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まいてら編集部日記

瀬戸内海で死者の記憶について考えた(前編)- 心臓音の美術館

2017.11.30

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瀬戸内海にある心臓音を記録できる美術館

あなたは、自分の心臓音を聴いたことがありますか?

瀬戸内海の豊島(てしま)には、ベネッセの福武財団が運営する「心臓音のアーカイブ」(http://benesse-artsite.jp/art/boltanski.html)という美術館があります。
クリスチャン・ボルタンスキーという現代アーティストのプロジェクトで、世界中の人々の心臓音を記録し、恒久的に保存しています。
美術館では、自分の心臓音を記録できるだけでなく、全世界で5万人を超える心臓音を聴くことができます。

この美術館を訪れた理由は、次のような関心によるものです。

  • お墓などの伝統的な死者(故人)の記憶方法が変化する中、加速度的に進化するテクノロジーが死者の記憶にどのように影響するか
  • 特にお寺というアナログな存在が、デジタル・テクノロジーを今後どのように取り込んでいくか

当日は、豊島で観光ガイドをされている森島丈洋さん(http://teshima.site/)にご案内いただきました。
森島さん曰く、

とある方が心臓音のアーカイブについて、「じゃあ、ここに心臓音をアーカイブしたら、俺の墓は要らねぇな。家族はここに来ればいいし。」とおっしゃってました。

心臓音のアーカイブが聖地化するかは疑問ですが、死生観が多様化する現代では、そう感じる方もいることには素直に納得できます。

光と音で表現される心臓音

さて、いよいよ心臓音の記録です。
ドキドキしながら自分の心臓音を採録しました。(心臓音を録るのにドキドキしちゃいけませんね!笑)
採録は30秒ほどで終了。採録に合わせて次のようなメッセージを保存しました。

38歳3か月目の心臓音。両親、先祖から命をいただき、今まで一瞬も休むことなく、自分を生かし続けてきてくれた心臓と全身の細胞に感謝し、録音します。ありがとう。

採録後は、「ハートルーム」というインスタレーションで自分の心臓音を、光と音で聴きました。
(※ 室内の様子はホームページ写真(http://benesse-artsite.jp/art/boltanski.html)をご覧ください)

ボンッ!ボンッ!という低く重い、時に不規則なビート音
心臓音に合わせてパッ!パッ!と瞬時に点滅する電球の光

心臓音はひたすらリピートし続け、「ハートルーム」には私の命の音がずっと響きました。
自らの命の音に、ただただ身を浸すという不思議な体験。
目と耳を超え、身体の奥深くに命の音がすりこまれてくる感覚がありました。
その他の感覚と思考が湧きあがってきても、瞬時に繰り返す音と光でその感覚は断ち切られ、滅せられていきます。
断続的な音と光というシンプルな装置によって、自らの命の鼓動に強制的に向き合わされる。
鼓動と「対話する」というよりも、ただただ鼓動を「感じる」と言うべきでしょうか。

大自然に回収されていく命の鼓動

「ハートルーム」という不思議な空間から出た後は、「リスニングルーム」で落ち着いて心臓音を聴いてみました。
私の登録番号「26814」で検索。
瀬戸内海の波を見ながら、自分の心臓の鼓動を聴いていると、波間に心臓音が溶け込んでいく感覚になりました。

自分の鼓動音が、波を通じて、大自然に回収されていく。
いつかは自分という生命体も、鼓動音が止まり、火葬されて原子となり、大自然の塵芥に還っていく。

自然と宇宙の営みは、今までもこれからもただただその営みを繰り返すだけなのでしょう。
その永劫に続く時間の中で、喜怒哀楽を繰り返す人間は、お釈迦様の手のひらの孫悟空と同じ存在だと感じます。
ただ音を聴き、瀬戸内の穏やかな波を見ている時間は、私という生命体の命を超えた大きな「いのち」の循環を感じさせられました。

そして、心臓音を聴きながら、死者の記憶方法のあり方についても色々と考えがめぐりました。
次回はその考察を述べたいと思います。

▼ 中編『お墓の現在とこれから』 を読む

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井出悦郎

井出悦郎

1979年生まれ、東京育ち。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、一般社団法人お寺の未来を創業。同社代表理事を務める

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