お寺の掲示板大賞2019「ボーッと生きてもいいんだよ」まいてら賞インタビュー
2019.12.12
今年もSNSを中心に各所で話題となった「輝け!お寺の掲示板大賞2019」。12月5日に大賞をはじめ、今年の各賞が発表されました。さまざまな切り口の言葉にハッとされた方も多かったのではないでしょうか。
まいてら賞は、恩栄寺 (石川県加賀市)の「ボーッと生きてもいいんだよ」に決定しました。今回は、恩栄寺前住職の日下 賢城 さんに、言葉に込めた思いや背景をうかがいました。
ボーッと生きている人も、仏さまは差別しない
「いつも『チコちゃんに叱られ』ていると、なんだか気が滅入ってきていたんです。ボーッとすることなく、常にすべてに気を配り注意し続けて生きるというのも、厳しいのではないかと。そう感じたのが、この言葉を考えたきっかけです」
「親鸞聖人 のご和讃 の中に「賢哲 ・愚夫 もえらばれず豪貴 ・鄙賤 もへだてなし」という言葉が出てきます。阿弥陀仏 という仏さまは、賢い人も愚かな人も、裕福な人も貧しい人も、分けへだてをすることはありません。掲示板を通じて『ボーッと生きている人も、そうでない人も差別することはないという教えがありますよ』ということを伝えたいと思いました。
チコちゃんに叱られたとしても、ときどき『ボーッと生きてもいいんだよ』という言葉を思い出して、楽になってもらえればとてもうれしいです」
言葉が話題になったことで、想定外の反響もあったそうです。
観光地でもある山中温泉の中心部、「ゆげ街道」にお寺があるため、掲示板の写真を撮ったり笑ったりする観光客の姿が多く、「境内 に入ってくる人も、以前より少し増えたように思います」と日下さん。
インターネットを通して反響があり、さらにテレビなどでも取り上げられたことにはとても驚いたと言います。
「今回、受賞したことで、お寺の掲示板がこのように注目されることは大変喜ばしいことだと感じています。しかし一方で、わかりやすい言葉で伝えていくことの努力が必要とされているというのも、痛感しています。ウケることや時流に乗ることだけでは本末転倒になってしまうので気をつけたいですし、今の人たちがよく知っている言葉でありながらも、それを仏教的視野で考えていくことをこれからも大切にしていきたいです」
変化の速い時代だからこそ。時にはお寺の縁側でボーッとしたい
まいてらでは賞の講評として、次のように発表しました。
「変化の速い時代だからこそ、お寺やお坊さんにはこんな言葉をかけてもらいたいと、みんな思っているのではないでしょうか。思わず、お寺の縁側に座って、ボーッとしてみたくなる言葉でした」
お寺なので、凛 とした、背筋が伸びる言葉ももちろん必要でしょう。
一方で、経済優先で、職場や学校でも管理志向が強まり、そしてインターネットの発達でいつも何かとつながってしまう……そんな今の世界では、多くの人が身の丈を超えてすでに「頑張りすぎ」なのではないでしょうか。だからこそ、時にはあらゆるものから解き放たれ、ボーッとしたいという人も少なくないのではと感じます。
思い切って旅行や温泉に行ってみるのもいいでしょう。けれど、たまには身近にある近所のお寺の縁側に座り、仏さまのような陽だまりに包まれてボーッとしてみるのも良いかもしれません。そして、お寺も温かい懐で人々に縁側的な空間を開放していただきたい、そんな願いを込めてこの言葉に「まいてら賞」をお贈りしました。
また来年はどんな言葉が生まれてくるか、楽しみですね。
(参考記事)お寺の縁側で思う。人と人がゆるやかにつながる空間