【お坊さんの書棚③】自立することは依存すること?『生きる技法』安冨歩 著(西念寺・正木耕太郎住職)
2020.05.12
正木耕太郎(まさきこうたろう)
1967年東京生まれ。仏教大学英文科卒業。中学校非常勤講師を経て27歳の時住職拝命。月4回の念仏会、哲学カフェ、各種演奏家によるお寺音楽会、居場所づくり、ひきこもり支援など地域のボランティア活動に参加
理想の自分、ありのままの自分
以前、交通違反の切符を切られてしまったという友人のSNS投稿に、コメントをしました。
私:「私も小さな違反が無くならず3年毎の違反者講習を欠かさず受けさせていただいてます(^^)」
友人:「そんなイメージじゃないのに」
友人からの返信コメントに、「僧侶」という職業・生き方に対して世間の人が持つイメージが表れていると感じました。私も、僧侶としてこうあるべきということは分かっているつもりなのですが、失敗や怠りが日々あります。なるべく正しくあろうとしてはいるものの、理想的なイメージと至らない自分との隔たりは埋まりません(汗)。
新型コロナウイルス感染症の影響で、オンラインミーティングが流行っています。先日参加したミーティングで、つい僧侶としての自分と本当の自分が一致しないことについて話してしまいました。その場は主催者の思いもあり、それぞれが思いを語り、各々感想を述べるという静かな空気感があり、参加した全員が「ありのままの自分を話せる場のありがたさ」を感じたと一様に口にしていました。
もちろん私も同じように感じました。みんなが同じように苦境に追いやられている今、助けを求めることは決して恥ずかしいことではなく、互いに話を聞きあえる仲間、声をかけあえる関係は得難いものだと思います。
自立することは依存すること?
そこで今回、『生きる技法』という本をご紹介します。
著者は悩んだ末「自立することは依存すること」というこれまでにない理論にたどり着きました。周りに頼らず生きていくことを自立とするこれまでの常識をひっくり返すこの考え方や、貨幣、友人などについても思い切った見方が述べられていて、興味深い内容になっています。
そして、著者は「ここに書かれていることは、みなさんの人生のお役に立つものと信じます」としながらも、「とはいえ、これが正しいかどうか、私には確信が持てません。どうぞここに書かれていることを鵜呑みになさらないでください」と、本書に書かれている技法を採用するかどうかは読者にゆだねています。他人に何かを押しつけることなく、真摯に謙虚に人生を歩まれてきた著者のまなざしを感じます。
コロナ後の世界について今は予測できないことも多いですよね。しかし、「お互い様」の考え方が必要なことは確かです。
「自立することは依存すること」の実践研究は、まだ始まったばかりだと著者は言います。まずは、日常の中で私なりにこの実践研究に挑戦してみようと思っています。その挑戦が、また誰かのヒントになってくれればといいと願いながら。