【特別編】「書」を通して「縁」を表現 – 書デザイナー・寧月さんインタビュー(前編)

2016.11.30

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今回は、『お坊さんと味わう「ことば」の世界』特別編として、この連載にご協力いただいている書デザイナーの寧月(ねいげつ)さんの人物インタビューを掲載します。

このコーナーの題字をはじめ、これまでに、善福寺住職・桂浄薫さんが選ばれた「信をば一念に生まると信じ 行をば一形に励むべし」ということば(記事リンク)や、妙慶院住職・加用雅信さんが選ばれた「選捨」ということば(記事リンク)をお書きくださった寧月さん。彼女の作品のうつくしさの根底には、どこか仏教的な思想が流れているような感触がありました。その感触の大元にあるものを突きとめよう、と、寧月さんの来歴から、人生観、今後の展望まで、とにかくふか~くお聞きしてきましたよ!

お話を伺う中で、「書道」と「仏教」の共通点もどんどん浮き彫りになっていって……。寧月さんファンだけでなく、書や仏教になんとなく興味がある方にも、ぜひご一読いただきたい内容です。

前編と後編に分けて掲載いたします。どうぞ最後までじっくりとおたのしみくださいませ!

寧月(ねいげつ)

1982年生まれ。東京大学教育学部卒業。“「和」はモダンである”をコンセプトに、現代に生きる人々の生活にfitする書作品を創作。旅館やカフェ、お寺などに提供している。大田区池上にて、古民家書塾花紅を運営中。泥んこ遊びが大好きな二児の母。

寧月 Official Website

「書」は、自分と他者に向き合っていく道

――寧月さんの書道教室、とっても雰囲気がよくて。子どもさんたちが、ほんとうにのびのびと書をたのしんでいらっしゃるのが伝わってきました。

ありがとうございます。「のびのび」というのを、ひとつ、キーワードにしてやっているので、とてもうれしいです。どういうときに、自分がいちばん自分らしく、のびのび、やすらかに生きていられるのか、それを子どもたちひとりひとりに探求してもらいたいんですね。書道はそのひとつの手段として考えているんです。

――自分自身と向き合うための道として。

そう。書道って、ほんとうに、自分自身と向き合う作業だと思っていて。自分と、あと他者ですね、その両方と向き合うのが書道なんだよ、っていうお話を、私はよくするんですね。書道ではお手本を見ながら字を書きますよね。でも、「お手本」とひとくちに言っても、すごく歴史のあるものがたくさんあって。そういった伝統あるものを、ひとつ、「他者」として横におきながら字を書くことで、「自分」を重ねていく作業なんですよね、書道って。そうやっていく中で、少しずつ、「自分ってなんなんだろう」ということに気づいていく。それが書道の真髄なんじゃないかな、と思っているんです。自分と他者との対話というのは、人生の永遠のテーマですからね。書道はそのためのひとつのツールになるんじゃないかな、って。

――すごく本質的なところから書道を捉え、そして教えていらっしゃるんですね。

もちろん、書道だけがそのツールなわけじゃないですけれどね。書道が嫌いな子は無理してすることはないし。そこは大事にしたいと思っています。私の教室でも、純粋な書道だけじゃなくて、関連していろいろなことをやっているんですよ。「いろは歌」をみんなで歌って覚えてみたりとか、あと、季節ごとに『枕草子』の一節を覚えて、アート系のワークをみんなでやってみたりとか……。

秋の「をかし」を集めるワークの一例
秋の「をかし」を集めるワークの一例

あとは平仮名の元になった漢字をあてるクイズをしたりとか、十二支を漢字で書いて覚えたりとか、睦月、如月とかの古来の月の名前を覚えたりとか……。そういう、日本人として知っておいて欲しい基礎教養みたいなのを、みんなでたのしく学んでいく場にしていけたらいいなって。

――すごく素敵です。こういう書道教室なら通いたかったなあ。

ありがとうございます。そう思ってもらえたら面白いなって。書道教室って、ほら、ただ真似して書いて終わり、みたいなイメージがあるでしょう。でも、それだと「書道」がたのしいと感じられる前に飽きてしまうから。

とにかく「教育」に興味があるんです

――「書」は、あくまで自分を知っていくための「道」である、と。その手段を、教室の中で、子どもさんたちに、いろいろとご提示されているんですね。寧月さんはもともと教育という分野にご興味があったのでしょうか?

