ままに聴き、ままに書き、毎月お届けする“ごえんびと”インタビュー(松村妙仁・壽徳寺住職)
2022.10.14
松村 妙仁(まつむら みょうにん)
大学進学で上京。卒業後、音楽教室運営やコンサート・イベント企画運営会社に就職。 先代住職であった父の死や東日本大震災をきっかけに、福島に戻ることを決意し、仏門へ。 2015年11月、壽徳寺住職拝命。
お寺はご縁の交差点
壽徳寺では、毎月8日、お寺のホームページにWEB寺報を配信しています。コロナ以前は、音楽イベントや終活セミナーなど、さまざまな催し物を行ってきました。ところが、コロナ以降、お寺での行事を積極的に行うことができなくなり、それでも、スマホやパソコンで気軽にお寺とつながれるよう、WEB寺報の配信を始めました。
毎月8日は、ご本尊である薬師如来さまのご縁日。「縁日」と聞くと、お祭りを思い出す人も多いと思いますが、本来は、仏さまとのつながりが最も深まる日のことです。このご縁日にお寺の会報を発行し、WEB寺報を発信し続けることで、お参りが叶わなくともご縁を結んでいただける。そんな想いから毎月の配信を続けています。
この会報では住職のミニコラムや行事案内などを掲載し、その中でも特に力を入れているのが「ごえんびと」というインタビュー記事です。ご縁を大事にするというテーマを掲げている壽徳寺が、お寺とご縁を結んで下さった方々(”ごえんびと”として名称)にインタビューしています。
これまでご登場いただいたのは、すべて壽徳寺や住職と何らかのご縁のある方ばかりです。ヨガ講師、アーティスト、永代供養墓のプロデューサー、地域の社会福祉活動に尽力されている方など多種多彩。
お寺は実にたくさんの方々に支えられた、まさに「ご縁の交差点」です。お寺に集う方々がどんな思いを持たれているかを、私自身もインタビューの中で初めて知ることも多いですし、それをみなさんにもシェアすることで、お寺への関心や興味も深まり、より多くのご縁が交われば嬉しいなと思っています。
ままに聴いて、ままに書いて、お届けする
この”ごえんびと”をはじめたきっかけは、コロナに加えて、グリーフケアや対人援助の手法などを学ぶ中で、対話の大切さを改めて感じたからです。私自身、実は身の上話を誰かに話すことを非常に苦手としているのですが、相手の話を聴き、その場を共にすることが、自分自身の安心につながることを実感してからは、対話の機会を大切にしています。
その中で特に意識して心がけているのが、「ままに聴く」「ままに書く」というスタンス。ある程度質問したいことはメモをとって準備しておくものの、お相手の方にはインタビューと肩肘張らず、まずは「おしゃべり」感覚で自由に話してもらいます。そして、お話に込められた想いを深いところで受け止めた上で、その方の発した一言一言を、ままに書きます。記事として読みやすいよう体裁こそ整えますが、表現や解釈を変えることは極力控え、その方の想いがそのまま伝わるように、お話しされたとおりに書いていくことを心がけています。
2人の対話を音声メディアや動画メディアに乗せて流す方法もありますが、文字として整え、記事に仕立ててお届けすることで、お相手にもひとつの形に残して御礼ができ、読者の方にも想像を膨らませる余地ができ、それぞれの想いが重なるのではないかと考えます。
記事が配信されると、「ここまで深く、長く書いて紹介してくれる機会は他にない」とお相手の方から喜びの声もいただきます。ご自身のSNSなどでシェアされ、その取り組みや想いが多くの方に届き、私の知らないところでもお寺からのご縁が広がっていきます。有難いことです。
今年(2022年)の6月号では、宮城県亘理町の助産師・鴫原さとこさんのインタビューが掲載されています。仙台グリーフケア研究会の講座でご一緒してからのご縁です。
鴫原さんは、ご自身でNPO法人を立ち上げられ、誰でも無料で医療や介護の相談ができる「暮らしの保健室」や、地域のお年寄りや震災経験者の話を傾聴し、本にまとめる「聞き書き」の活動をされています。“ごえんびと”はまさにこの聞き書きにつながる実践だと言えます。
人口が減るからこそ“人交”を大切に
壽徳寺とのご縁がきっかけで、輪がさらに広がるのは、本当にありがたいことです。また、私自身も、ちょっとした困りごとを相談できる「暮らしの保健室」の実施や、“ごえんびと”で始めている聞き書きを、お檀家さんに向けても行なっていきたいと考えています。記事や本にしなくとも、対話を通して安心感やつながりを感じる場としてのお寺を開いてゆければと思っています。
壽徳寺は限界集落間近の小さなお寺です。人口は減っても人交(人との交流)はより大切になってくると思います。これからは多くの人との交流より、一人一人とのお付き合いを深めることが重視されてゆくのではないでしょうか。「あそこのお寺には素敵な人が関わっている」「いつも大切なことを発信してくれている」と、お檀家さんや初縁の方々に思ってもらえるよう、これからもご縁を大切にひとつひとつ丁寧に取り組んでいきたいです。