読み聞かせの力。まいてら新聞から生まれた絵本『こころのたねをまいて』(龍泰寺住職・宮本覚道)
2025.08.25
幼稚園の園長先生でありながら、パワーリフティングや法話グランプリにも全力投球。そんな宮本覚道さん(龍泰寺・岐阜県)に届いた思いがけない電話。なんと、この『まいてら新聞』をきっかけに、一冊の絵本が生まれました。
絵本ができるまでの経緯と、絵本の読み聞かせの可能性について、宮本住職にお話しいただきました。

宮本 覚道(みやもと かくどう)
1978年生まれ。慶應大学卒業、駒澤大学大学院修了後、永平寺・總持寺の両本山で修行。龍泰寺住職。あかつき幼稚園園長。現役のパワーリフティング選手でアジアチャンピオン&日本記録保持者にも。東海管区センター布教師。保護司。認定心理士。
「まいてら新聞を見ました」という電話
こんにちは、宮本覚道です。
今から2年前、『まいてら』にコラムをひとつ寄せさせていただきました。内容はというと…
お寺の住職でありながら、幼稚園の園長として日々子どもたちに囲まれながら過ごす日常。さらに、パワーリフティングに励んだり、「男梅顔天下一決定戦」や「H1法話グランプリ」に挑戦したりと、夢や目標に向かっている“いまこの瞬間”こそが、いちばん楽しくて、いちばん輝いているんじゃないか。
…そんなお話でした。
※宮本さんのまいてら記事『「園長先生は世界一の力持ちに!」夢を追う姿を園児に見せ続ける』
ありがたいことに、コラム掲載の2週間後に出場した『H1法話グランプリ2023』では、審査員特別賞までいただき、そこからいろんなご縁が生まれました。
ある日、龍泰寺が運営する「あかつき幼稚園」に、一本の電話がかかってきました。
「宮本さまの『まいてら新聞』を拝見して、ぜひ絵本にできたらと思いまして…」
電話の主は、とある出版社の方。ご担当者の方は、これまでたくさんの子ども向け絵本を世に送り出してきた、絵本づくりのプロです。
『まいてら新聞』の記事を読んで下さり、「夢を語ることがはばかれてしまう息苦しい世の中で、夢に向かって毎日実践している姿を園児たちに見せ続けていることに感銘を受けた」とのお言葉をいただきました。
「こうした熱い想いを持った人となら、いい絵本ができ、子育てに活かせるかもしれない」と思い、絵本の制作が本格的に動き出したのです。
構想が始まったのは2024年の年末。そして、わずか半年後の今年6月に初版が刊行され、日本全国の書店やAmazonに、約5千部が並ぶことになりました。

誰の中にもある「こころのたね」に気づく絵本
絵本のタイトルは、『こころのたねをまいて』。
主人公の“しんくん”を中心に、誰の中にもある「4つのたね」の大切さを描いています。
4つのたねとは…
「かんしゃのたね」
「ささえのたね」
「つながりのたね」
「やりぬくたね」
これらのたねを育てることで、やがて大きな花が咲き、その花からまた誰かの心にたねがまかれていく。
仏教では、このたねのことを「仏性」と呼んでいます。
仏性とは、だれの中にも備わっている「仏さまになれる可能性」のこと。だれもが、やさしくて強い仏さまになれるんです。
まわりへの感謝、支えあい、つながり、そしてやりぬく力を持つことで、この仏性がまわりに広がり、やがて大きく循環し、幸せとなって私のもとに還ってくる。
そんなイメージを、子どもたちにもわかるように、優しく、そして易しく表現。読み聞かせを通じて、仏教の教えにもつなげられるように、随所に工夫を込めています。

読み聞かせの力
このたびの絵本制作を通じて、私は絵本の一番の魅力は、「読み聞かせ」という文化ではないかと思うようになりました。
ただ読むだけでなく、だれかがだれかのために声に出して読み、そのことばを受け止める。そんな時間こそが、絵本のいちばんの魅力なんだと思うんです。
子どもたちに読み聞かせをするとき、こんなことってよくありますよね。
物語の途中でちょっと話を止めて、「あれ?これって昨日の〇〇くんみたいだね」とか、「お母さんも、こんなことあったよ」なんて、会話が生まれる。
そうやって一冊の絵本が、その子自身の体験とつながり、そこに会話や共感が生まれる。絵本の物語が本の中で完結するのではなく、現実の世界に飛び出し、交わっていく。
だからこそ、絵本にはたくさんの「余白」があります。伝えたいことばを、削いで削いで削ぎ落す作業は、ものすごく大変でしたが、それによって生まれた余白があるからこそ、読む人のことばが加わり、聴く人の心が動き、そこに対話や共感が生まれるのだと感じています。
私はこの絵本を、幼稚園での保育はもちろん、法事の法話でも使っています。しんくんの物語は、子どもにも、大人にも、聴く人にあわせて大きくふくらませていけるんです。
だれもが読める簡単な絵本です。それはつまり、だれにもあてはまる共感できる物語でもあります。
絵本という形を借りて、そこに自分自身の物語を重ねてもらえたらと願いながら、これからも、読み聞かせを通じて「こころのたね」をまき続けていきたいと思います。
