お坊さんが中学2年生に語る。「失敗への向き合い方」とは(最明寺住職・加藤宥教)
2021.05.06
加藤 宥教 (かとうゆうきょう)
1978年福岡県生まれ。九州大学工学部卒。自動車メーカー在籍時はV6エンジンの開発を担当。在家の身であったが結婚を機に出家。スパナを数珠に持ち替えて修行。2011年より最明寺住職。「こころが豊かになるお寺」をモットーに、「お寺の活性化」、「時代にあった供養」に取り組んでいる。
令和3年3月2日。受験を控える中学2年生たちの前で「人生について考える」というテーマでお話しする機会をいただきました。お邪魔したのは川崎市立向丘中学校。旧友が教員をしており、例年は校外で行っている職業体験などの総合学習がコロナ禍で実施できない為、講話の授業になったということでした。
中学生から寄せられた質問。「失敗」への不安が見えた
講話の前に、生徒さんには「まいてら新聞」に掲載されている私に関する記事を読んでいただき、事前に質問を抽出して下さっていました。おかげで私も今の中学生がどんなことに悩んでいるのかを把握した上で講話に臨むことができました。
質問を見てみますと、1年後に受験を控えている生徒さんにとってやはり成績や進路が気になるようです。また受験に限らず「失敗」への不安、それによって挑戦することに躊躇してしまう子がいるという点が印象に残りました。
これらをもとに「失敗への向き合い方」「自動車の技術者としての職業体験」そしてもっとも質問の多かった「自動車の技術者を辞めてどうしてお坊さんになったのか?なれたのか?」の3点を中心に資料を作成することに。久しぶりのパワーポイントとの格闘です。
資料作りは振り返りの機会。色々な失敗体験を思い出す
資料作りは自身の振り返りの機会にもなりました。そこで思い出されるのは成功体験よりも失敗体験。生徒さんからの質問を見ながら「自分だってそうだったよな」と、不安や失敗を恐れていた時期、悔しかったことや辛かった時の記憶がいろいろとよみがえります。
そんな時にどう困難と向き合ってきたのか、パワーポイントの画面を前に次のようなことに自分自身が気づかされました。
- 人生は決断の連続。岐路は急にやってきて、どちらが正しいなんて判断できない。重大な局面では見切り発車するしかない。
- 大切なのは、どちらを選んだかではなく、選んだ先で最善を尽くすこと。
- 努力する姿勢こそが尊い行いであり、本気のやる気が人の心を動かして縁を築いていく。
そして会社員時代の上司が授けてくれた魂の言葉「お前の正義は何なんだ」。生徒さんたちにも自分の中の嘘偽りのない正義感のもと、失敗を恐れずに堂々と人生を歩んでほしいと思いながら、約35分間、体育館でお話しさせていただきました。
生徒たちから寄せられた感想
お坊さんの話なんてちゃんと聞いてくれるのかなと思っていましたが、大変熱心に聞いてくれて、あっという間に時間が過ぎて行きました。後日、生徒さんから次のような感想をいただきました。
「大切なのはどちらを選んだかではなく、与えられた場所で最善を尽くすという言葉が印象に残った」
「先生とは違った角度で受験や失敗について話をしてくれて見方が変わった」
「お坊さんの話なのでもっと堅苦しいかと思ったが、面白く話してくれて聞きやすかった」
「失敗は人から決められるものだと思っていたが、決めているのは自分なのだと思った」
こうした感想をいただくと、多少なりとも生徒さんたちの力になれたことを嬉しく思いますし、私の方こそ一歩を踏み出して決断する勇気をいただいた気がします。
今回ご縁をいただきました川崎市立向丘中学校の先生方、2年生のみなさん、貴重な機会をいただきましたこと、誠にありがとうございました。この場をお借りしまして御礼申し上げます。
※生徒さんも読まれた加藤さんのインタビュー記事はこちら。日産自動車を退社し、お坊さんになるまでの経緯を語っています。