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「テラウドファンディング」がよみがえらせた350年のご尊像(法華寺住職・庄司真人)

2023.11.24

 法華寺ほつけじ(大阪府・法華宗)では、「テラウドファンディング」と銘打ち、江戸時代から祀られ続けてきた三十番神さんじゆうばんじん像の修復事業を行いました。神仏習合の歴史、仏具職人の技術、お檀家さんの想い。「まるで神仏に引き寄せられるようだった」と、庄司真人住職がその経緯を話します。

庄司真人 (しょうじ しんじん)

平成30年4月、住職就任。関西学院大学文学部・兵庫教育大学大学院卒。公立中学校社会科教師として18年勤務後、退職。現在は臨床心理士、学校心理士、特別支援教育士の資格を持ち、寺務と並行して公立学校カウンセラーとして勤務。僧侶本来の姿勢は、人の悩み、苦しみに寄り添うことであるとの思いから、宗教と心理学の両面から檀信徒の方々に向き合っている。

法華寺寺院ページ

江戸時代から守られ続けてきたご尊像

 580年もの歴史がある法華寺には、境内の東側の鳥居をくぐり、石段を登ると「三十番神」さまをお祀りする「番神堂ばんじんどう」があります。お堂には三十番神さまや鬼子母神さまなどの神々が祀られて、神仏習合のかたちがいまもなお残っています。

 三十番神とは、もとは天台宗を開いた伝教大師最澄でんぎようだいしさいちようが比叡山に祀ったとされ、日本を代表する三十柱の神々が、一ヶ月30日を日替わりで守ってくれるという信仰を指します。
 日々の守りに加え、それぞれの神様がご利益りやくも授けて下さいます。たとえば、7日の北野大明神は学問成就、22日の稲荷大明神は商売繁盛、24日祇園大明神は疫病退散、30日吉備大明神は安産・育児といった具合です。

 三十番神信仰が特に法華宗や日蓮宗でさかんなのは、比叡山で法華経を読誦どくじゆしている日蓮聖人にちれんしようにんの眼前に、三十番神が姿を現したことに由来します。

 法華寺の三十番神さまのご尊像は江戸時代初期のもので、350年もの長い時間、歴代の僧侶やお檀家さんを守ってきてくださいました。しかし御開帳してみると、長い年月が経っているため、あちこちに欠損や黒ずみが見られます。そのおいたわしいお姿が申し訳なく、いつかは修復しなければとの想いを抱きながら、毎朝のお勤めをしてきました。

三十番神
番神堂の中心に三十番神さまが祀られている

三十番神
修復前の三十番神さま

修復のきっかけは「くじ箱」

 ある時、ふとしたきっかけで、蔵の奥に眠る六角形の木でできた箱を見つけました。そこには「御鬮霊感籤おんくじれいかんくじ」と書かれており、おみくじの箱だったことが分かります。

「神社でよく見るおみくじを、お寺でもしていたのだろうか」といろいろと調べていますと、おみくじは「御神籤おみくじ」とも「御仏籤おみくじ」とも書くことが分かり、法華寺が神仏習合のお寺であることを改めて痛感させられました。

蔵の中から見つかったおみくじの箱

 また、これも偶然なのですが、同じ時期に日蓮宗で行われた「三十番神おみくじ」の取り組みを知ります。

 このとき私の中で「神仏習合」「おみくじ」「三十番神」という3つのキーワードがつながりました。三十番神さまへの興味も深まる中で「ぜひともご尊像を修復しよう」という気持ちが起こったのです。それはもう、自分の意志と言うよりは、神仏に導かれているような感覚でした。

お檀家さんの想いを集めた「テラウドファンディング」

 このたびの、三十番神さまの修復は、お檀家さんの寄付に頼らず、どれだけ時間がかかっても自分だけで行おうと思っていましたが、一方で「こんな楽しいことはひとり占めするのではなく、多くの人と共有すべきでは?」という考えも浮かんできました。

 そこで、ご支援のハードルを下げるべく「テラウドファンディング」と銘打って(テラウドには「寺人」という意味もかけあわせて)、チラシ、寺報の号外などを通じて、1口あたり少額のご支援を募ることにしました。
 そうするとなんと、必要としていた金額の倍以上のご寄付が寄せられたのです。そして何よりも、金額の多寡以上に、みなさまからのご尊像への期待、お寺の取り組みに対する理解をいただけたことが何よりもうれしく思いました。

 ご寄付された方の中には「祖父が目を患った時、三十番神さまに拝むことで治ったから」という方や「娘の安産を願って」という方(その後、無事にご出産されました!)、さらには普段あまりお寺付き合いのない方からご連絡を頂くこともありました。三十番神さまがおつなぎしてくださる様々なご縁には感謝しかありません。

仏師と絵師の手仕事で見事によみがえるご尊像

 修復をお願いしたのは、兵庫県にある仏壇・仏具店『素心』さん。

 引取の際には慎重に作業をし、ひとつひとつのご尊像の欠損部分、修復後のイメージ、持ち物、手のかたちや彩色の仕上がりなど、綿密な聞き取りをして下さいました。

 工房での仕事は、顔料や金箔を剥離したのちに、仏師さんが木地を締め直して形を整えます。その後、絵師さんのきめ細かい手仕事で鮮やかな彩色をしていただき、それぞれの持ち物や被り物をしつらえます。

 お預けしたご尊像がお寺に戻ってきたのは約3か月後。美しくよみがえったご尊像のお姿は感動そのものでした。ボロボロになりながらもお寺を守り続けて下さった神々も喜んでくださっているのがこちらにも伝わる想いでした。

三十番神像
修復されて蘇った三十番神像

 その日その日の神さまに毎朝きちんとお経を読み上げ、30日間心を込めて一体ずつお祈りさせていただきました。お檀家さんには法要の時にお披露目しましたが「きれいになりましたね」「ありがたいですね」と、深く手を合わされる方もたくさんおられました。

鬼子母神と十羅刹女像
その後、番神堂に祀られる鬼子母神と十羅刹女像の修復も手がける
鬼子母神と十羅刹女像
修復で蘇った鬼子母神像と十羅刹女像の一部

モノに祈りを込めて取り戻される仏性

 「大事なのは心だ」とよく言われますが、おいたわしいお姿のご尊像が見違えるほどきれいなお姿になって戻って来られますと、祈りの心持も異なってくるものです。

 仏教の教えでは、全ての人の中に、明るく穏やかに暮らしていくための「仏性ぶつしよう」が宿されていると考えます。しかし、日々のさまざまな暮らしや人間関係の中では思い通りにならないことばかりです。イライラしたり、落ち込んだり、怒ってしまったり。
 そんな時こそ、お寺に足を運んでもらい、ご本尊さまや三十番神さまに、心を込めてお祈りしていただきたいものです。毎日大切にお祀りされている仏さまからは、清らかでエネルギーのようなものが出ています。そんな仏さまに向かって、ただただ感謝を込めてお祈りすることで、あなたの中の仏性を取り戻すことができます。

 300年続いてきたご尊像を、未来に向けてさらにお守りするのが私たち住職のお仕事です。そして、だれにとってもこの法華寺が心安らぐ場所となるよう、明日からも毎朝心を込めて、神さまに、仏さまに、お祈りして参ります。

お寺画像
大阪府南河内郡
取要山 法華寺
霊水の湧く寺院 (筧の霊蹟)

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