そうですね、それはもうずっと。私はたぶん、とにかく、この人生において、一貫して「教育をやりたい」という人間なんでしょうね。いかに子どもたちがのびのび育っていくための環境をつくっていくか、それだけをずっと考えて生きています。

――大学でも教育を学ばれていたのですか?

大学では教育学部の教育行政学コースに在籍していました。だから、どちらかと言えば制度面の研究をしていたんですね。教育委員会についてとか、あとは不登校児童・生徒のためのフリースクールを学校として認定させることは可能かとか、そういった堅い分野の勉強をしていました。

――大学を卒業されてからは、どういった道を歩まれたのでしょうか?

新卒では旅行会社に入って、教育旅行や修学旅行を担当していました。その期間は、京都や奈良に行ってひたすらお寺を回っていましたね(笑)。そのお仕事も、もちろん、すごくたのしかったんですけれど、体力的に少し大変だったということと、その頃、親友のひとりが他界してしまったこともあり、徐々に、自分で、直に子どもたちになにかを伝えていきたいという気持ちが強まって。じゃあ、私にはどういう手段があるかな、と考えたときに、書道かな、と。学生時代にフリースクールでバイトをしていたときに、子どもにとって表現することの大切さを感じた経験が大きかったのだと思います。それで旅行会社を退職して、派遣社員をしながら、文科省指定の財団法人がやっている書道師範育成コースに通って本格的に書道を習い始めました。そのあと、書をアーティスティックに表現される先生に弟子入りして、自分でも表現をしてみようかな、ということで、2010年に寧月名義でサイトを立ち上げて、古典書道の研究を続けつつ、少しずつ活動を始めて……。今年の春、地元の池上で、念願だった書道教室を開いて、いまに至る、という感じですね。

池上本門寺ほど近くの古民家カフェ「蓮月」での書道教室の様子
池上本門寺ほど近くの古民家カフェ「蓮月」での書道教室の様子

その人がその人らしく生きていくお手伝いをしたい

――大変な意志の強さを感じます。ところで、「寧月」というお名前、すごく素敵ですよね。ここにはどのような意味が込められているのでしょうか?

「寧」という字って、「安寧」という単語にも使われていますけれど、「やすらか」という意味があるんですね。これがすごく気に入って。私自身、ていねいに、やすらかに生きていきたいし、縁ある方々にもそういう風に生きて欲しい。そういう願いを込めて、「寧」という字を選びました。あと、花鳥風月のうちの一字を使いたいな、って。その中でも、いちばん日本人の生活に身近なのは「月」なんじゃないかな、ということで、「寧月」としました。

――なるほど。ご自身が、教育を通して実現されたいことが込められたお名前なんですね。

そうそう。私は教育をやっていきたい人間だけれど、正直な話、子どもの能力を向上させて、社会の経済成長を発展させるための人材を育てて……といった考え方はあまりしていなくて。それよりは、とにかくひとりひとりの心がやすらかであって、その人がその人らしく生きていくお手伝いをしたいな、と思っています。絶対的な安心感の中にあれば、子どもってすごい創造力を発揮すると思っていて。そういう創造性から生まれるあたたかな社会づくりができたらいいな……と。だから、教育と言っても、対象は子どもに限っていないですね。自分自身親になって痛感したのですが、子どもを育てている大人たちの心がやすらかであることの大切さって、すごく大きいと思うので。私の書道教室でも、大人向けのコースを設置しています。子どもでも、大人でも、書道を通して、心の健やかさを養ってもらう、そのきっかけとなれたら嬉しいなって。

→12月2日更新の後編につづきます!

◆『お坊さんと味わう「ことば」の世界』は、毎回、現代の世の中を、軽やかに、そして力強く生きていく上でのヒントとなるような「ことば」をお坊さんにご紹介いただく連載です。これまでに6名のお坊さんにご登場いただいております。十人十色の「ことばの世界」、ぜひ、じっくり味わってくださいませ!
http://mytera.jp/column/kotoba/

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小出遥子

小出遥子

1984年生まれ。新潟県出身。早稲田大学第一文学部日本文学専修卒業。編集プロダクション、美術系専門図書館勤務を経て、現在はフリーランスの編集者・文筆家として、仏教系テキストを中心とした編集・執筆活動を行っている。いのちからはじまる対話の場「Temple」主宰。

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