お寺のクラウドファンディング物語 - 大阪に終活コミュニティの拠点をつくる!
2019.03.06
大阪は難波近くのお寺で、終活コミュニティの拠点づくりが進んでいます。
應典院(大蓮寺の塔頭寺院)は「葬式をしないお寺」として、「気づき・学び・遊び」をテーマにした教育・文化・芸術活動を展開し、お寺の新たな可能性を発信し続けてきました。
そして、20年超にわたって多くのNPOや専門家と築き上げてきた信頼・協働関係(秋田住職の言葉では「社会関係資本」)が、多死・貧困という社会課題を軸にした終活という目標に束ねられ、新たな協働関係が創造されようとしています。
應典院の今までの活動も、「どう生き、どう死んでいくか」というテーマに貫かれたものであり、終活という取り組みも今までの一貫したテーマが表れを変えたものと捉えられます。
今回は、終活コミュニティの拠点づくりとして「ともいき堂」の建設プロジェクトが進んでいます。
そして、画期的なのは、クラウドファンディングという手法を用い、広く市民の参画を促していることです。
お寺が単独で進めるのではなく、世の中の共感を広く集める形で、ともに当事者として多死社会に取り組んでいこうというメッセージを発信しています。
それはまさに「ともいき(共生き)」という理念の具体的な表れであるとも言えます。
クラウドファンディングもあと半月となってきました。
現在進行形で進む「ともいき堂」建設にかける思いを、秋田住職にご寄稿いただきました。
「生き死に」に向き合う住職の理念と思いがほとばしる筆致。
みなさんもその理念に巻き込まれてみませんか?
秋田光彦(あきたこうげん)
1955年大阪市生まれ。明治大卒。1997年市民文化の拠点として應典院を再建、2002年大蓮寺29世住職に就任。パドマ幼稚園園長、相愛大学客員教授。著書に「今日は泣いて、明日笑いなさい」他。
ともいき堂の3つの方向性
「お寺終活プロジェクト」の拠点である、ともいき堂の工事の真っ最中だ(3月21日完工)。
関係性の断絶に苦しむ人々に、開かれたお堂をつくる。それが原点だ。
わずか十坪の小さなお堂だが、そこに大蓮寺と應典院がいわば相互乗り入れする。
伝統的な葬式仏教と、社会参加型の仏教が折り重なり、それぞれの特性の相乗効果を期して、ともいき堂へと結晶する。
ともいき堂には3つの方向性がある。
一つ目は生前サポートだ。
もちろん葬式やお墓など死後の儀礼は重要だが、それ同様にどれだけ生前の豊かな関係性が紡げるのか、そこで対話や相談といった(消費行為ではない)つながりが生み出されるか、「死後の不安」が軽減・緩和できるのか、宗教の役割が発揮される場面にしていく。
二つ目は終活の外部セクターとの協働だ。
地域には終活事業者とも呼ぶべき、様々な専門職や事業者がいる。お寺だけでは生前の関係の広がりも限度がある。
医療や介護施設、保険や相続の専門家、高齢者問題に取り組むNPO、あるいは大学の研究者など、地域社会の人と資源をつなぐ「マネジメント」を行うことが重要だ。
そして三つ目が死生観教育。
「死後の安心」とは、終活の実務サービスが行き届けば満たされるわけではない。
個々人の死に対する意識や死後のビジョンなど豊かな死生観を育んでこそ、お寺の終活だろう。
それを従来的な布教の場に閉じ込めず、どう対話的、臨床的に展開するか、知恵が必要となるところだろう。
これら三つを大蓮寺、應典院とも連動して運用しながら、ここに必要に応じて葬送サービスを組み合わせていく。
死んでから、ではなく、生きている今、必要な場所となる。「お寺の終活」とは、葬式とお墓だけのお寺から脱皮する転換点なのだ。
むろんスキルはいる。ネットワークもいるし、外部と連携するに信頼関係も欠かせない。
一朝一夕にできあがるものではないが、しかし、お寺とはそういう人々の関心や期待、厚意などが寄せられる潜在的な、魅力的な資源でもあるのだろう。
お寺が本気で取り組むのなら、協力しようという頼もしいサポーターも登場する。
それを実感したのが、2月8日からスタートした、クラウドファンディングの試みだ。
クラウドファンディングと新しい公共の物語
クラウドの仕組みとか意義についてはここでは触れないが、井上広法さんが言うようになるほどこれは「現代の勧進」だ、と思う。
遠く東京や九州から、顔も名前も知らない方々から、「わずかですが」と浄財が寄せられる。本堂修復のために檀信徒に募る寄付と本質が異なるものだ。
ともいき堂の建築資金1500万円の10%をまず目標としたところ、募集開始1週間で150万円を達成、現在第2目標の300万円に向けて続行中だ。
クラウドファンディングの運営団体であるレディフォーがその達成率の高さゆえ、注目のプロジェクトとしてトップページに据えた(聞けば、文化財維持や修復を除いて、お堂の再建資金のクラウドは初めてという)。
もちろん寄付金はありがたいのだが、それとは別に「お寺と終活」の可能性を強く感じる。
2千2百名を超える「いいね!」の関心層、また研究者やNPOの方々も含め120人の寄付者から、「お寺終活プロジェクト」は何を評価され、何を期待されているのか。
この寺業のため理念と方法を練り上げてきたつもりだが、私にも全体像が掴みきれないほど、まだまだ書き込める余白があるのかもしれない。
クラウドファンディングは、新しい公共の物語を語り得る。
役所が扱うそれではなく、無数の声が参加し、つながりあい、かかわりあって、地域それぞれの公共圏(アソシエーション)へと開かれていく。それは新しい結縁づくりといってもいいだろう。
ともいき堂が目指す終活は、死者との対話も含む「みんなの終活」
ともいき堂ではひとりの終活ではなく、みんなの終活を目指している。
自分にとっての実務解決だけでなく、地域全体の課題として共有していく。
そこには協働や共助、また互いを思いやったり、おかげに感謝する、もう一つの公共が生まれるのかもしれない。
一人を孤立させず、みんなで声を響かせながら、慈悲の共同体を作っていく。
それはお寺が地域で結び合せる、唯一のセーフティネットなのだ。
現代は、すべてにおいて生者の意思だけが優先されていく。
いや、未曾有の多死社会に直面する今だからこそ、数多の死者たちとともにあることに気づき、その経験や叡智に学びなおす、そんな生死の対話を提供できるのではないか。本当の公共は、生死をつなぐ。
仏教は、両者を架橋する物語なのである。
ともいき堂の工事は、一旦3月21日に竣工して、「お寺の終活・花祭り」のイベントを経て、5月18日に正式オープンとなる。そこから合葬墓「ともいき」や、支援型葬儀「ご縁葬」も始まる。
寺業計画とか外部とのネットワーク、寄付の集め方も詳細をいずれ全面的に公開するつもりだ。
〈まいてら〉の仲間たちや若手住職たちの一つの参照点となるのであればうれしい。
クラウドの寄付募集期限は3月29日となる。
300万円の目標額に至るまで、呼びかけを続けていきたい。
その声の渦に、ぜひあなたも参加してほしい。