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お寺が地域の「結び目」となり、医療的ケア児を優しく包んでほしい(もみじの家ハウスマネージャー・内多勝康さん)

2021.02.24

 前回の記事でご紹介した「もみじの家」。ハウスマネージャーの内多勝康うちだかつやすさんに、現状や今後の展開についてお話をうかがいました。

 内多勝康さんといえば、前職はNHKアナウンサー。「クローズアップ現代」をはじめさまざまな番組を担当され、優しい語り口と温和な表情が印象に残っている方も多いことでしょう。

NHK「クローズアップ現代」でキャスターを担当する内多さん

 内多さんはNHK時代から福祉問題に積極的に関わり、在職中に社会福祉士の資格を取得。53歳でNHKを退職し、新設された「もみじの家」のハウスマネージャーに就任され、現在に至るまで同施設を牽引されています。

内多勝康(うちだかつやす)

1963年東京生まれ。東京大学教育学部卒業後、NHKに入局。30年間アナウンサーとして「首都圏ネットワーク」「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」等のキャスターを務め、阪神淡路大震災や東日本大震災の緊急報道にも携わる。2016年にNHKを退職し、国立成育医療研究センターの医療型短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーに就任。著書に『「医療的ケア」の必要な子どもたち~第二の人生を歩む元NHKアナウンサーの奮闘記』(ミネルヴァ書房)

もみじの家ホームページ

価値観の変革を、わたしたち大人が問われている

- 内多さんから見た、医療的ケア児の置かれている状況はどのようなものでしょうか?

 NHKから転職した2016年当時に比べれば、メディアに医療的ケア児が載ることは増え、社会的認知度は上がってきました。しかし、まだまだ一般的な認知は高くない状況です。

 現在、医療的ケア児は全国に約2万人いて、毎年増えています。家族だけで医療的ケア児を支えるのは限界があり、社会で支えることを考えないといけない段階であることは、現場にいると明らかです。

 これまでは病院で医療、家で介護というシンプルな区分で済んできましたが、それではもう済まない現状があります。退院後の、医療、福祉、保育、教育をどうするか。そして、やがて成人していく子どもたちをトータルでどうサポートするのか。関係機関が縦割りではダメで、連携していく必要があります。
 課題は明確なので、何をすべきかも明確です。実行が求められています。

- 医療的ケア児への支援に取り組むことは、社会全体にとってどのような意義があるのでしょうか?

 医療的ケア児を社会でしっかり支えることは、これまでの日本が築いてきた文化をリニューアルすることになると考えています。

 2016年に児童福祉法が改正され、初めて法律上に医療的ケア児についての存在が明記されました。
 法律の条文や制度の中に、医療的ケア児がじわじわと存在感を増してきていますが、新しい価値観を根づかせようとする際には、今までの慣習や文化と軋轢が生じるものです。実際、医療的ケア児の教育現場での受け入れに関して、裁判が起きている地域もあります。

 いま大きな価値観の変革が求められており、福祉にとどまらず、日本の文化をどうするかということについて大人たちが問われています。
 医療的ケア児がこれほど多く退院して地域に帰ってくる国は、そうそうありません。日本が、障害のある子どもたちが地域で幸せに暮らせる国になれば、世界から尊敬されるでしょう。制度やノウハウを海外に輸出できるかもしれませんし、子どもたちを支える福祉大国となる可能性があるのです。

入所した医療的ケア児と交流する内多さん

医療的ケア児を支える公的制度はまだまだ未成熟

- 医療的ケア児を支える制度は、どのような状況でしょうか?

 さまざまな支援や社会的基盤が少しずつ整ってきていますが、課題は多いです。

 医療的ケア児を支えるには、看護師を中心とした医療の専門職が必要です。もみじの家のような施設で常勤雇用するには、当然、人件費がかかります。この点については公的制度が未成熟で、事業の運営には収支の不安定さがつきまといます。
 ありがたいことに民間の寄付がもみじの家を支えてくれています。ただ、寄付に頼っているというイメージが強いと、もみじの家のモデルが全国に広がっていきませんので、運営基盤は公的な制度で支えられることが、やはり重要です。

 具体的な収支でご説明すると、もみじの家の運営には年間2億円の経費がかかります。毎日夜勤が2名必要なので、1週間で14名の夜勤シフトを回せる体制が必要です。看護師16名、保育士2名、介護福祉士1名、そしてマネージャー、事務長など、経費の8割くらいは人件費です。赤字はだんだん減ってきていますが、2019年度の収支は2000万円以上の赤字です。

 また、入所した子どもたちに学びや遊びの機会を提供する「日中活動」を支える保育士の活動は報酬の加算対象にはならず、施設からの持ち出しになります。
 昨年NPOと協力し、日中活動の遊び・学びにより子どものQOLがどれだけ上がっているかということを研究しました。その成果も添えて、厚生労働省に要望を上げています。この2021年4月に、3年に1度の障害福祉サービス費の報酬改定がありますが、改定の度に支援内容が充実してきているので、今回も期待しています。

 もう一つ、制度に加えて重要なことは、担い手の問題です。看護師不足は以前より言われていますが、仮に医療的ケア児のための施設ができてもケアの担い手がいなければ、「魂」が入りません。ケアの担い手の絶対数を増やしていくのも切実な課題です。

