そんなにお葬式は悪いものですか? -「お葬式の体験会」のススメー(足立信行・T-sousai代表)【死に方のココロ構え(21)】
2023.09.14
足立信行(あだちしんぎょう)
株式会社 T-sousai 代表取締役社長。1982年、京都府生まれ。在家の家に生まれる。18 歳の時に高野山で僧侶になることを決意。高野山金剛峰寺布教研修生修了。高野山で修行をする中で僧侶や寺院の役割を考え、一度下山。葬儀の重要性に気づき、2008年 大手互助会系の葬儀会社に入社。葬儀の担当者となり、年間約 120 件の葬儀を手掛ける。2012 年IT 企業に入社し、エンジニアとして活動。2017年、僧侶と葬儀会社の担当という経験から、お互いが遺族や故人のために協力し祈りの場所として本堂などで葬儀をあげ、安価で心あるお寺葬の構想を企画。葬儀の告知、WEB、導入などから実施、施行までをワンストップできる株式会社 T-sousai を創業し、現職。
※前回(葬儀のお経をお願いしたいお坊さんはいますか?)はこちら
おもしろおかしく語られる葬祭業界
葬祭業の世界に入って15年以上になりますが、今も昔も業界を取り巻く環境で何一つ変われていない、改善されていない、悪習のようなものがあります。それが「葬儀の情報」です。葬儀は秘匿にされたり、あまり公にされたりしない部分ですので、センセーショナルで誤った、扇情的なニュースが配信されることもしばしばです。むしろ、他業界に比べて多いのではないかとさえ感じております。
私自身は、出家して僧侶になり、IT企業に従事して、現在は経営者でもあるので、色々な分野の方々と情報交換をする場合がありますが、葬祭業界はやはり2歩も3歩も遅れているなと感じることがあります。それが不確かな情報が、まことしやかにはびこっているということです。他業界では情報に対する統制がとれているのか、業界団体にまとまりがあるのかわかりませんが、扇情的で、クリック数をかせぐためだけの記事が頻出することは極めて少ない。死を取り巻く業界の宿命なのか分かりませんが、こういう状況は15年以上前からずっとあり、葬祭業はおもしろおかしく語られるのが常という感じです。
先日もある葬祭業界に対しての配信動画が話題になりました。その動画はエンバーミングに関して語られたもので、エンバーミングは日本語で「遺体衛生保全」と訳されます。端的に言えば、ご遺体の腐敗を遅らせる技術のことです。日本では民間資格の「遺体衛生保全士(エンバーマー)」がエンバーミングを施すことが許され各葬儀社で活躍されています。その動画では「とある葬儀社」がエンバーミングを受注するため、わざとご遺体の腐敗を進行させ、利益を得ているという言説が出て、それが話題になりました。「そんなけしからん葬儀社があるのか?!」というのではなく「エンバーミングを分かっていない」という葬儀のリテラシーに関する問題で話題になったのです。
確かにエンバーミングはご遺体の「修復」も手掛けますので、ある程度の腐敗の損傷を和らげることができます。しかし、これはあくまでも「緩和」であり「回復」ではありません。一旦腐敗が進んだご遺体を元通りに「回復」することなど到底不可能で、仮にエンバーミングを受注するにしてもあり得ないことです。「回復」できないご遺体は故人の尊厳にも関わる問題でもありますし、遺族からのクレームに発展するため葬儀社はそういったことはまずしません。葬祭業のリテラシーをある程度持つ人間であれば、すぐ「本当にそんなことあるのかな・・・」と疑問をもつ動画ですが、おもしろおかしく語られる業界のためか、その動画は一躍話題となった次第です。
「お葬式をやってよかった」という人がほとんどです
葬儀に関しても同様で、語られる紋切り型の記事はだいたいこんな流れです。
- 安いというCM(あるいはネット)で葬儀を依頼した
- 実際、請求書をみると倍以上した
- 葬儀業界は悪い会社ばかりで葬儀なんかやるんじゃなかった…
最終的には「お葬式を後悔している」というどこのだれかが発言したか分からないようなコメントで締め括られるのがほとんどで、正直この15年間、何一つ変わっていないように思います。中にはこの後にお葬式をしない「直葬」を勧める記事もあり、そのやり口は人に恐怖心を与えて直葬こそがよいと言わんばかりの極めて悪質な誘導記事であると感じます。
改めて、お葬式は本当に悪いのでしょうか。お葬式をやって後悔したという人はどれほどいるのでしょうか。また、直葬でよかったという人は本当に多いのでしょうか。
