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医療と介護とお寺をつなぐミライ③おてら終活カフェの実践例(龍興院副住職・大島慎也)

2021.02.17

大島慎也(おおしましんや)

昭和55年東京生まれ。平成21年日本歯科大学卒業、歯科医師免許取得。住職の体調不良を機会に僧侶 兼 歯科医師に。現在は副住職としてご葬儀や日々の法事を執り行い、また地域の訪問歯科診療などを行っている。

龍興院ページ

※前回はこちら

おてら終活カフェ@龍興院

 お寺で終活を考える「おてら終活カフェ@龍興院」は2019年1月からスタートしました。
 檀信徒に限らずだれでも参加可能、予約不要で参加費無料。ご高齢の方に特に関心が高い話題を選び、相続、遺言書、エンディングノート、お葬式、お墓、介護といったテーマで講師の先生をお呼びし、お話を聞いた後は皆でコーヒーやお茶を飲みながら自由にお話をするというカフェスタイルでの開催です。

 最初は何人来るのかと不安でしたが、回を重ねるごとに参加人数は増え、2019年度は6回行い地域の方々に多くご参加いただきました。
 コロナ禍の2020年の開催は難しい判断でしたが、2日間3回の予約制分散制で、無事に開催することができました。
 参加者はコーヒーを飲みながらそれぞれの悩みを互いに語り合い、緩やかにつながっています。この「緩やかな」コミュニティ作りが特徴で、来たい時だけ来る、語りたいことだけ語る、という自由な空気を大切にしています。

 これまで最も参加者が多かったのは、お寺で葬儀ができる「お寺葬」の回でした。
 葬儀というなかなか聞きにくい話題を、葬儀社と僧侶が実際の葬儀の設えの中で丁寧に解説し、またご家族で死と葬儀について語り合うのは、貴重な学びとなったようです。ま、家族葬が増えている中、家族で静かにゆっくりと、厳粛な雰囲気の寺院本堂でお見送りをしたいというご遺族の希望も重なって、お寺葬が注目されたのだと感じています。

おてら終活カフェ(お寺葬の様子)。笑いもあり、和やかな雰囲気

これからのお寺終活カフェ

 コロナ禍の2020年はなかなか開催ができず様子見でしたが、感染者数も減少していた9月11日~12日に第7回のおてら終活カフェ「おてら葬」を開催しました。
 もちろん感染症対策を十分に行ったうえでの開催。事前予約の人数制限を設け、2日間全3回の分散開催とし、マスク着用、消毒や換気、会場内飲食禁止、ソーシャルディスタンス確保、透明アクリル板設置等の対策を十分に行いました。

 そもそもお寺の本堂は窓が広く、天井も高い開放的な作りになっていますので、換気がとてもしやすいというのは意外なメリットでした。
 少人数での開催にしたぶん、コミュニケーションが行き渡り、結果的に満足度は高くなったようです。また地域の介護職の方々も参加してくれましたので、今後の介護とお寺の連携につながることを期待しています。こうした地道な努力を重ね、少しずつ地域医療・介護・お寺が連携していけたらと思っています。

おてら終活カフェは、龍興院本堂と客殿を広々と使って開催
時には客殿を使って参加者とワークをすることもある

 また、ありがたいことにこれらの取り組みを取材していただき、「中外日報」に掲載されました(*1)。徐々に新しい試みが受け入れられてきているようで、大変うれしく思います。将来的には、さらにコミュニティの輪を拡げていき、身体のことだけでなく、こころの面からも社会的な面からも、様々な面から地域のみなさんを支援するための「地域包括ケア寺院」となることを目指しています。

*1:中外日報(2020年8月19日)「高齢者が安心して参加 お寺で無料終活カフェ

「家族」「緩いつながり」そして「祈り」

 2020年はコロナ禍によって世界全体が大きな社会の変化を経験しました。東京下町の小さなお寺である龍興院も、この変化に対応しなければなりません。
 正直なところ、コロナ禍によって仏教や祈りといった、形の見えないものは忘れられてしまうのではないかと心配していました。

 ところが、2020年は例年より多くの方がお墓参りに見え、感染症対策の上で葬儀や法事をやろうという方が多くいらっしゃいました。不安な時代だからこそ亡くなった家族のお墓参りや法事をし、生きている家族とその絆を確認したのだと感じています。マスクをしソーシャルディスタンスをとりましょうという社会にあって、家族は家でマスクを外し笑いあえます。他人と家族との境界が、より明確になったといえるのかもしれません。

 その一方で、孤立する人々がより深い悩みを抱えるようになったのではとも感じます。
「ひとりになりたいけど、ひとりぼっちでいたくない」というCMがありました。他者とつながっていたいけれど、束縛はしたくない、されたくない、という微妙な距離感が重要なのだと気づかされます。龍興院ではこれを「緩いつながり」と呼び、お寺を緩くつながっていられる安心の場所にしていきたいと考えています。

「祈り」も人々のこころを癒す大切なテーマです。
 何万年も前から人類は祈り続けてきました。祈りは人間の原始的行動です。祈ることによって心が落ち着き、安心が得られることを経験的に知っています。
「祈りの空間」というのも大切です。たとえば龍興院では約400年の間、一日もたゆまず南無阿弥陀仏の念仏がこの場所で称えられ続けてきました。祈り継がれてきたその場所が持つチカラも、人々のこころに安らぎを与える大切な要素でしょう。

 お寺が地域社会に貢献し、心の支えとなって人々に必要とされ続け、なおかつ持続可能な存在でありつづけるには―—。
 この問いについて様々な可能性を模索するなかで、「安心の場所」「人とのつながり」「祈り」がキーワードである気がしています。
「社会的処方」「おてら終活カフェ」という切り口が、新たなお寺の可能性を社会に示す機会になるのではないかと、心から期待しています。

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