戒名って面白い! - 「100人で考える生前戒名ワークショップ」レポ(死生観光家・陸奥賢さん)
2019.10.15
2019年9月30日、大阪の應典院で開催された第2回「おてら終活祭」。その中で、「史上初!? 100人で考える、戒名戒名って何だろう?」というプログラムが行われました。
(参考:【あなたとお寺を結ぶ、一日丸ごと終活祭】第2回おてら終活祭@應典院)
宗派を超え、僧俗入り混じった100名を超える方々が集う場が設けられたのは、おそらく日本初です。当日の盛り上がりや、得られた気づきについて、「死生観光家」をはじめ様々な肩書きを持つ陸奥賢さんによるレポート形式でお伝えします。
陸奥賢(むつさとし)
死生観光家/コモンズ・デザイナー/社会実験者。1978年大阪生まれ。ライター、放送作家、リサーチャーなどを経験後、2008年10月から2013年1月まで大阪あそ歩(観光庁長官表彰受賞)プロデューサーとして活動。現在は「大阪七墓巡り復活プロジェクト」「まわしよみ新聞」「直観讀みブックマーカー」「当事者研究スゴロク」「歌垣風呂」「劇札」等を主宰。應典院寺町倶楽部専門委員。著書に『まわしよみ新聞のすゝめ』
参加者の熱量がすごい
当日は月曜日の昼間にもかかわらず、100名を超える参加者が集まって、改めて終活についての世間の皆さん(ほとんど高齢者、シニア層でしたが)の関心の高さにまず驚きました。
プログラムは二段構成で、前半は「お坊さんぶっちゃけトーク あなたの知らない戒名の世界」、後半は「お坊さんと考える戒名グループワークショップ」。一般社団法人お寺の未来代表理事の井出悦郎さんが進行役を務めました。
前半の「ぶっちゃけトーク」は、まず井出さんから会場の参加者に対して、戒名にまつわる簡単な〇×クイズが出されました。タレントや歴史上の人物の戒名がスライドで提示され「これは誰の戒名でしょう?」と当てるといったもので、美空ひばり、石原裕次郎、樹木希林、三島由紀夫、武田信玄などの戒名が紹介されました。日本でいちばん長い戒名は徳川家康の「安国院殿徳蓮社崇誉道和大居士」である、などのマニアックな戒名トリビア(?)が披露されて楽しい時間でした。
その後、井出さんと檀上のお坊さんたちとのクロストークが始まりました。井出さんから「戒名のお布施はもらってますか?」といった素朴な質問が投げかけられ、真言宗、日蓮宗、浄土真宗、浄土宗の各宗派のお坊さんが、その質問にお答えしたり、戒名にまつわる様々なエピソードをお話されました。
僕はいま41歳ですが、正直なところ、人生でただの一度も戒名について深く考えたことなどありませんでした。亡くなった自分の祖父や祖母の戒名も知らない……と、戒名にまったく興味関心がなかった自分を発見して、ボーッとトークを聞いていたのですが、参加者のみなさんは熱心にうなずいたり、メモを取ったり。その熱量にちょっと驚きました。
生前戒名で、パーソナリティや人生観をズバッと言い当てられる
「戒名とは何か?」ということが僕自身はいまいち腑に落ちないままに、クロストークは終了。休憩時間をはさみ、後半の「生前戒名ワークショップ」が始まりました。
これは参加者を5、6人ずつ17組のグループに分けて、グループごとにお坊さんが加わり、みんなで生前戒名を考えてみようというものです。僕は大阪・玉造 の興徳寺(高野山真言宗)の青木隆興住職のグループに入りました。他4人の参加者は、介護系の仕事をしているという50代女性、元公務員の70代男性、町工場で働いていたという70代男性、元呉服屋という80代男性。終活に興味・関心がある方ばかりで、戒名に対して悩んでいたり、相談したいというのでみなさん今日のプログラムに参加されたそうです。
いざ生前戒名を考えるに当たっては、「自分はどんな性格?」「好きなことや趣味は?」「座右の銘は?」「仕事での思い出や実績は?」といった項目が並んだ簡単な質問シートが配付されました。要するに、自分の人生の来し方を振り返るような質問が並んでいて、これに書きこむことで、自分という人間のパーソナリティを言語化(見える化)し、そこからその自分にふさわしい戒名の一字をお坊さんが考えて、自分でも考えてみよう、というものでした。
ぼくは自分の性格を「楽天家」だとか、仕事は「観光の仕事をしてますが、あちらこちら、フラフラしてます」といった説明をしました。その話を聞いた青木住職が、生前戒名としてこんな字はどうでしょうか? と提示してくださったのは「游」という漢字でした。「遊」ではなくて「游」です。「遊」はまだ地に足がついているのですが、「游」となると、地面からも足が浮いていて、より軽やかに、自由自在に動き回っているという様だそうです。確かにそうかもしれない……と、自分のパーソナリティや人生観をズバッと言い当てられたような気がしました。褒められてるのか貶されているのか、ちょっと複雑な思いもいだきましたが(笑)。
ちなみに介護職の女性は「厚」、元公務員さんは「法」、元町工場の方は「徹」、元呉服屋さんは「利」の戒名を提案されていました。私見ですが、みなさんのキャラクターを見事に表現しているように感じて、さすがプロは違う……と、青木住職の戒名センスに感服しました。こうして参加者全員に青木住職が生前戒名を提示したところでちょうどお開きの時間になり、プログラムは無事に終了しました。
戒名はお坊さんによる「もうひとりの自分」の発見?
参加してみて、戒名というのは一種の「名づけ」であり、「見立て」のようなものだと感じました。お坊さん(他者)による「もうひとりの自分」の発見。
世の中には、戒名に懐疑的な人も多いそうですが(そういう自分も戒名をそもそもよくわかっていなかったのですが……)、この「生前戒名ワークショップ」は、そういう人ほど経験するべきではないかと思いました。自分の新しい一面(他者性)を知る喜びや、面白味を感じましたから。
また、自分の亡き祖父や亡き祖母の戒名を調べてみようとも思いました。自分の知っている思い出の中の祖父や祖母とは違う一面が、お坊さんがつけてくれた戒名から見えてくるかもしれません。それは死者と生者との出会い直しでもあり、死を超えた物語のはじまりになるのでは……と、期待しています。