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お遍路の始まり。いざ、一番札所・霊山寺へ(長谷寺住職・岡澤慶澄)【けいちょうの徒然お遍路記(5)】

2021.06.07

岡澤慶澄(おかざわけいちょう)

昭和42年長野県生まれ。平成4年、真言宗智山派総本山智積院智山専修学院卒業。平成19年より長谷寺住職。本尊十一面観音の本願である慈悲心を、「いのり・まなび・であい」というキーワードに活動している。

長谷寺寺院ページ

前回(阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件。平成7年の遍路道にただよう影)はこちら

始まりの寺、霊山寺へ

 フェリーから降りて、私たちは港のバス乗り場から徳島行きに乗りこみました。確か高速道路の鳴門のバス停で降り、そこからタクシーに乗って一番札所を目指しました。夕暮れも近づいていたので、明るいうちに一番霊山寺 りようぜんじの門前にある民宿阿波あわに入ることにしたのです。

 「歌は世につれ世は歌につれ」と言われるように、遍路もまた時代の姿を映し出していて、遍路道を歩く人が増える時代と減る時代というのがあるとか。私が歩いた当時は、歩き遍路をする人が減っているとよく聞きました。一番の門前宿、老舗の民宿阿波さんは、長年お遍路さんを迎えています。きっと色々な思いの人々を迎えては送り出しているのでしょう。宿帳に名前を書くと、宿のおじさんが、明るいうちに一番さんにお参りに行ってくるといいよ、というので、正式な八十八ケ所巡りの参詣は翌朝として、ひとまず一番札所に行って先ずはお大師さまにご挨拶を申し上げ、境内のお遍路さんの雰囲気を感じてみようと、友人とともに夕暮れ迫る霊山寺に行きました。

一番札所・霊山寺の立派な多宝塔

 霊山寺さんは、電話をかけると「はーい、一番でーす」と応じられます。電話番号の下4桁も「1111」で、始まりの寺にふさわしく、この遍路の旅に強い思いをもって全国から集まってくる人々をオープンな雰囲気で迎えています。中には悲壮な思いの人もあるでしょうし、深刻な願掛けでやってくる人も少なくないはずです。しかし、おしなべて、誰彼のへだてなく普通に迎えている感じに安心しました。

 今ではあるかどうか知りませんが、このお寺には当時、歩き遍路をする人が氏名や出発日を記帳するノートがありました。私は何となく書きませんでしたが、そのノートによると、当時は年間に約800人の人がこの発願の寺から遍路道へと旅立っていたそうです。
 しかしその全員が、全行程を歩き切るわけではなく、途中で挫折したり、けがや病気でリタイヤしたり、中には「区切り打ち」または「一国打ち」と言って、四国の阿波一国の寺巡りをして帰る人もあります。その場合は、次回に続きの札所寺院からスタートするわけです。
 そんなわけで、800人の歩き遍路も、実際に歩きとおす人は、その数字よりも少なかったのではないかと思います。大体、毎日、2~3人が一番札所から旅立っていく計算になるわけで、その後旅を続けて気がつきましたが、自分の前と後ろ、半日くらいの差で遍路姿の人がいるのが分かりました。

 現在はどれくらいの人が歩いているのでしょう。ネットで見つけた平成14年のデータでは3千人くらいとのことですが、ちょうど私が歩いた平成8年くらいから増え始めたそうです。遍路も世につれ、なのでしょう。

仏教の都「天竺」と日本をつなぐお寺の山号

インドの霊鷲山。お釈迦さま説法の霊場。

 さて、暮れていく境内を散策し、立派な仁王門から外に出てその門を振り仰ぐと、そこには「竺和山 じくわざん」と山号を記した額が掲げられていました。お寺では、この山号の由来を伝える弘法大師の伝説を伝えていますが、この天竺と大和、つまり仏法の都であるインドと日本とをひとつにつなぐという名前には、弘法大師が目指した仏道の世界が現わされているように思われます。

 すなわち、この一番札所の門の向こうに広がっているのは、お釈迦さまが開いた智慧の世界であり、始まりの寺がそれを高々と掲げているのは、遍路の道もまた、はるかな時空を超えて、お釈迦さまの説法の場へと通じるものであると宣べているのでしょう。霊山寺の霊山とは、ほかならぬお釈迦さま説法の霊峰、霊鷲山りようじゆせんであり、寺の本尊ももちろん釈迦如来しやかによらいです。遍路の始まりの寺は、仏教の始まりの場とシンクロしながら、私たちの心にも「ここから始まる」と告げてきます。

※次の記事(1200キロの遍路道。不安とともに一歩を踏み出す)に続く

お寺画像
長野県長野市
金峯山 長谷寺
日本三所 長谷観世音霊場

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