各地に保護者のつながりを広げていきたい

- もみじの家の今後の展望を教えてください。

 もみじの家のミッションには、こうした施設を全国に広めていくことが明記されています。
 そのためにも、これからは各地に保護者のつながりの会を増やしていきたいです。地域内のつながりができることで、行政に要望をあげる流れをつくることができます。個人ではなく集団となって要望を上げていくことが大切です。

 例えば、もみじの家のような医療型短期入所施設は、都道府県に事業者指定を受ける必要があります。また、特別支援学校も主に都道府県の管轄なので、都道府県単位での広域のつながりが重要になってきます。
 市区町村単位では保護者の会が立ち上がりつつありますが、広域なつながりをつくるのは親御さんだけでは大変です。保護者同士がゆるやかにつながる活動が、都道府県単位で根づいていくことを目指したいです。

お寺が地域の「結び目」となり、医療的ケア児を包んでほしい

- お寺にはどのような期待をかけられていますか?

 お寺は地域コミュニティの基盤を作ってきた場所だと考えています。お寺が日常的な交流の場として、地域の「結び目」になってほしいです。

 例えば、学校だけでは十分にフォローできない、こんなことがあります。
 医療的ケア児が就学前に近くの施設で療育を受けられたとしても、地域の小学校では受け入れが難しいケースが多いため、遠くの特別支援学校に通い、そこで地域から分断されてしまいます。
 18歳で学校を卒業して地元に帰ってきた時、地域のつながりがないのにその地域で社会人として頑張りなさいと言われても、不可能でしょう。

 こうした問題に対して、「学校は違うけど、あのお寺に行くといろんな子どもたちと交流できる」という、地域の「結び目」としてのお寺の機能に期待しています。地域の同年代や違う世代とのネットワークが自然にできると、地域の中に居場所ができますよね。周りの子どもたちと同じ保育園や幼稚園に通って社会性を育み、近くの小中高に通えることは理想ですが、簡単には実現できません。お寺が子どもたちにとって楽しい地域のアミューズメントゾーンとして、補完的な役割を果たしてくれると良いなと思います。

- お寺には地域とのさまざまなご縁がありますし。

 障害者向けの施設を立ち上げる時も「自分たちにとって損か得か」という反応が地域の中で出てくることがあります。反対運動が、あたかも地域を守るための正義のように表れてきたりもします。地域に密着したネットワークを持つお寺という存在が関わることで、こうした反応を和らげてくれるとありがたいです。

 同じ空間でも、やはりお寺は公民館や集会所とは違いますよね。拠りどころにしたいという無意識の市民感覚、精神面を含めた公共性がお寺にはあると思います。もし障害を持つ人を排除するような動きが出てきたとしても、それらをお寺が柔らかく包みこんでほしいです。

インタビューは感応寺(東京都世田谷区)にて実施。中央が内多さん、右が感応寺の成田住職

喜びにあふれる仕事。これからの10年を邁進したい

- いまのお仕事のやりがいはどのようなところでしょうか?

 私は介護福祉士やヘルパーでもないので、子どもへの直接的なケアができるわけではありません。でも、目の前で親御さんがとても喜んでくれるのです。
 NHKでアナウンサーをしていた時もお便りをもらったことはありましたが、今は目の前でダイレクトに、それはそれは幸せそうに親御さんが喜んでこう言ってくれるのです。「この施設を待っていました」と。それが何よりうれしいですね。

 それに、小児在宅医療に命をかけておられる医師や看護師が日本各地にいらっしゃいますが、正直、本当にかっこいいんです。子どもたちにとってのヒーローですよ。そういう方々と仕事ができるという喜びもあります。

 私はこの事業を広げていくことが間違っていないと確信しています。
 そのためにも、専門的なケアができない私の役割は、視野や人脈を広げていくことだと強く思っています。小児在宅医療の研究会に呼んでもらったり、厚労省の調査会の委員にも選んでいただきました。キャリアは短いですが、現場の人間は重宝されるので、現場に関わりつづけることで存在意義を見出していきたいです。
 もう60歳が近いので、これからの10年間をさらに邁進していきます。

- 最後にメッセージをお願いします

 医療的ケアが必要な子どもはこれからも増えていきます。家族の願いは地域で安心して笑顔で暮らしたいということです。障害があろうがなかろうが願いは一緒でしょう。そのためにも地域の人と交流できる場が必要です。交流する中で、「今度手伝いましょうか」「手伝ってもらえませんか」というやり取りがはじまります。
 ちょっとしたことから地域の安心感は芽生えてくるものです。そういう自然な交流が各地域で生まれるためには、まず具体的な「場」が必要です。その機能を、お寺が果たしてくださるとありがたいです。

 お寺は善意が宿り、優しさが凝縮した場だと思います。お寺が地域の優しさを育む場であってほしいです。子どもが集える場所には、大人も集まります。そうやって、自然と日常的に交流の場ができていくはずです。お寺が、ご先祖さまとともに子どもたちのことも大切にする場であってほしいですね。

- 本日はありがとうございました。

お寺画像
東京都世田谷区
もみじの家
重い病気を持つ子どもとその家族が安心して暮らせる社会を目指して

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井出悦郎

井出悦郎

1979年生まれ、東京育ち。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、一般社団法人お寺の未来を創業。同社代表理事を務める

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