子ども食堂は地域みんなの居場所づくり(浄光寺 住職・石本龍憲 坊守・石本三恵)
2025.06.18
「お寺が、地域の子どもたちの心の拠りどころになれたら」——そんな願いから、三重県桑名市の浄光寺(浄土真宗本願寺派)では、2019年より子ども食堂がスタートしました。
毎回80名近くの参加者を集める浄光寺の子ども食堂を支えるのは、住職の石本龍憲さんと、坊守(浄土真宗の寺院で住職と協働して運営する役割)の石本三恵さん。地域に根ざした活動の裏側には、ふたりの温かいまなざしと、多くの仲間たちの協力がありました。

石本龍憲(いしもとりゅうけん)
昭和29年熊本県に生まれる。龍谷大学卒業後、西本願寺に20年奉職。平成10年に家族で浄光寺に入寺。平成24年浄光寺第14代住職に就任。キッズサンガ中央アドバイザーを歴任、本願寺派布教使。

石本三恵(いしもとみつえ)
京都で小学校教員を16年間勤めた後、住職・子ども3人と共に入寺。地域の学童保育所の運営に携わっている。下の子が高3の時に犬を飼うことを強く勧められ、その後彼はめでたく一人暮らしへ。今は2代目シーズーを看取ることを目標に健康管理に努めている。
子ども食堂から得られた気づきについて、石本住職が語ります。
地域の子どもたちの居場所づくり
浄光寺の子ども食堂の始まりは、坊守が学童保育所の仲間たちと交わした何気ない会話がきっかけでした。
「最近学童を辞めてしまった子がいて、心配」
「そもそも、学童に来られない子どもたちだっているはず」
「そういう子でも、気軽に来られる居場所が作れたらいいね」
——そんな想いが重なり、「それなら子ども食堂をやってみよう」「だったら、うちのお寺を使いましょう」という自然な流れで、浄光寺の子ども食堂が生まれたのです。
第1回の開催では、地域の子どもたちや高齢者も含めて41人もの人たちが参加してくれました。
というのも、浄光寺ではもともと月2回のペースで「お寺の子ども会」を開いていたこともあり、すでにお寺に子どもたちが集まる土壌ができていました。
子ども食堂を始めてまもなくすると、新型コロナ禍になってしまい、1年ほどお休みしなければなりませんでした。しかし、再開後もすぐにたくさんの人が参加してくれて、いまでは毎月80名近くが集まる、浄光寺の大切な行事となっています。


子ども食堂を支えるスタッフたち
子ども食堂は、住職と坊守のふたりだけではできません。
学童保育所の仲間や、ご門徒さんたちをはじめとしたスタッフ総勢13名が力を合わせるからこそ、継続して開催できています。
<浄光寺のシェフ 伊藤さん>
その中心にいるのが、料理を得意とする浄光寺の”シェフ”・伊藤さんです。
子ども食堂の定番メニューといえば、やっぱりカレーです。好き嫌いが少なく、大量調理にも向いていて、人の増減にも対応できる万能メニューです。
しかし、伊藤さんのいる浄光寺の子ども食堂は一味違います。毎回3品~4品の献立が並び、しかもその内容は毎月ガラリと変わります。
開催の数日前になると、伊藤さんと坊守が、今月の予算と冷蔵庫の中身をにらめっこ。使える食材をもとにレシピを考案。
当日は、まず午前中に伊藤さんが必要な材料を買い出し、午後2時に厨房にスタッフメンバーが揃うと早速ミーティング。伊藤さんがこの日の献立を伝えると、あとは手慣れた主婦たちのチームワークで、手際よく彩り豊かなメニューが着々と仕上がっていきます。

<総代・後藤さんによるミニ法話>
調理の合間、私たちスタッフが欠かさず行っている大切な習慣があります。
それが、本堂でのお勤めと法話です。
スタッフ全員で本堂に集まり、まずは私が先導してお経を読みます。続いて、その日のテーマに合わせた法話をお話しします。
そしてこの法話を、夕方からやってくる子どもたちに向けて、わかりやすく語り直してくれるのが、門徒総代の後藤さんです。
たとえば、お参りに来た子の中には、大キン(本堂に置かれた大きなおりん)を思わずたたいてしまう子もいます。そんな時、後藤さんはにこやかに「たたいたら、お経を唱えないといけないよ」と声をかけながら、大キンの意味や使い方をやさしく教えてくれます。
また大人の方にはもう少しくわしく「キンは、仏さまを呼ぶためのものではなく、お経を唱えるときの合図で、始めに2回、途中が1回、最後が3回と決まりがある。だから、合掌・礼拝だけの時には、キンはたたきません。お家の仏壇でも同じです」と、より丁寧に説明して下さいます。
こうした後藤さんのミニ法話は、子どもたちにも人気です。
「今日はどんなお話してくれるん?」と声をかけてくれる子も多く、子どもたちは時間をずらしてやって来るため、後藤さんは同じ話を10回以上くり返すこともしばしばです。

本堂で手を合わせ、笑顔で食卓を囲む
夕方5時。いよいよ子どもたちがやって来ます。
子どもたちは、まず本堂に向かい、仏さまに合掌礼拝。そして、本堂で待ち構える後藤さんによるミニ法話。
お参りと法話が済むと、子どもたちは庫裏に移動し、テーブルに並ぶのは心待ちにしていた今月のごちそう。「食前のことば」を唱えてから、大きな声で「いただきます!」
いつもとはちょっと違った非日常空間でのおいしい晩ごはんに、思わず頬もほころびます。



子どもたちは、その日ふるまわれるごはんに加えて、その後の遊びを楽しみにしているようです。
鬼ごっこ、お絵かき、ボードゲーム、おのおの自由に遊びます。夜にお寺で友だちと遊べる——彼らにとってはそれ自体が特別な体験なのでしょう。
早く来た子が遊んでいるうちに、2部、3部と、次の時間帯の子たちが来て、時間が経つごとにお寺には人があふれかえり、19時をまわるころには、総勢80名近くの子どもや大人たちであふれかえります。



「居場所」としてのお寺
子ども食堂というと、貧困支援の側面ばかりが注目されがちですが、私や坊守も、子ども食堂を「地域みんなの居場所づくり」として捉えています。
友だちと来る子も、親御さんと来る子も、さらには保護者や運営スタッフの大人たちも、みんながお寺に居場所を感じてくれたら、嬉しく思います。
子どもたちの笑顔、大人たちの充実感、地域のつながり——そうしたすべてが合わさって、「おてらこども食堂」ができあがっているのではないでしょうか。
坊守とも常々、「お寺を誰でも気軽に来られる場所にしたいね」「お寺への親しみが、仏さまとのご縁になればいいね」と話しています。
仏さまの前で手を合わせ、あたたかいごはんを囲み、そして無邪気な遊びや会話——そんな穏やかな時間が、お寺を地域の“心の居場所”へと変えてくれているのだと思います。
