日本一の宿坊を目指す! ー 本州最北端の宿坊物語(普賢院・青森県大間町)
2019.07.09
文:井出悦郎
本州最北端、マグロでも有名な青森県大間町。そこに人気の宿坊「おおま宿坊 普賢院」があります。
切り盛りする方は、若き住職の菊池雄大さん。
大間にある福蔵寺の次男として生まれ、檀家ゼロで使われていなかった普賢院の再生に取り組まれています。
宿泊部屋はなんともオシャレ。
窓からは緑豊かな境内が広がり、ボーっとしているだけで心が落ち着きます。
1日1組限定なので、境内を貸し切っている気分にもなります。
地域の縁に支えられ、夢は日本一の宿坊
夕飯は、大間の海産物づくし。
大間と言えばマグロ。福蔵寺の檀家さんがマグロ漁師のため、そこから仕入れているとのこと。
年末年始のドキュメント番組に登場する大間のマグロ漁師は、檀家さんなんだとか・・・
美味しい食事とともに、深夜まで菊池さんと語り明かしました。
「宿坊を始めて、福蔵寺の檀家さんはとても喜んでくれました。海産物だけでなく、野菜も提供していただきますし、知り合いに広めてくれて宿泊客の増加につながっています。この宿坊を支えていただいているのは、檀家さんとのご縁です」
「宿泊される方の中には自死願望を持った方もいらっしゃいます。明け方まで話し、『自死したいと思ったら私に必ず連絡してください』と伝え、帰った後もLINEでやり取りが続いています。特設LINEを開設しているので、そこからの悩み相談も多いですね。
「私も心身を維持するために、お客さんの受け入れは3日に1組にしています。そうすることで全力でお一人ずつに向き合えます」
「宿坊を始めるためのリフォームや設備投資のため、金融公庫から融資を受けました。残りは自己資金を出しました。自分のお金なので真剣度が違います。2018年4月に宿坊を開いてから、一ヶ月強はお客さんが一人も来ず、胃の痛い日々が続きましたが・・・(苦笑)」
中でも印象に残った言葉がありました。
「10年後に日本一の宿坊になることを目指しています」
過疎化が進む本州最北端。
大間には原発問題も横たわり、町の将来を考えればとにかく動くしかない。
菊池さんの強い危機感は情熱となって、宿坊の魅力となっています。
大間に生まれ、大間で死んでいく。当たり前の生死の循環をつくっていきたい
日本一の宿坊の先に、菊池さんにはさらなる夢がありました。
「大間では結婚式ができないので、むつ市などに行かなければなりません。育った地元で結婚式を挙げてほしい。そんな思いから仏前結婚式を始めました。おかげさまで好評です」
「境内は週末に子どもでにぎわうんです。子どもの遊び場になっているんですよね。将来は、子どもでにぎわう境内の一角に、老人ホームを建てたいと思っています。大間には病院がないので、大間では死ぬことができません。でも、檀家さんは『大間の海と空が見える場所で死にたい』とおっしゃるんです。大間の風土に包まれ、子どもたちの声に囲まれて死を迎えていただきたい。そんな夢があります」
大間に生まれ、大間で育ち、大間で死んでいくという生死の循環。
一昔前まではどの地域でも当たり前だった風景。
宿坊の先に普賢院で実現したい夢は、地域としての原点回帰なのかもしれません。
翌朝は6時半から、20分の坐禅とお勤め。
菊池さんと一緒に唱える般若心経には、すがすがしさがありました。
お勤めの後は精進料理の朝食。
応量器で食べるお粥は、とてもおいしく感じられました。
帰路は下北駅まで1時間のドライブ。
道中も色々と話しながら、菊池さんに会いにリピートするお客さんも少なくないのではと感じました。
いつかまた訪れてみたい宿坊ですね。
素晴らしい取り組みです。
わたし自身も過疎地の寺院で副住職となりました。
これからの寺院護持をどうしたらよいかと考える中で、布教と経済基盤の両立のために宿坊経営が一つの手段になるのではないかと先行事例を調べていたらこちらのサイトを見つけました。
モデルケースとしてとても参考になります。