今年の4月に発表されたある調査では、インターネットを通じて「喪主の経験がある40代以上の男女400名」を中心に聞き取りを行った結果、9割の人が「葬儀をやってよかった」と回答したと記事にあります。この調査はご遺影や訃報などを製作する会社が行っているため、その点を考慮しながら読み進めることが必要ですが、悪質な誘導記事とは裏腹に、葬儀をやってよかったとある程度の喪主が思っていることは事実であろうと感じます。
私自身も葬祭業務に従事して、それなりに担当者として活動してきましたが、葬儀後のアンケートなどで、「葬儀をやらないほうがよかった」と言われたことなど1度もありません。またそのようなアンケートがあったことも聞いたことがありません。出てくるのは「温かな葬儀で本当に良かった」や「葬儀をやってきちんと見送れた気がした」など葬儀に対して肯定的な言葉ばかり。先の調査の結果を補足するわけではありませんが、実感としても「葬儀をやってよかった」と思っている人が多いことに大きく頷けます。
逆にこれも実感としてあるのが「直葬」を選んで後悔したという人は割と多くいました。葬儀後のアンケートでも「安易に直葬を選んで後悔した」とか「もう少ししっかりと見送ってあげればよかった」など。世間に出てくる情報とは逆で、直葬の方が後悔が多いのではないかと思っております。中には四十九日や百箇日の際にしっかりと見送りたいと申し出て、結局、お葬式をやり直す人もいるほどです。
いずれにしても、お葬式をやってよかったと思える人は巷間出てくる葬祭業界の情報とは違い、かなり多数いるというのが実態ではないでしょうか。
先日(9月4日配信)も俳優の大和田獏さんの記事が掲載されておりました。奥様がコロナで亡くなられその喪失を心の状況を極めて冷静に語られておられました。その中で大和田さんは、「お別れの会」をやられたことを明かされてましたが、最後にこのような言葉がつづられていました。
「でも大事でした。これやって良かったなと思ってます」「特に娘が一つ区切りがつけられたんで」と語った。「あとはやっぱりこのことでいっぱい周りの人たちからいろんな思いをいただいたので。優しい思いをね。本当に人の優しさがありがたかったし、その優しい人に囲まれて生きていこうねって。自分たちもそういう人に優しくできるようになろうねって思えたし」と話すと、「娘がよく言うんですけど、人生には無駄なことはないんだって。それを母が教えてくれたんだって彼女がよく言うんですけど、それは思うようにしてます」と力を込めた。
(※Yahoo!ニュース「大和田獏 妻・岡江久美子さんとの別れ 入院中は『携帯を握りしめ』 『完全防備の服』で1人悲しみの対面」より抜粋)
実際の現場は多くの葬儀をやってよかったという方の声であふれているように感じます。
お葬式の体験会の勧め
このような実態とおもしろおかしく語られる記事が乖離している理由はいくつか挙げられます。葬祭業の業界団体が機能していないこと、悪意のある誘導記事が多いこと、死というものが持つ秘密性もそこに加担していることなどです。要はお葬式や葬祭業界があまりにもクローズドであるためこのような誤解が起こるのだと感じます。
このような誤解を解消するために大切なことは、お葬式をオープンにすることだと考えます。そのため「お葬式の体験会」を提案しています。
「お葬式の体験会」というと何か棺に入る体験をしたり、祭壇を飾るだけの説明会をしたりと、安直な内容が多く見られますが、私がやっております「お葬式の体験会」は全く違います。実際のお葬式を体験してもらい、僧侶が読経を行い、お別れのDVDも流し、最後は出棺して終わるという、文字通りの「お葬式の体験会」です。折に触れて、儀式の意味や読経の説明などをすることにより、死への視座が高まり、「このように自分は見送られるんだ」という死生観を醸成することにも役立ちます。
今のお葬式の何が悪いのかといえば、試食や試乗や試飲が全くない中でお葬式をやらなければならないことです。そうであれば、模擬でも体験会でもなんでもよいのでお葬式を実際体験してもらい、その上で、お葬式を「やる・やらない」を決めてもらう。その方が、誤解のないお葬式ができるのではないかと考え、「お葬式の体験会」を実施しています。
実際にご遺影を飾り、喪主を募り、葬儀費用も明示して、僧侶の読経も実施します。読経の後の故人を偲ぶ映像では、ハンカチで目を拭う方も出てきます。「お葬式の体験会」は今の時代に求められるオープンなお葬式の最たるものであり、お葬式への誤解をなくす確かな活動であると認識しています。
お葬式をクローズドで秘匿にされたものから、オープンで明示されたものにすることも、私たち葬儀社がやらなくてはならない責務なのではないかと強く思います。