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緩和されたコロナのご遺体 ―納体袋の上からのお別れー(足立信行・T-sousai代表)【死に方のココロ構え(14)】

2023.01.30

足立信行(あだちしんぎょう)

株式会社 T-sousai 代表取締役社長。1982年、京都府生まれ。在家の家に生まれる。18 歳の時に高野山で僧侶になることを決意。高野山金剛峰寺布教研修生修了。高野山で修行をする中で僧侶や寺院の役割を考え、一度下山。葬儀の重要性に気づき、2008年 大手互助会系の葬儀会社に入社。葬儀の担当者となり、年間約 120 件の葬儀を手掛ける。2012 年IT 企業に入社し、エンジニアとして活動。2017年、僧侶と葬儀会社の担当という経験から、お互いが遺族や故人のために協力し祈りの場所として本堂などで葬儀をあげ、安価で心あるお寺葬の構想を企画。葬儀の告知、WEB、導入などから実施、施行までをワンストップできる株式会社 T-sousai を創業し、現職。

T-sousaiホームページ

※前回(スマホで死顔を撮ることについて)はこちら

約3年間なにひとつ変わらなかったガイドライン

 2023年1月6日に厚労省がコロナで亡くなった方の対応に関するガイドラインを改定しました。このガイドラインは医療従事者をはじめ、葬儀やご遺体に携わる業者に対するもので、コロナに罹患されたご遺体をどのように扱うかを指し示したものです。厚労省から発表された以前のガイドラインが2020年7月に作成されたものですから、およそ3年もの間、この指針はなにひとつ変わりませんでした。なぜこれほどまで時間がかかったのか、政府はなにをやっていたのか。葬儀の現場で働く者のひとりとして、本ガイドラインの遅きに失した改定に大きな憤りを抱いています。

 今回の改定で最も大きな変更が「納体袋のうたいぶくろ」の取り扱いです。コロナに感染された方に適切な処置がなされているのであれば、納体袋を使用しなくてもいいと変更されています。納体袋は文字通りご遺体をビニール製の袋に入れて、チャックをしめるもの。ボディパウチなどとも言われており、ご遺体の損傷が激しい場合や体液の漏れや衛生上の観点、そして腐臭なども含め対応できる葬儀の備品です。
 衛生上の観点から実施するものの、ビニール袋にご遺体を入れるため、故人への尊厳や親しい人とのお別れにストレスを感じる方も多いのが実態です。衛生上やむを得ない状態であれば使用しますが、そうでない場合は極力使わず、故人との別れを全うしてほしいと私は感じています。ガイドラインの改定がなされた今では納体袋の使用は適切な処置がなされていれば問題ないことが明記されています。

 この3年の間、死因がコロナであるご遺体と、搬送業者や葬儀社は過敏な心境で接してきました。緊張感を保ちながらお別れをするという難しい状況でした。最も考えなくてはならないのは故人その人の尊厳であり、ご家族の方々のグリーフです。新型コロナで亡くなられた方の葬儀は、葬儀社、僧侶として幾度か立ち会ってきましたが、納体袋越しのお別れ、防護服に身を包む中での花入れ、肌と肌が触れ合うことなく見送る弔いは非常にやるせない思いでした。この3年間で、いったいどれほどの方々が納体袋での別れに、辛い想いをし、悲しい想いをしたのか。どうしてもう少し早くこのガイドラインを改定できなかったのか。なぜいま、このタイミングなのか。まだこの問題は数多くの疑問を残していると考えます。

ガイドライン
1月6日付けで厚労省より発表された「新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン 新旧」

儀式を大切にしようと学ぶ学生

 約3年程前から私は都内の専門学校で学生に葬儀のことなどを教えています。「葬祭ディレクター学科」という葬祭業に従事したい学生が通う学科です。20歳前後の若い方が戒名、位牌、火葬などを勉強していることは少し意外という印象をもたれる方が多いのですが、学生はいたって熱心で、将来を見据えた目の輝きはとても力づよいものがあります。
 葬祭のマーケティングや冠婚葬祭のことなどを教える中で、儀式についてもよく話します。一例を挙げます。

  • なぜ通夜は夜でなければいけないのか
  • なぜ葬儀は午前中が多いのか
  • 納棺の時の装束はどういう意味があるのか
  • なぜ真言宗は洒水しやすいという儀式をするのか

 初めて聞く単語や初めて見る漢字に多少の戸惑いはあるものの、学生は非常に熱心で葬儀に対する向学心があります。儀式の内容を伝え、それをどのように現場で活かすかは彼らの未来に委ねますが、古くからのほぼ習慣と言ってもいい葬儀の作法を伝えています。
 先日、ある学生が授業終わりにこんなことを言ってきました。

「今日の授業で初めて葬儀の儀式がきちんと意味があり、やることがとても重要だと感じました。」

 その学生は高校生の時に祖母が亡くなり、その時の葬儀の担当者がとても感じがよく、自分も葬儀に携わりたいと思ってこの道を選んだようです。
 そんな学生が葬儀の儀式には全て意味があり、やることが重要だと言いました。若い世代は先入観がないためか、頭が柔軟で素直に何でも受け入れてくれます。儀式の大切さを知り、それを表明してくれるのはありがたいことです。専門学校で特殊なことを教える学校のため、意識の高い学生が来るという要因もありますが、もしかすると儀式の内容を改めて伝えることが今とても求められているのかと感じています。

 慣習でやるのではなく、意味を分かった上で実施する。「ただ儀式をしろ」とか「とにかく葬儀や法事をしろ」という頭ごなしの押し付けの儀式ではなく、なぜ葬儀をしなければならないのか、葬儀は何をやっているのか、法事はどういう意味があるのかなどを、真摯に説明し伝えることで葬儀の質は変わると思っています。

学生たち
学生たちは実際の葬儀の式場を借りて学びます

儀式の大切さを知った日本人

 昨年行われた「第5回お葬式に関する全国調査(2022年)」(いい葬儀実施)では、一日のみで行われる葬儀、少人数で行われる葬儀が著しく増加しているものの、「やむをえず一日でした」「仕方なく簡略にした」という声が多く寄せられたとあります。また「思い描いた葬儀とは違う形になった」という声もあり、本来であればきちんと見送りたかった、簡略に見送ったものの少し納得がいかなかった、と読み取れるアンケート結果もあったようです。

 ガイドラインが改定され、納体袋でのお別れは激減するでしょう。私は、愛しい人を弔うことにこれほどもどかしい想いをする世界はもう嫌です。心のまま、心の許すまま、故人の安らぎを祈り、供養することがとても大事だと感じます。誰もが安心して見送ることができ、誰もが心から旅立つことを許容される。形骸化された儀式ではなく、心から見送った、心からお別れができる、そんな葬送文化を構築していきたいし、それゆえ伝統的な葬儀を守っていきたいと感じます。
 今はまだ若いですが、学生たちがみる葬儀の世界が少しでもよくなるよう私も頑張りたいと心から思いました。納体袋でのお別れが減るように私も精進せねばと改めて感じました。

以下のURLのサイトを下に筆者が作成 https://www.e-sogi.com/guide/46028/

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