「お寺×マルシェ」全国各地で盛り上がる地域とお寺の新しいつながり
2017.12.22
「お寺マルシェ」を知っていますか?
マルシェ(marché)とはフランス語で「市場」を意味し、小規模の露店が一か所に集まって出店するイベントを指します。
野菜やカレー、コーヒー、ジャムなどの食品や、植木、手作りの小物、体験型のワークショップなど、ありとあらゆるものが販売され、ここ数年の間に全国各地で開催されるようになりました。
中でも、近年ではお寺の敷地を利用した「お寺マルシェ」が大きな盛り上がりを見せています。
マルシェの魅力は、開催する地域ごとの特色が表れるところ。
会場の近郊から出店者が集まることが多く、地域で生まれたものを地域の人が売り、地域の人が買うという形ができます。その土地ならではの魅力が集まるため、開催は主要都市に縛られることがありません。それが全国各地でマルシェが盛り上がる理由の一つと言えます。
また、日本には7万ものお寺があるといわれていて、コンビニのない地域にもお寺は存在します。どんな地域でもお寺を舞台にマルシェができる。お寺とマルシェは相性の良い組み合わせなのです。
小規模でかわいい「お寺deマルシェ」@埼玉県草加市 光明寺
今回まいてら編集部は、まいてら登録寺院の埼玉県草加市 光明寺で開催された「お寺deマルシェ」を取材しました。光明寺でのマルシェ開催は初めてとのこと。境内の駐車場を広々と使い、にぎやかに出店者が集います。
かわいいハンドメイドの作品、パン屋さん、キッチンカーでのラテアートなど、埼玉県草加市近郊から十数組が出店。小規模のマルシェですが、出店者と来場者が会話を弾ませ笑い合う、温かい雰囲気に包まれています。
木材を使った工作に打ち込む子どもたち、会場中央の休憩コーナーでパンとコーヒーを味わいながらくつろぐご年配の方々。お墓参りに来た光明寺の檀家さんが車を止め、マルシェをゆっくり見て回る姿もありました。
マルシェを楽しみに足を運んだ人も、たまたま通りかかった人も、子どもからお年寄りまで会場にいたすべての人がそれぞれの形でマルシェを楽しんでいる姿が印象的でした。
誰でも受け入れてくれるお寺はマルシェにぴったりの場所
光明寺では初めての試みであったお寺マルシェ。その企画を持ち込み、主催者としてマルシェを運営したのは、埼玉県在住の恩田繁子さん。マルシェを主催するのは初という恩田さんに、光明寺でマルシェを行うこととなった経緯などをうかがいました。
2015年の秋からいくつかのマルシェに参加し、手作りの小物を販売してきました。お寺でやるマルシェには2017年の春に初めて出店し、お客さんとしても見に行ったことがあります。何度かマルシェ出店の経験を積んでいく内に、さまざまな年代の人に楽しんでもらえるマルシェづくりについて考える様になりました。
そして、とあるマルシェにボランティアで参加した際に、集客や告知の仕方など、マルシェの運営が会場に集まる人たちのニーズとずれていて、もどかしい思いをすることがありました。その時はスタッフとして一生懸命動きましたが、主催者でないのでやりたいことをうまく形にできなかった。自分の思いを表現するには、自分の手でマルシェを運営してみることだと思ったんです。
「出店者の1人」から、「主催者」になろうと思い立った恩田さんがマルシェ開催の場所として選んだのはお寺。自らの思いを実現するためにお寺が選ばれたのはなぜなのでしょうか。
地域のお寺は、遠い昔の時代から地域の人と人をつなぐコミュニティの中心にありました。マルシェもまさに、地域のお店や作家さんたちが一堂に会し、地域の住民と交流する出会いの場です。地域の憩いの場であるお寺だからこそ、人びとが自然と集まり、温かい雰囲気の中でマルシェを開催できるのではないかと思いました。子どもからお年寄りまで誰でも受け入れてくれるお寺はマルシェにぴったりの場所です。
お寺でのマルシェ開催に強い思いを持っていた恩田さん。お寺に詳しい知人に「お寺でマルシェを開催したい」と持ちかけたところ、「実現は難しいのではないか」と難色を示されたといいます。
マルシェ開催のためにクリアしなければならない条件をたくさん指摘されました。まずは、多くの方に来ていただくために会場は広い場所でなければダメ。車で来られる方が多いので駐車場は必須。そして何よりお寺の住職がマルシェに対して理解を示してくれること。おおらかに気持ちを受け入れてくれる住職に出会えなければ開催は不可能であるということでした。
そんな数々の条件を満たしてくれるお寺、それが光明寺でした。2017年1月に光明寺とコンタクトを取り、2月には住職である石上光鏡さんと初めて対面。マルシェ開催の思いを伝えたところ、「すべてお任せします」と言ってくれたといいます。光明寺には広い駐車場があり、バリアフリーでおむつ替え・授乳スペースも完備。子どもからお年寄りに優しい最高のマルシェ会場でした。
開催場所が決定してからはノンストップ。出店者集めや告知など、恩田さんのリーダーシップのもと猛スピードで準備が進んでいきました。
お寺でのマルシェには信頼できるスタッフしか呼びたくなかったので、出店者は素性を知っている人、マルシェの趣旨をわかってくれる人に限定しました。知り合いを通じて紹介してもらった方には、全員自分から会いに行きました。雰囲気を見て合わないと思った方には出店をお願いしません。利益ばかり重視する方がいると、マルシェの和が乱されてしまうこともあるので。
パワフルでフットワークの軽い恩田さんはマルシェの広報においても信頼を重視。地元で行きつけの飲食店へご飯を食べに行き、その場でマルシェの趣旨を説明。丁寧にお伝えした上でお店にマルシェのチラシを置いてもらうという、「顔の見える告知」をして回りました。ときには近隣の町にも宣伝のために足を運び、マルシェ開催の当日は光明寺のある埼玉県草加市の周辺地域からのお客さんも多く来場されていたそうです。
心強い協力者を得て、お寺は役割をさらに発揮する
当日の盛り上がりは先ほど記述したとおり。老若男女がそれぞれの楽しさを過ごす温かいマルシェになりましたが、恩田さんはすでに次回のお寺マルシェをより良いものにしようという意欲にあふれています。
今後もいろんなお寺でマルシェをやりたいと思っています。今回はFacebookとチラシを使った告知をしましたが、お年寄りの方には少し分かりづらかったのではないかと反省しています。全国にお寺マルシェは増えていますが、中でもどんな趣旨によって企画を進めていくのか、しっかりと考えたいと思います。
恩田さんは「信頼関係がなければマルシェは成立しない」と強調します。温かい雰囲気にある心地よい場作りのためなら時間や手間を惜しみません。今回光明寺でマルシェを開催するにあたって、恩田さんはさまざまなお寺の行事に参加しお手伝いをするなど、お寺との関係づくりを大切にしました。お寺という場の力を信じ、人と人との豊かなつながりを喜ぶ。そんな協力者を得て、光明寺は古来の「地域のコミュニティの中心」という役割をさらに活性化させたのです。
お寺と、お寺という場を最大限に活かせる誰かとのまだ見ぬ出会いはたくさんあることと思います。「地域のために力になりたい」と考える人にとって、お寺は大きな可能性を秘めた希望ある場所といえるでしょう。