医療と介護とお寺をつなぐミライ①「社会的処方」ってなに? (龍興院副住職・大島慎也)
2021.02.05
大島慎也(おおしましんや)
昭和55年東京生まれ。平成21年日本歯科大学卒業、歯科医師免許取得。住職の体調不良を機会に僧侶 兼 歯科医師に。現在は副住職としてご葬儀や日々の法事を執り行い、また地域の訪問歯科診療などを行っている。
厚労省が推進する「社会的処方」にこそお寺のミライ
新型コロナ関連のニュースばかりが目につく2020年でしたが、6月に「いわゆる社会的処方と呼ばれる取り組みを、厚生労働省が推進することになりました」というニュースがNHKで流れました。
私は「歯科医師」兼「僧侶」として、日々、外来診療や訪問歯科診療に携わっている立場です。けれども、「社会的処方」というこの聞きなれない言葉に、はじめはあまりピンと来ませんでした。しかし調べてみるほどに、これはお寺という場でやるべき社会貢献なのだと確信しました。
社会の変化についていけず「寺院消滅」などとマスコミに言われる昨今ですが、この社会的処方こそ、お寺が社会に貢献しながら持続可能な存在であるためのひとつの可能性ではないかと考えるようになったのです。
社会的処方ってなに?
社会的処方とは、患者さんに薬を処方するのと同じように、「社会とのつながりを処方する」という考え方です。医師や歯科医師が、患者さんの健康面だけでなく、社会生活の面からの課題に目を向けて、地域社会における様々な支援活動につなげることにより、患者さんの健康維持と不安解消につながるというわけです。
たとえば、糖尿病と認知症の悪化により、薬の管理に困難がある患者さんがいたとします。医師は、この患者さんへ糖尿病患者の会などへの参加を促します。そうすることによって、患者さんの生きがいづくりや服薬を見守る機会が増えるため、血糖値のコントロールがしやすくなります。つまり、医師が患者の会という「つながり」をお薬のように「処方」するわけです。これが社会的処方です。
お医者さんと地域活動をつなぐ「リンクワーカー」
社会的処方の試みは素晴らしいですが、お医者さんがその地域の社会貢献活動をすべて把握しているわけではありません。
そこで必要とされるのが、「リンクワーカー」と呼ばれる、医師と社会貢献活動を繋ぐ人材です。医師は、患者さんにリンクワーカーを紹介する。リンクワーカーは患者さんと面談し、解決策を考えていく、という流れです。
社会的処方がすでに導入され、一定の成果をあげているイギリスなどには、専門のリンクワーカーがいます。けれども日本では、まだ制度化されていません。
ここから少し専門的になりますが、2020年7月に閣議決定されたいわゆる「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」には、社会的処方が盛り込まれ、社会保障審議会(厚生労働大臣の諮問機関)では介護報酬への反映も視野に入れた議論がなされています。医師や歯科医師が、自宅で介護をされている患者さんへ管理や指導を行う「居宅療養管理指導」にも、社会的処方の記載欄を新設する可能性があるようです。このように、日本でも徐々に制度化の動きは進んできています。
とはいえ、日本にリンクワーカーが「根づく」のは、個人的にはまだまだ時間がかかるのではないかと感じています。
「お寺に来ればいいじゃない」
私自身、「歯科医師」兼「僧侶」として訪問歯科診療に携わっているので、患者さんに居宅療養管理指導を出しています。ここに社会的処方の欄ができたら、さて、いったいどうやって「処方」すればよいのでしょうか?
地域包括支援センターや、地域のソーシャルワーカーの方々と連携して……とイメージする中で、私は1つの可能性に気がつきました。
社会的処方なら、「お寺に来ればいいじゃない」と。
昔からお寺は地域の人々が集うコミュニティの場でした。今でもお寺が主催する仏教行事だけでなく、その場所を使って、何らかの形で社会貢献活動が行われているお寺は多いでしょう。日本ではコンビニの店舗数よりも数の多い「お寺」という社会的資源が、社会的処方の場として活用されれば、社会全体にとってたいへん有用です。
そもそも、社会貢献活動を行う上で、実は「場所」がとても重要なのです。何らかの活動を経験された方は実感としてお分かりになるかもしれませんが、みんなが集まる「場所」が落ち着く空間である、安心安全の場である、ということが、大切な条件になります。「コミュニティ作りは、まず場所作り」といえるかもしれません。
お寺はその「場所」としてぴったりです。長い間その地域に根づき、仏様に見守られ、祈られ続けてきた場所なのですから。
まだひとつの可能性ですが、医師が在宅の患者さんに「お寺に行ってくださいね」と社会的処方を出せるようになれば、地域社会にとって大きなプラスになるのではと期待しています。なにせ、お寺はコンビによりたくさんあるのですから。
仏教は社会のセーフティネット
昔から仏教は、苦しむ人々の為に社会貢献活動をしてきました。
これは現代においても同様で、例えば「おてらおやつクラブ」(*1)や「ひとさじの会」(*2)などといった活動で、社会のセーフティネットとして機能している部分があるといえます。仏教の教義の中に「みんなの為になる活動をしよう」という「利他」の精神がありますので、たとえ全くお金の儲からない活動であっても、他者の為に頑張って活動しているのです。
また、支援活動に僧侶が直接関わらなくても、お寺という場所を地域のボランティア活動の場所として提供できれば、それだけでも活動拠点がひろがり、地域住民の安心の場所が増えるでしょう。
*1:お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」としていただき、子どもの支援団体を通じ、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動団体。2018年度グッドデザイン大賞を受賞。https://otera-oyatsu.club/
*2:ひとさじの会(正式名称:社会慈業委員会)は、路上生活者など生活困窮者へ「ほんのひとさじの重湯(おもゆ)を差し上げる」ような想いから炊き出しや配食活動を行い、その人に寄り添いたいという浄土宗の僧侶たちがつくった団体。https://www.hitosaji.jp/
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