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ジブリ作品は「生きよう」という思いを呼び起こす ~ 「禅の言葉とジブリ」著者・細川晋輔さん(龍雲寺住職)に聞く

2020.11.30

新著「禅の言葉とジブリ」。表紙絵と挿絵はスタジオジブリ鈴木敏夫プロデューサーが描かれたもの

 龍雲寺住職・細川晋輔さんが、新著「禅の言葉とジブリ(徳間書店)」を上梓されました。
 細川さん流の禅の視点ではこのように見えるのかと、ジブリ作品の新たな可能性が開かれた印象を受ける書籍です。
 本書に込めた思いや経緯について、細川さんにおうかがいしました。

細川晋輔(ほそかわしんすけ)

昭和54年生まれ。佛教大学人文学部仏教学科卒業後、京都にある妙心寺専門道場にて9年間禅修行。現在、龍雲寺住職。花園大学大学院文学研究科仏教学専攻修士課程修了。妙心寺派布教師。東京禅センター副センター長。NHK大河ドラマ『おんな城主直虎』『麒麟がくる』禅宗指導。

龍雲寺寺院ページ

ジブリ作品そのものがとても禅的。スーッと禅語が浮かんできた

– 本書のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

 ジブリが発行している「熱風」という会報誌があり、毎月3,800文字の原稿を12ヶ月書いたものが基になっています。2018年にプロデューサーの鈴木敏夫すずきとしおプロデューサーから指示を受けた編集の方から、まず2回分書いてほしいというご依頼をいただき、執筆が始まりました。
 ちょうどご依頼をいただいた際、自分自身追い込まれていたんです。その頃は「人生に信念はいらない(新潮新書)」を執筆していたのですが、なかなか筆が進まず停滞していました。そんな折のご依頼で、さらに追い込まれたのですが、結果的に筆が進み、助け舟になりました。プロデューサーとして長年様々な人々を見てこられた鈴木さんには、私の状況がお見通しだったのではと感じています。
 鈴木さんが書かれ、対談相手として関わらせていただいた「禅とジブリ(淡交社)」では伝えられないものがありましたので、その思いを本作に込めました。

– 細川さんはジブリに限らず、身の回りの様々な事象・現象を禅的に捉えているのでしょうか?即座にピンと禅とつながるのでしょうか?

 普段は例えば放下着ほうげぢやくなど、禅語の説明をしていますが、今回は作品を見て、心に思ったことを添えていきました。最初に見た新鮮な気持ちを素直に禅語で表現したつもりです。作品の感想と数千語ある禅語とつなげていくのは、一種の修行かもしれません。
 禅が言おうとしていることは、この世のあらゆるところに遍満していると感じています。禅を意識してジブリ作品を見ているというわけではなく、ジブリ作品がとても禅的なんだと思います。だから、スーッと言葉につながるのだと思います。

– とは言っても、文章化するのはそう簡単ではないと思います。ご苦労された点はありますか?

 読者に言葉を届けるには、作品の見どころとつなげなくてはなりません。おっしゃるとおり、文章に書くのはそう簡単ではなく、例えばトトロは10回以上見ました。日本語字幕でも見ました。そして、企画書も読み、宮崎駿みやざきはやお監督の考えの深さに感銘を受けることも多々ありました。企画、作品の見どころと結び付けた上で、第一印象を表した禅の言葉とつなげていきました。本書は全く禅を知らないジブリファンを対象とした、禅の言葉集と言えるかもしれません。

ジブリ作品は答えを示さない。魂をゆさぶる「問いという余韻」で終わる

– 今回、一番見方が変わったジブリ作品はありましたか?

 それは高畑勲たかはたいさお監督「火垂ほたるの墓」ですね。初めて見た時は小学生でしたが、お坊さんになり、そして親となったことで、作品の見え方が変わりました。子どもが生まれたことで、作品の悲しさがとても身に沁みました。
 一方で、本作は悲惨さだけを描いたのではなく、あの時代でも子どもたちは幸せを見つける天才であり、スイカを食べたり、海で泳いだり、楽しんでいました。そのささやかな日常を壊す戦争はダメだということを心底思いました。

– 本書を拝読すると、細川さん自身がある意味ジブリに救われているような感じがしました。細川さんにとってのジブリ作品はどのようなものですか?

 小さい時はあまりテレビを見させてもらえませんでした。その中、金曜ロードショーでジブリ作品を見せてもらうのがとてもうれしかったんです。幼心がジブリ作品に救われたんですね。
 一方、成長して感じるのは、やはり私はジブリ作品と波長が合うのです。普通のアニメはあまり哲学的とは感じませんが、ジブリ作品は考えさせられるものがある。ジブリ作品では全てに答えが示されるわけではなく、自分で回答を見つける必要があります。
 禅は1000年前の高僧の感動や魂のゆさぶりを感じていきますが、ジブリ作品にも共通点があります。めでたしめでたしはなく、軽々しく答えを提示しないというのがジブリ的なあり方で、問いに問いを重ねていく姿勢がとても禅的だと思います。

– 例えばどんな問いがありますか?

 魔女の宅急便では、なぜ黒猫が話さなかったのだろうかと。
 崖の上のポニョでは、決して解明できないと思うのですが、主人公の少年たちは果たして亡くなったのかどうなのかと。
 2時間の作品に、過去も現在も未来も集約し、全部を解明せずに問いを残して終わる。分からないものを問いとして持ち帰ってもらう、と。「分かりやすい」というのは決して褒め言葉ではなく、分かりにくいものと向き合っていくのが宗教であり、ジブリ作品と通じるものがあります。「問いという余韻」があるのがジブリ作品ですね。

ジブリ作品には「生きよう」という思いを呼び起こす気づきがある

– 最後に、読者にメッセージをお願いします

「人生は生きるに値する」というのがジブリ作品に共通するメッセージです。
 新型コロナウイルスによって、多くの人が日常に死を突き付けられました。自分の行動で人を傷つけてしまうかもしれない中、「生きる」ということが大切なテーマになっている時代だと思います。
 人生は一切皆苦で、あらゆるところに苦しみはありますが、それだけが人生ではありません。生まれてきて良かったと思えることが大切なのだと思います。

 新型コロナウイルスで自粛期間が続いた時、以前に読み終わった本を読み返しました。そうすると、以前は気づかなかったこととたくさん出会いました。ジブリ作品もその時々の波長によって感じ方が違います。昔は感動していたのになにも思えなくなったり、今まで何度も見ていたのに気づけなかったことと出会えます。

 今は新型コロナウイルスで友達に会えなかったり、今までの日常が送りにくくなっています。そんな時、ジブリ作品を見て、今までは気づかなかったことに出会うことで、その気づきが問いとなって自分の人生を改めて考えることにつながるのではと思います。
 そして、問いを通じて、「生きる」には少しの努力が必要であり、様々な制約の中でも私たち一人ひとりができることをやっていこうという前向きな一歩につなげていただきたいです。ジブリ作品は「生きよう」という思いを私たちに呼び起こし、命と向き合う勇気をもらえる問いに溢れていると思います。

– 本日はありがとうございました。ジブリ作品を読み解く一つの視点として、本書の心が多くの方に届いていくことを願っています。

「禅の言葉とジブリ」はこちらから

新著と細川さん。床の間に置かれた「生きてみたら」は鈴木プロデューサーの書

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コメント一覧

  1. 龍雲璽の名前の由来を教えて下さいませ。
    龍神様とは、関係ないのでしょうか?

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  1. 龍雲璽の名前の由来を教えて下さいませ。
    龍神様とは、関係ないのでしょうか?

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