思い思いの本を手に取って眺めたり先生に読んでもらったり、また、バスの中の空間に目を輝かせている子もいました。
このときに使われた本は、売り物とは別に準備してくださった本で、なにかに役立てて欲しいと地域の方に寄贈していただいた中古本だったそうです。いろいろな方の思いがつながっていることも嬉しく思いました。
9月の3回目開催ではさらにご縁が広がり、移動ドライフラワー屋さんにも来ていただけることになりました。境内にはかわいいワゴンカーがもう一台加わり、自然を愛する檀家さんや地域の方々が嬉しそうに足を運んでくださいました。
絵本バスを楽しみに来ていたあるご家族は、帰り際に子どもたちがひとつずつお気に入りのブーケを選び、嬉しそうに本とお花を持って帰っていく姿がありました。絵本と花が出会い、人と人とのつながりがまた一歩広がったことを実感できる一日となりました。
ヨガや本をきっかけに広がるお寺の魅力
真言院では、毎月「寺ヨガ」も開催しています。静かな本堂で行うヨガは、スタジオとは違う趣があると、多くの方に好評です。ヨガや絵本バスをきっかけに「初めてお寺に来ました」という方も少なくありません。そうした方々が「お寺の空気がとても気に入りました」「また来たいです」と笑顔で帰ってくださるのは、私たちにとって何よりの喜びです。
お寺が法要や供養だけの場ではなく、文化や学び、安らぎに触れられる場であることを体験していただけたことは、私たちにとって大きな励みとなりました。
今後の展望
お寺として大切にしたいのは「文化に触れる」という視点です。これからも絵本や花にとどまらず、音楽、工芸、写真、手仕事など、さまざまな文化に触れられる機会をお寺に迎えていきたいと考えています。
供養や法要で訪れる方もいれば、ヨガや本に惹かれて訪れる方もいる。そうした多様な入り口があることこそ、お寺が地域の中でイキイキとした存在であり続けるために必要なのだと思います。真言院はこれからも、人と文化をつなぐ架け橋となり、地域に開かれた温かな場でありたいと願っています。
